積極的に出版社へ企画を持ち込んでも、せっかく作成した原稿を出版社に渡しても、一向にデビューの気配が見えてこない。こういう状況が長く続くと、かなりタフな精神の人でも、いささか無力感を覚えてしまいがちとなる。もうダメなんじゃないか、自分は作家に向いていないんじゃないか、別に本業もあるし生活はできるのだから、無理して作家を目指さなくてもよいかもしれない。と、そんな風な考えが頭をよぎることもあるだろう。
実際、軽い気持ちでビジネス書作家を目指したものの、なかなか思うにまかせずいつの間にか作家を目指したことも忘れてしまうという人も多い。だが、何事もあきらめたらそこが終点である。成功の原則は、やはり「継続は力」にある。小さな歩幅でも、歩みを止めなければ前進は続く。少しずつでも前へ進んでいれば、やがて企画について話を聞きたい、原稿があるなら見たい、こういうテーマで書くことができるかという話が、どこからともなく舞い込んでくるようになる。
こうした打診に対して、繰り返し応答を続けていくうちに、そのうちある出版社から、じゃあ一冊やってみましょうかという話になる。そういうものである。それで晴れて作家デビューとなる。作家になろうと思い立ってから作家デビューまで、ラッキーな人なら半年以内で作家デビュー、ラッキーでなくても、あきらめず出版社に働きかけを続けていれば、遅くても4年以内には作家としての目鼻がつくようになる。
あきらめることはない。むしろ、作家としてデビューするために最も大事な資質は、あきらめないことだとさえいえる。
単行本を出すという目標に向かって、地道に努力を重ねてきたコンサルタントがいる。わたしが彼と初めて会ったのは、20年くらい前だったと思う。当時、付き合いのあった経営者から、今度コンサルタントとして独立する男がいるので紹介したいというので会った。経営者自身もビジネス書の作家であり、この時4冊ほど本を出していて、そのうちの2冊がわたしの関わった本である。
経営者は本を出すことで事業に弾みをつけた経験の持ち主でもあるので、同じことを、Sさんという独立したてのコンサルタントにもできないかと、話を持ちかけてきたのである。経営者はSさんの本が出たら、自分の会社でもまとめ買いするからとまで言っていた。会ってみるとSさんは、企業人として実績のある人だったが、コンサルタントしては新人だったので妙な尊大さがみじんもなく、万事にざっくばらんで正直に物を言う人だった。
当時、わたしはまだある出版社に在籍していた。Sさんとしては作家として自分を売り込むチャンスと見たのだろう。本人も、コンサルタントしてやっていくには、著書のひとつやふたつは欲しい。どうすれば本を出せるかと率直に売り込んできた。
しかし、ビジネスの実績があることは十分に認められるものの、彼が活躍してきた業界はニッチである。ニッチな業界のノウハウが果たしてビジネス書として成り立つか、わたしには確信が持てなかった。また、彼が持参してきた業界誌に寄稿した文章を見ても、正直うまい原稿とは言える代物ではなかった。そんなことから、その時はあまり色よい返事ができなかったと記憶している。
ただ、Sさんとはふたりの共通の知り合いである経営者を通じて、その後も交流は断続的に続いていた。彼の出版の意思は変わらなかったが、わたしがあまり色よい返事をしなかったため、専門誌や業界誌に短い文章を書き始めた。いまはだいぶ数を減らしてしまっているが、専門誌や業界誌はビジネス書作家にとっては書くチャンスを提供してくれる貴重な媒体である。Sさんはニッチとはいえ業界では実績のある人なので、専門誌・業界誌は歓迎してくれたようだ。