ビジネス書業界の裏話

電子書籍は作家にとって有利か不利か

2017.08.24 公式 ビジネス書業界の裏話 第38回
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足音静かに迫る電子化

出版の電子化が、時間の問題といわれ続けて久しい。いつかは電子化されると思っていても、具体的な形で現れてこないと、人はなかなか変化を実感できないものだ。しかし、電子化は着々と進行している。書店の棚を見ているだけではわからない。以前にも書いたと思うが、コミックでは電子化のみならず、すでに電子市場の形が見え始めている。文字物の本ではいまだ電子の割合は低いが、それでもわずかずつ増えている。

電子市場は1年の変化のスピードが速い。しかし、文字物出版物の電子化が一気に進むには、まだ技術的に乗り越えなければならい課題があるように見える。記憶は定かではないが、7~8年前の電子書籍は、ページをめくるタイプのものが多かったと思う。いまはスクロールで読み進めていくのが主流だろう。紙の本のページ単位の進行から、スクロールで読み進められるように編集し直したのは、コミックのほうが早かったと思う。コミックは電子化対応も早かったので、電子化のノウハウもかなりの量を蓄積している。

コミックは、すでに紙の本のページを吸い上げて電子化するという原始的な段階から、スマホ、タブレットなど画面のサイズに応じて、セリフの文字の大きさや表示されるコマ数が調整されるなど、大きく一歩も二歩も前に進んでいる。読者は紙に印刷されたものをデジタルで見るのではなく、デジタル用に再編集されたものを見ているのだ。

ITプロバイダーか出版社か

電子コミックが独自の技術を持ち始めているのに対し、文字物の本の電子化にはそれほどの進展は見られない。図解本というのは見開きページを1単位として図と解説を並べて見せる手法だが、スマホの画面には物理的になじまない。ゆえに、図解本の電子化での成功例はまだ見たことがない。

また紙の本の場合、見出しの見せ方も基本的に見開きページ単位で考えているため、スクロールに対応しているとはいいがたい。ただし、このへんの技術的な問題はコミックが数年かけて克服したように、文字物の本もまた克服していくだろうと思う。出版における編集技術、デザイン技術というものは、常に印刷技術と二人三脚だった。そしてリードしていたのは常に印刷技術である。二人三脚の相手が印刷技術からデジタル技術に変わったところで、これまで同様に対応するであろうことは疑いない。

以上は、出版界の現状である。出版の電子化では、出版社といわゆるIT系のプロバイダーのどちらがヘゲモニー(主導権)をとるか注目されてきた。はじめのうち出版社はITプロバイダーにリードされている感があった。だが、どうやらここにきて共存、棲(す)み分けの気配が見えてきた。やや大げさに言えば、出版社に生き残りの道が見えてきたということである。確実に出版社が生き残れると、言い切れるほどの材料があるわけではないが、紙の世界で蓄積した技術をデジタル用にアレンジし始めている現状には希望の光が見える。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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