ビジネス書業界の裏話

ビジネス書作家になれる人がデビューできない3つの理由

2017.07.27 公式 ビジネス書業界の裏話 第36回
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ビジネス書作家を目指す人の数に変化はない

ビジネス書だけではないかもしれないが、新人作家の数が減っている印象がある。80年代後半から90年代、すなわち私が20代~30代の頃、当時在籍していた会社の場合で、月の発刊点数のうち1割以上は新人作家だった。当時、個人的にも毎月2~3人の新人作家と会っていた。そのうち実際にデビューした人は半分くらいだが、今日よりは新人作家を受け入れる門は大きく開かれていたと思う。

当時と現在の違いはどこにあるのか、というテーマはこれまでにも何度か触れてきたし、今後も状況が新しくなるごとに触れていきたいと思うが、今回のテーマはそこではない。ビジネス書作家になり得るだけの経験、知識、見識、オリジナルなノウハウがあり、本人も作家となることを望んでいるにもかかわらず、作家デビューが思うにまかせない人の超えるべき課題について、が今回のテーマである。

今も昔も、ビジネス書作家を目指す人の数に大きな変化はない。ビジネス書作家とはビジネスパーソンの数だけ予備軍がいる。団塊の世代は現役を引退したが、女性や外国人の数がそれを補っている。現在でも女性のビジネス書作家や外国人作家はいるが、その数は今後急速に増えるかもしれない。

作家デビューを阻む隘路(あいろ)

私は本業が出版プロデューサーである。はじめて出版プロデューサーと名乗った時には、何だか正体不明の怪しげな人物になったなあと思ったものだが、最近は出版プロデューサーを名乗る人が増えたので、あまり名称を気にすることはなくなった。出版プロデュースを生業としているため、作家デビューを志す人にはよくお会いする。しかし、1年間にお会いした作家予備軍のうち、実際に作家デビューに至る人の数はわずかだ。それは必ずしも出版界が門を閉ざしていることばかりに原因があるのではない。その原因が、作家本人にあることも珍しくはないのだ。

ビジネス書作家を目指す人は、概ね何らかの一芸を持っている。論理もしっかりしており説得力もある。キャリアも十分だ。作家としての必要条件はきちんと備えている人が多い。だが、それでも作家デビューに至らない人のほうが多いのが実態であろう。作家としての資格は有しているのに、なぜデビューに至らないのか。実力はあるのにチャンスに恵まれないという人は、昔もいたし、今でもいる。その点は変わらない。世の中とは、昔からそういう具合にできているのだろう。

本人に確かな作家としての実力があるのに、思うように作家デビューできない原因の筆頭は「巡り合わせの悪さ」、つまり不運であるということだ。実際、なぜこんなによい素材が今まで埋もれていたのだろうかと思う人には、これまで何人もお会いしてきた。そして彼らのような「埋もれた逸材」に共通することは3つある。そしてその3つの原因が、作家を志しながら、なかなかデビューできない人々に概ね共通する課題だと思う。

乗り越えるべき3つの課題のうち、1つ目は先ほど述べたとおり「巡り合わせ」である。2つ目は「飽きる」という課題だ。そして3つ目が「勇気の不足」である。新人作家がとんとん拍子にデビューするときは、たいていよい巡り合わせに恵まれている。たまたま本を出そうかと考えていたときに、知り合いが出版社の人間を紹介してくれた、偶然、自分が講師を務めるセミナーの参加者に出版社の人間がいた、というのがよくあるよい巡り合せのケースだ。

逆に巡り合せのよくなかったケースというのは、知り合いに出版社を紹介してもらったが、本を出すことを考えておらず準備もしていなかった。セミナーの参加者に出版社の人間がいて本を出さないかと打診されたが、セミナー講師のほうが忙しくて積極的に出版に踏み切れなかったというような具合である。

いくら本人に実力があっても、幸運の女神はそうちょくちょく現れてはくれない。現れたときに用意がないというのは、やはり巡り合わせが悪かったとしか言いようがない。といって、常に準備を整えておくことは難しいし、また準備を整えていても肝心の編集者と出遭うことがなければ、これもまた宝の持ち腐れとなってしまう。巡り合わせのよし悪しは、残念ながら人知の及ばざるところなので、自らの力でどうにかなるというものではない。とりあえず出版の打診があったら、何はともあれ乗ってみるということだろう。それが吉と出るか凶と出るかは、やってみなければわからない。

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プロフィール

ミスターX
ミスターX

ビジネス雑誌出版社、および大手ビジネス書出版社での編集者を経て、現在はフリーの出版プロデューサー。出版社在職中の25年間で500人以上の新人作家を発掘し、800人を超える企業経営者と人脈をつくった実績を持つ。発掘した新人作家のうち、デビュー作が5万部を超えた著者は30人以上、10万部を超えた著者は10人以上、そのほかにも発掘した多くの著者が、現在でもビジネス書籍の第一線で活躍中である。
ビジネス書出版界の全盛期となった時代から現在に至るまで、長くビジネス書づくりに携わってきた経験から、「ビジネス書とは不変の法則を、その時代時代の衣装でくるんで表現するもの」という鉄則が身に染みている。
出版プロデューサーとして独立後は、ビジネス書以外にもジャンルを広げ文芸書、学習参考書を除く多種多様な分野で書籍の出版を手がけ、新人作家のデビュー作、過去に出版実績のある作家の再デビュー作などをプロデュースしている。
また独立後、数10社の大手・中堅出版社からの仕事の依頼を受ける過程で、各社で微妙に異なる企画オーソライズのプロセスや制作スタイル、営業手法などに触れ、改めて出版界の奥の深さを知る。そして、それとともに作家と出版社の相性を考慮したプロデュースを心がけるようになった経緯も。
出版プロデューサーとしての企画の実現率は3割を超え、重版率に至っては5割をキープしているという、伝説のビジネス書編集者である。

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