昨年の3月から始まった当連載も、この第24回目で丸1年を迎えます。そこで今回は、1年間の連載を通じて改めて私が気づいたこと、そして読者の皆さんや選手たちに伝えたいことについてお話ししたいと思います。
自分の考えや思いといったものは、普段からミーティングなどで選手・コーチに話してはいるのですが、「じゅうぶんに伝えられているか」というと、そうではないと感じます。以前にこの連載でも触れた「選手とは一定の距離感を保つべきだ」という私自身のポリシーもありますし、それを抜きにしても、コーチや選手ひとりひとりときちんとコミュニケーションをとろうとすると、どうしても時間が足りないのです。だからこの連載は、読んでくださる読者の皆さんはもちろん、選手・コーチ陣に向けたものでもありました。どこまで読んでくれているかはわかりませんけどね(笑)
それにしても、インタビュー形式で自分の考えを伝えるという体験は、非常に新鮮なものだったと感じます。この企画では、リーダーシップやチームビルディングに関する話題だけでなく、私個人の幼少期や学生時代にもスポットを当てるなど、これまでにない切り口で自身を振り返ることができました。通常、選手やコーチ陣と接する際はここまで込み入った話はなかなかしませんから、自分自身も改めて気づくことが非常に多かったと思いますね。このような機会をいただけたことに、とても感謝しています。
さて、我々の属するプロ野球界というのは、外から見ればとても華々しい世界に映るようです。大勢のファンの方々に囲まれ、相応に高い収入をいただき、スター選手ともなればその一挙手一投足がメディアから注目を集める。そのような点から、華やかなイメージを持たれるのでしょう。しかし実際のところは、一般の企業や組織とさほど変わらない世界だと思います。個人がどれほど輝かしい活躍を見せても、チームとして勝てなければ意味がない。個々人ががむしゃらに自身の成果を追いかけるのではなく、いかに組織に貢献するか、あるいは求められる役割をまっとうすべきか……一般的な企業に見られるこうした価値観は、そのまま、野球界にも当てはまるはずです。
どんな組織、チームであれ、結局は個々人の集まり。その集団の中で、どのように、人間関係を構築していくのか、個人としての役割を果たしていくのか、人間的魅力を磨いていくか、そうしたことがとても重要なんですね。選手たちには、野球が上手いだけの人ではなく、良識をそなえた、深みのある人間になってもらいたいと思っています。
私のこうした考え方にもっとも影響を与えてくれたのは、野村(克)さんです。野村さんからは、野球のことはもちろん、「人としてどうあるべきか」をいつも問われました。以前にもお話ししましたが、「真中満-野球=ゼロ、になるな」とよく言われたものです。野球以外のものごとにもしっかり触れて、外の世界にも目を向けられる人間になれ、ということですね。野村さんの指導のおかげで、野球に関してもそれ以外のことについても、深いところまで掘り下げて考えるクセがつきました。今ではすごく感謝していますよ。まあ、あまり持ち上げるのはやめておきましょう。野村さんも教え子からの感謝とか尊敬とか、そういったことを欲する人ではありませんからね(笑)
現役の選手たちに一番伝えたいのは、「今を一生懸命にやりきってほしい」ということ。引退の際、一点の悔いもなく辞めていく選手などいません。たとえ2000本安打を達成しても、200勝を挙げても、引退時には「自分はもっとやれたはずだ」と言って去っていくものです。
このように「結果」に関しては悔いが残るのも仕方のないことかもしれませんが、「やってきたこと」については、選手たちにはそんな思いを抱いてほしくない。それが監督としての正直な思いです。「もっと打てたのに」「投げられたのに」という悔しさよりも、「でもできる努力はやった、やり尽くしたんだからしょうがない」と感じてもらいたいですね。ひとつの世界でとことんやりきったという自信は、彼らが次に進む世界でも、必ず生きてくる。現役時代に全身全霊で打ち込んだ選手の多くは、プロとして大きな結果が出せなかったとしても、その後のキャリアで活躍しています。そのカギは「今を一生懸命やりきる」ことなんです。現役のプレイヤーたちには、この点を肝に銘じて、どこに出ても言い訳をしない、そして後悔しない人生を送ってほしいと思います。