真中流マネジメント

1年間の連載を振り返って――監督として伝えたいこと

2017.03.10 公式 真中流マネジメント 第24回

夢や目標は“現在”に没頭することで自然と見えてくる

受け身でいるのではなく自らできることに取り組もう
具体的な行動の積み重ねが「今」に集中できる環境をもたらす

小学校の作文の授業などで「将来の夢」について書くことがありますね。皆さんも一度は書かれたのではないかと思います。私ももちろん経験がありますが、ああいった授業では、子供たちは往々にして「むりやり夢をひねり出す」ことがあります。でも、そんな必要はないと思うんですね。世の中にどんな仕事があって、自分がどのような可能性を秘めていて、どの世界なら自身の能力を発揮できるのか……そういうことがわからないまま、「将来はこんなふうになりたい」なんて言わなくてもいい。子供の夢というと野球やサッカーなど「スポーツ選手になる」というものが多いのかもしれませんが、たとえばそうした競技に取り組んでいなくても、いま目の前にある勉強や部活に一生懸命打ち込むことがとても大切だと思うんです。そうする中でやりたいことが見つかり、そこから、いつの間にか夢や目標が生まれてくるというのが自然な流れではないでしょうか。

これは何も子供だけに言えることではありません。繰り返しになりますが、野球選手も、目の前のことに没頭すべきなのです。大切なのは必死で取り組んだ「過程」であり、「結果」は、なるようにしかなりませんから。試合の勝ち負けは“時の運”によるところもあるでしょう。自分の努力でコントロールできるのは過程だけなのです。だから、眼前のことのみに最善を尽くす。その結果どうなろうと、うろたえることなく次の機会を見すえ、準備し、また前に進む。それでいいのです。

とはいえ、「目の前のことに集中する」というのは決して簡単ではありません。集中をはばむものがあちこちにありますからね。一例をあげると、将来への不安です。たとえば現在2軍にいて、なかなか思うような活躍ができず、1軍に上がれないまま現役引退の可能性が見えている選手がいるとします。もし引退となれば別の、多くは未経験のキャリアへ方向転換する必要があるため、彼はよりいっそう現役のプロ選手として1軍を目指さなければなりません。しかしトレーニングに打ち込もうとしても、頭には常に未来への不安があるわけですから、今ひとつ没頭できない。その結果、2軍で目立った実績を出すことが叶わない、という悪循環に陥るかもしれません。

今お話ししたのはあくまで一例ですが、こうした状況に苦しむ選手は実は少なくないのではないかと思います。この、「引退後のセカンドキャリア」という問題は、野球界を含む全アスリート界の重要な課題でもあります。現役のプレイヤーには、「辞めたあとのキャリアをどうしようか」などと心配を抱えてほしくないですし、現在に集中できる環境を整えてあげるべきです。こうした環境整備には、現役選手以外の、球団やOB、あるいはその他一般企業など多くの関係者の理解と協力が必要でしょう。

ただ、そうした変化の実現には時間がかかりますから、選手も、待つだけの受け身ではいけません。やはり自ら、できることに早めに取り組んでおくべきでしょう。たとえば本を読んだり人の話を聞いたりして知見を広げたり、一度野球を離れてじっくり思考し、自分の強みや特性などについて自己分析を深めておくなど、具体的に行動をする。そうしたことの積み重ねが、将来への不安の払拭につながり、結果的に「今」に集中できる環境をもたらしてくれるのだと思います。

さて、今回の第24回をもちまして、私の連載はいったん終了となります。1年もの間ご愛読いただき、本当にありがとうございました。といっても、実は来月からまた新連載がスタートする予定ですので、引きつづきお楽しみいただければと思います。

そして今シーズンも、東京ヤクルトスワローズは一丸となってV奪還を狙っていく所存です。どうか本年も応援よろしくお願いいたします。

取材協力:高森勇旗

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プロフィール

真中満
真中満

1971年栃木県大田原市出身、宇都宮学園高等学校を経て日本大学卒業後1992年にドラフト3位で東京ヤクルトスワローズに入団。
2001年は打率3割を超えリーグ優勝、日本一に貢献。2008年現役を引退。
2015年東京ヤクルトスワローズ監督就任1年目にして2年連続最下位だったチームをセ・リーグ優勝に導く。
2017年シーズン最終戦をもって監督を退任。

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