今回も引き続き、2016年の総括をしていきましょう。前回はチーム全体にフォーカスしましたが、第22回目となる今回は、個々の選手にスポットを当ててお話ししたいと思います。
昨シーズン、野手ではやはり山田(哲)の活躍が素晴らしかったですね。前年にトリプルスリーを達成しているため他球団のマークが厳しく、世間の注目も高まりプレッシャーが増す中で、期待以上の力を発揮してくれました。これはなかなかできることではありません。
山田の活躍の要因は、「打つ」「走る」という身体能力の高さもさることながら、そのメンタリティの強さが大きいのではないかと考えます。切り替えがとても上手なんですね。しんどい局面でも、しっかりと自分の精神・感情をコントロールすることができる。たいしたものだと思いますよ。
山田のことは、彼が入団した2011年――私が2軍監督だった頃から間近で見てきました。当時はよく個別に話をしたものです。1年目、彼はショートを守っていましたが、守備に関しては、乱暴に言えば“雑”なところがあった。プロ野球選手は皆、自分や家族の生活を賭けてプレーしています。たとえば2軍のピッチャーであれば「この試合で結果を出したら1軍に上がれるかもしれない」という気持ちでマウンドに立つわけです。それなのに野手の守備の詰めが甘いと、捕球して当然のボールを捕りそこない、失点、ひいてはピッチャーの勝敗にも影響する可能性がある。「自分のプレーが、周りの選手の成績、つまり収入や生活に影響をおよぼす」といういわば“プロとしての心得”について、彼にくりかえし伝えたのをよく覚えていますね。
当時の山田に関して強く印象に残っているのは、その“図太さ”です。私が1軍監督に就任する前年の秋口ですが、スポーツ新聞などで「次の1軍監督は真中か?」という主旨の記事が流れたんです。こうなると不思議なもので、同じチームの選手やコーチ、首脳陣さえも、そのことに触れてこないんですね。皆、気を遣ってくれたのだと思います。
しかしそういう雰囲気の中で、弱冠22歳の山田だけはさらりと「次、(1軍)監督やるんですか?」と聞いてきました。その聞き方がまた非常に自然なんです。あれだけ周囲が神経質になっている状況でそんなふうに振るまえるというのは、すごいことだと思いますね。このエピソードは、彼のいい意味での図々しさ、メンタリティの強さを象徴していると感じます。そんな山田には来年も、中心メンバーとしてチームを引っ張っていってもらいたいと思っています。