他の選手も見ていきましょう。昨シーズン、めざましい成長を遂げた1人に、捕手の西田(明)がいます。キャッチャーの2番手というのは、他のポジションの2番手と違ってほとんど試合に出られないのですが、そんな中で彼は昨年、起用するたびしっかり結果を出してくれました。西田は捕手としてレギュラーの中村(悠)と比べてもそこまで見劣りしないレベルになりつつあり、おかげでチームでの起用・戦術にも幅が出てきました。これはチームとして非常に好ましいことですね。今後は「チームの勝利のために、キャッチャーとして自分に何ができるか」という視点を高めていけば、レギュラーの座も見えてくると思います。
ショートの西浦(直)、谷内(亮)といった若手にも期待を寄せていますね。現在このポジションには経験豊富な大引(啓)がいるものの、チームとしては若い選手にも台頭してもらい、層を厚くしたいという思いがあります。ショートは、守備はもちろんのこと、野手全体の動きの把握やピッチャーのケアなども求められる、特殊なポジションです。そのためどうしても一定の経験や資質が必要になるのですが、西浦・谷内は相応の素質を持っていると思いますね。今後は守備・打撃といったプレーそのものだけでなく、チームをまとめ、ケアするという視座に立って考えることで、さらなる成長を実現できるものと信じています。
最後はピッチャーです。このポジションで昨年もっとも印象的な活躍を見せてくれたのは秋吉(亮)でした。前年に続いて、年間60試合超を投げてくれましたね。それだけでもすごいことなのに、あれほど高いパフォーマンスを維持できるのは驚きです。彼はシーズン半ばからクローザーに回りましたが、それにより調整や準備がしやすくなったこともポジティブに作用したのかもしれません。
秋吉は昨シーズン、いつ、どんな場面で起用しても顔色ひとつ変えずに対応してくれました。監督として非常に頼もしく思う反面、つい甘えすぎてしまうところもあり、その点は自戒しなければとも思っています。
彼の活躍を可能にしたのも、山田と同様、強靭なフィジカル、そしてメンタリティでしょう。フィジカルに関しては、「肩・肘が痛い」といった言葉を漏らすことがまずないんです。また精神面でも、脆さや弱さを感じさせません。年間60試合以上も投げていますから、さすがにしんどそうなシーンも何度かありましたが、それでもシーズンを通じての印象は「心身とも丈夫」というもの。まあ、どんな場面でも表情が変わらないのは、精神的タフネスというよりは、ただぼーっとしているだけかもしれませんが(笑)
投手陣でも期待の若手はいますよ。原(樹)です。ドラフト1位で入ってきた選手ですからいい素質を持っていますし、昨年は貴重な経験も積むことができたはずです。ただ、本人としては思ったような成績が出せず、自身に対する不満が残ったシーズンだったと思います。プロの壁を、越えられそうでなかなか越えられない……そんな苦しい状況にあったことでしょう。
彼が昨シーズンに勝ちきれなかった要因の一つは、“シュート”に頼りすぎたこと。シュートという球種は、ある意味では非常に「楽」なんです。一球で勝負を決められますからね。でも、アウトコースのストレートが決まってこそ、シュートは活きてくるんです。そんな“基本”を、監督の私をはじめ首脳陣も気づかせてあげられませんでした。この点はおおいに反省しています。原の持つシュートという武器の素晴らしさに、知らずのうちに頼ってしまっていたのだと思いますね。でも嬉しいことに、シュート偏重という課題に、今は彼自身が気づいている。それは、シーズン終了後の秋季キャンプの取り組み方を見れば明らかです。自分なりに試行錯誤しながらさまざまな球種にトライするその姿勢は、気迫に満ちていて、来シーズンの活躍を予感させるのに十分なものでしたよ。
さて今回は、昨シーズンの振り返りというテーマで特定の選手たちを取り上げました。もちろん他にも、チームの勝利に欠くことのできない選手は大勢います。ここで全員について触れることができないのが残念なくらいです。それだけ、チームが充実してきているということでしょう。今あらためて思いますが、各選手がそれぞれ任された役割をまっとうすれば、来シーズンは首位争いに加わることもできるはずです。現在のヤクルトスワローズは、それだけの力を持ったチームであると思います。
取材協力:高森勇旗