前回は、プロの世界がようやく見えてきた大学野球時代を中心にお話ししました。第16回目となる今回は、大学を卒業し、晴れてプロ野球入りを果たした「プロ1年目」の頃を振り返ってみたいと思います。
私は大学4年生のときにドラフト指名を受けてヤクルトに入団したのですが、当時のドラフトというのは、指名される可能性のあるアマチュア選手に対して、事前に各球団から「調査書」が送られてくるというものでした。選手はこの書類に必要事項を記入して球団に提出し、ドラフト当日の指名を待つ、というわけです。ありがたいことに、私はこの調査書をヤクルト含め10球団からいただきました。寮の自室で用紙に記入しながら、「これでプロになれるかもしれない」と胸が高鳴ったのを、今でも非常によく覚えていますね。
そして迎えたドラフト当日、私は学生寮の食堂にいました。駆けつけた大勢の報道陣と、まるで記者会見のようにテーブルを挟んで向かい合いながら、テレビのドラフト中継を観ていたんです。隣の席には、同じく指名を待つ同級生のピッチャー・門奈(哲)もいました。それまでに経験したことのない雰囲気でさすがに緊張しましたが、最終的に2人とも無事指名され、門奈はジャイアンツに、私はヤクルトに入団が決まります。ホッとしましたね。もちろん喜びもありましたが、それ以上に、進む道が決まったことに安堵しました。入団先が、憧れのヤクルトだったというのも大きかったと思います。大学野球の4年間、ずっと神宮球場でプレーしていたこともあって、この頃にはすっかりヤクルトファンになっていましたから。
さて、こうして無事にドラフトを終えたわけですが、その翌日には「プロとアマの違い」を実感することになります。それは、世間の「注目度」です。大学野球では、どんなに活躍しても、新聞の一面を飾るようなことはほとんどありません。しかし、ドラフト指名を受けて「来年からプロ」の身となった途端、ドラフト結果と合わせて、自分の名前がスポーツ紙をはじめ全国紙に掲載されたんですね。そんなこともあり、徐々に、自分を取り巻く周囲の環境が変わっていったように思います。とはいえ、それで浮き足立ったりしないよう、ことあるごとに自分の気を引き締めていました。