こんにちは。東京ヤクルトスワローズの一軍投手コーチ・伊藤智仁です。2003年に現役を引退してから最初の1年は育成コーチでしたが、それ以降はずっと投手コーチを務めて今年で14年目を迎えています。去年までのブルペン担当を経て、今年からは真中監督と相談しながら先発投手の決定、継投の判断など、投手起用に関するほとんどのことを任されています。
僕と真中監督はともに1992年のドラフト会議でヤクルトに指名されたことから交流が始まりました。70年と71年の早生まれの同級生ということで、入団当初から気心が知れた間柄でした。当時は、まさか「監督とコーチ」として、後にともに協力する関係になるとは想像もしていませんでした。
現役時代の真中監督は明るいムードメーカーでしたが、監督に就任後は努めて感情を表に出さずに冷静に振舞い、選手たちとは一線を引いているように思えます。なぜなら、組織のトップである監督とは、部下である選手の生活を預かっているからです。特定の選手と仲良くなったり、疎遠になったりすると、どうしても選手起用に関する不満がチームに充満することになります。それを防ぐためには、あえて距離を置く。この点は、現役時代と監督になってからの彼とで、目に見える大きな変化でした。
投手コーチから見た「監督・真中満」の大きな特徴は「投手について貪欲に勉強する監督」という印象です。これまで、多くの監督の下でコーチを務めてきましたが、ここまで投手のことを考え、勉強している監督はいませんでした。
たとえば、「どのようにコンディションを整えればいいのか?」とか、「KOされてしまったときにはどのようなフォローをすればいいのか?」など、投手のことを体調面、心情面の両方からアプローチして、ケアしようと努力しています。この姿勢は、彼が二軍監督だった頃から、現在に至るまでずっと変わっていません。
長いペナントレース。先発ローテーションを確立し、リリーフ陣を整備し、過度な負担をかけることなく、着実に戦っていくことが理想です。しかし、あくまでも理想は理想であって、誰かが故障したり、思わぬ不振にあえいでしまったり、予期せぬ事態に陥ることは多々あります。むしろ、「故障者が出る」「選手は不振の時期もある」ということは指揮官たるもの、常に想定しています。なぜなら、それこそリスクヘッジだからです。
長丁場のペナントレースにおいて、目先の一勝にこだわることで、リリーフ陣に想定以上の負荷をかけると、最終的にシーズン終盤の大事な場面でそのしわ寄せに苦しむことになります。そこで、チームではリリーフ陣に対しては「三連投以上はさせない」とか、「最低、中五日は間隔をあけて登板させる」など、起用に関しての基本ルールを作っています。もちろん、緊急事態があって、石川雅規が中四日で投げた試合もありますし、リリーフ投手に連投を強いたこともあります。
それでも、真中監督は決して無茶な投手起用をすることはありませんし、投手コーチである僕の意思を最大限に尊重してくれます。目先の勝利になりふり構わずこだわりたい思いを持ちながら、それでも一年間をトータルでマネジメントできる監督、それが監督・真中満だと、僕は思っています。