スタッフを叱らなければならないとき、気をつけたいことがあります。それは、自尊心を傷つけない表現をするということです。よかれと思って叱っても、自尊心を傷つけられた相手は感情的になり、リーダーに反感を抱きます。これでは、「育てるために叱る」という本来の目的を果たすことができません。
私はよく「あなたらしくない」という言い方をしました。例えば、「私は普段からあなたに大きな期待をしている。きっと普通にやっていればできたはずなのに、どうしたんだろう。よほど相手の対応が悪かったのかな? あなたらしくないね」というような叱り方です。
また、やっかいな問題のときには、「あなたでさえ」という言い方を用いました。「あなたでさえできなかったのだから、よほど大変な仕事だったんだろうね」と問いかけ、詳しい話を聞くのです。
しかし、本人がずるいやり方でごまかそうとしたときや、適当に済ませようと手を抜いたりしたとき、または本人が悪いことをしたという自覚を持っていないとき、そして何より、人として間違った行動をとったときには、大きな声で、真正面から怒鳴りつけました。こういった場合ははっきり間違いを正さなければなりません。そうしないと、「悪貨は良貨を駆逐する」で、周りに悪影響を及ぼす危険性があるからです。
こんなことは年に一度あるかないかでしたが、ときには声を荒げて怒りを表すことも必要なのです。
私は日産自動車に入社して3年目に、突然販売会社への出向を命じられ、車のセールスマンとして働くことになりました。正直、自分はあくまでもメーカーに入社したつもりなのに、どうしてセールスなどしなければいけないのかと、この辞令には腐りました。しかし、セールスの優秀者には社長賞の表彰があることを知りました。本社勤務では、社長賞を手にできる機会はなかなかありません。そこで私は、絶対に社長賞をとると決意したのです。
それから19ヵ月間、足を棒にして歩き回りました。1日100軒の訪問をすることを自分に課して、飛び込み営業を続けました。500軒飛び込んで、ようやく1軒の見込み客に会えるかどうかという厳しい環境でした。新婚にもかかわらず、5月の配属から3ヵ月間は1日も休まず、土日含めて働きました。飛び込み営業しながら、顔写真入りの名刺とチラシを、ひたすらポストに入れる毎日です。一番厳しいといわれる出向先の所長から、「そろそろ休めや」と言われるほど頑張りました。
その結果、前任者の9倍、粗利益2位、かつ歴代出向者の販売記録を塗り替えるほどの結果を残しました。そして、念願の社長賞も獲得したのです。このとき何よりも嬉しかったのは、出向先の社長の言葉でした。全従業員の前で次のようにほめていただいたのです。
「出向期間中、岩田は2万枚の名刺を配った。誰よりも努力した」と。
結果がすべてであるセールスの現場で、結果だけでなく、仕事の過程や努力を褒めてくれたことにとても感動しました。リーダーは褒め方も工夫をしなければなりません。
部下の評価は、リーダーのとても大切な仕事ですが、リーダーだけの目で、メンバーの仕事を評価するのは困難です。神様でもない限り、人が人を評価することは、間違いがつきものです。
実際、上にはいい顔を見せながら、下にはひどい対応をする人もいます。それに気づいてから私は、評価する際に、当人だけでなくその人の部下や仕事上のつながりがある人の話を聞くことにしました。例えば、自分の秘書に「あの人の評判はどう?」と聞くこともありました。
あるとき、秘書から中途採用の本部長に関する悪い情報を耳にしました。私はその人にとても期待して採用したのですが、机の上に足を投げ出し、部下にタバコを買いに行かせていたようでした。人事に調べてもらうと、経歴詐称や他にも問題が多いことが分かり、辞めてもらうことにしました。
リーダーが上から見る評価と、部下が下から見る評価、仕事で関連している人たちが横から見る評価は、違っていることもあります。公正な評価のためには、できるだけ多くの情報を集めることがとても大切なのです。
(次回に続く)