部下に仕事を頼むとき、「これをやっておいて」では不十分です。これでは部下は「頼まれ仕事」と受け止めてしまうからです。
例えば、資料作成を依頼する場合、何のためにそれが必要なのか、どのような場で使うのか(社内会議、役員会でのプレゼンなど)を伝えます。「What(何を)」ではなく「Why(なぜ)」をきちんと伝えるということです。 それだけで、スタッフの仕事に対するモチベーションは大きく変わります。仕事の背景が分かれば、全体の流れの中で意義のある作業だということが分かります。それを自分の仕事として受け止め、創意工夫につながるのです。
私は日産自動車に勤務していた時代から、人に仕事を何かを頼むとき、「これは部長会の資料として必要なので」「部長から求められているのはこれとこれ」と、できるだけ背景となぜ必要なのかの説明をするようにしていました。そうしないと、ブレスト用の資料なのに、必要のない細かい部分にこだわって期日に間に合わない、取締役会資料のように、高い精度が求められるのに単純な計算ミスが出るといった問題が起こります。
こうしたミスは、スタッフの責任ではありません。きちんと仕事の目的を伝えていなかったリーダーの責任です。仕事の背景をきちんと説明しておけば、「関連したあの資料もつけておきました」などと、気を回してプラスαの工夫をして仕事をしてくれます。背景を伝えることは、スタッフに考える機会を与え、成長を促すことにもつながるのです。
「これはどうしましょう」と、スタッフがリーダーに意思決定を求めてくることがあります。私はこれを絶好の部下育成のチャンスと捉え、次のように聞き返します。「で、あなたはどう思いますか?」「で、あなたならどうしますか?」
このように聞き返すと、スタッフは懸命に考えて、自分の意見を言おうとします。最初のうちは見当違いの返事しか返ってこなくても、そのうちに、「これは、こうすべきだと思いますが、いかがでしょうか」と、自分で考えてから資料を持ってくるようになります。
スタッフに意思決定を求められ、答えは「ゴー」だと分かっていても、持ってきた資料に不備があった場合や、詰めが甘いと感じたときは、あえてやり直しを命じることもありました。資料を戻されたメンバーは、次回は了解をもらおうと懸命に考えます。考えることが、最高の勉強になります。
会議の場で、簡単な数字のミスが発覚し、その会議を中断、延期したこともあります。私にその担当者を責める気持ちはなく、担当者の上司が事前にきちんとチェックしていなかったことを責めました。そして、報告するのは担当者でも構わないが、説明責任は上司がちゃんと果たすべきだと叱りました。
数カ月後の同じ会議で、同じようなミスが見つかったとき、報告者の上司がすぐさま発言しました。「責任を持って自分がやり直しをさせます。申し訳ありません」と。そのときは、もう私が指摘する必要はありませんでした。このように、いくら部下が行った仕事でも、上司は自分の仕事として責任をもってもらいたいと思います。
リーダーは多くの部下から、たくさんの報告を受ける立場にいます。「問題が起きたのではないだろうか」というリーダーはいつも不安を抱いています。私もそうでした。
例えば、報告書の入った袋を持った人事部の社員がきて、「お忙しいところ恐れいります。ちょっとご報告があります……」とはじめられると、「誰かが不祥事でも起こしたのか」とドキドキします。しばらく話を聞いたあと、「組織改定についての報告書をお持ちしたので、ご説明したいのですが」と言われ、はじめてホッと胸をなでおろす、というようなこともありました。
最初に「組織改定のご報告ですが……」と伝えてもらえば、「今緊急に処理しなければいけないことがあるので、午後3時からならゆっくり聞くよ」というような対応ができます。「現場で事故が起きました」と言われれば、何よりも優先して詳細を聞かなければなりません。場合によってはすぐ関係者を集めることもできます。
メールの連絡も同様です。長々とあいさつを書き連ね、添付ファイルがたくさん付いているメールをもらうと、何を伝えたいのか、どれが必要な情報なのか、ファイルを全部開くまで判断できません。相手がリーダーだからといって、むやみに丁寧に書く必要はありません。まず結論を伝え、必要最小限の説明があれば十分です。特に案件名でメールの内容がわかるようにすべきです。
「結論を先に伝える」というルールを徹底することで、メンバーの報告スキルが向上し、チーム内のコミュニケーションは格段によくなるのです。
(次回に続く)