声の大きなカリスマ型のリーダーの下では、部下が萎縮し、自分で考えられずに、言われた通りに動くようになりがちです。私自身はカリスマ型ではないので、「オレについてこい」ではなく、「みんなで一緒にやっていこう」というスタイルでした。いいろいろなビジネス戦略に関しても、できるだけ皆の声を聞くようにして、一緒になって考えました。
メンバーはともに目標に向かっていく仲間です。話を聞き、一緒に考えることで、押しつけられた仕事ではなく、自分の仕事だという自覚を強く持つようになります。
ただし、メンバーからはなかなか意見を出しにくいものですから、リーダーの側からメンバーに歩み寄り、「あなたの意見を聞かせてくれ」と声をかけるべきだと思います。
この姿勢は、会議の場でも必要です。議長であるリーダーが延々と持論を述べると、メンバーはただ聞いているだけで、リーダーの出した結論にうなずくだけの会議になってしまいます。会議の目的のひとつは、多様な意見をぶつけ合ってよりよい方法を導き出し、アイデアを生み出すことです。
私は、自分の意見を言う前に、必ずメンバーから意見を聞くようにしていました。できるだけ若い社員から指名します。またメンバーの発言は、できるだけメモを取るようにしました。「君たちの意見を、しっかり聴いている」というメッセージにもなるからです。
例えば私は、店長さんを集めてお話しするとき「みんなはどんな情報が欲しいのだろう」「社長の私からどんなことを聞きたいのだろう」と、相手の立場になって話すように心がけていました。さらに、相手が普段使っているような分かりやすい言葉使いを心がけました。
また、皆が覚えやすいようなキャッチフレーズをよく作りました。
ザ・ボディショップでは、採用や教育活動のキャッチフレーズとして「アニータ100人計画」というキャッチフレーズを作りました。アニータとは、ザ・ボディショップの創業者であるアニータ・ロディックのことです。彼女のように楽しく、情熱を持ってお客さまに接するスタッフが100人いれば、売り上げはきっと倍増するだろうと考えたからです。
採用のときはアニータをイメージし、社員教育でも、「どうすればアニータのような人を育てられるか」を考えてもらいたいと思っていました。「化粧品事業を通じて社会変革をしていく」という、ザ・ボディショップのミッションに共感し、アニータの人間性を愛している社員がたくさんいたので、とても分かりやすく、覚えやすいフレーズでした。
また、「お客さまを大切な友人のようにお迎えしよう」」というフレーズでも訴えかけました。そして、それまで万引き対策として設置してあった監視カメラを撤去しました。「大切な友人」をお迎えする店で、友人を監視するのはおかしいと考えたからです。
いろいろな懸念の声もありましたが、万引きは増えるどころか減少しました。友人を迎えるという意識が浸透し、店内の目配りが行き届くようになった結果だと思います。
相手の心にしっかり届く「言葉」は、想像以上の力を発揮するのです。
大切なメッセージを発するとき、「伝えた」だけでは意味がありません。
相手にはっきりと「伝わって」、さらに「行動に移してもらう」ことが重要です。
コミュニケーションは質と量で考えるべきですが、質の高い方法は、一対一で相手がきちんと理解するまで話すことです。実際その時間を作ることはなかなか難しいでしょう。
ですから、メンバーが集まる機会に、何度でも繰り返して、同じことを話す必要があります。「またその話か」と思われても、本当に重要なことは、繰り返し伝えるべきだと思います。
ザ・ボディショップ時代には、全店舗のスタッフにメッセージが伝わるように、月曜朝の朝礼の内容を文字(約3000文字)に落とし込み、マネジメントレター(社長からの手紙)として全員に配信しました。そのときどきに考えたこと、会社の業績、気がついたこと、改善すべきことなどを書き、スタッフの元気が出るような、励ましのメッセージを添えて送るのです。
月曜日の朝のレターですから、日曜日の夜はいつも遅くまでPCに向かって原稿を書いていました。毎週の作業は大変でしたが、ザ・ボディショップでは4年間毎週、スターバックスでは月に1・2回のペースで2年間、この作業を続けました。
そのときのレターをいまだにプリントアウトして、手帳に挟んで持っていてくれる人もいます。大変苦労はしましたが、自分の思いや会社の方向性を伝えることができて、本当によかったと今でも思っています。
伝えたいことを文字にすれば、繰り返し読んでもらえます。何度でも語りかけるツールとして、文字には大きな力があると思います。
(次回に続く)