意思決定は、リーダーの重要な仕事です。もっとも大切な仕事といっていいかもしれません。行き先をどこにするのか? 右へ行くのか、左へ行くのか? 新規投資をするのか、しないのか? 値下げ要求を受けるのか、受けないのか? どんな人を採用して、誰を昇格させるべきか? などなど、毎日の仕事で数多くの判断と意思決定を迫られます。
意思決定する際、私が心がけていたのは、「前向きなチャレンジであれば、やってみる」ということでした。なぜなら、たとえ失敗しても、その経験から学ぶものがあると考えたからです。人生においても「やらなかった後悔」と、「やったうえでの後悔」を比較したとき、後者のほうが遥かにプラスになります。「やらなかった後悔」は一生続きますが、やった後悔は一時的だからです。 やらなければ金がかからない。手間もいらない。失敗もない。確かにその通りですが、これではチャレンジ精神あふれる組織風土は生まれません。そのためリーダーは前向きな失敗は容認するようにしなければなりません。もし厳しく叱責すると、メンバーは新しい提案をしなくなり、チームの活力は失われていきます。
ただし、失敗したときの損失が許容範囲を越え、会社の屋台骨を揺るがすような、リスクが大きいチャレンジは、するべきではないと思います。会社の基盤がしっかりすればするほど、取れるリスクも大きくなってきます。リーダーは、どこまでの損失なら耐えられるかを念頭に置いたうえで、失敗を恐れず挑戦するべきです。
通常、危機的状況では、リーダーの意思決定にはスピードが要求されます。しかし、もし時間が許されるのなら、十分な情報がないままに即断即決するのは危険です。自信を持って意思決定する自信が持てないときは、決定のタイミングを先延ばしにする。つまり、「今は決定しない」という意思決定をすることも必要です。そして、意思決定すべき期限を確認し、判断に必要な事実(=一次情報)をできるだけ多く集めます。納得がいくまで事実を集め続け、最後の最後まで粘って、腹を決めるのです。その方が集まる情報が多く、正しい意思決定ができる確率が増すのです。
情報を集める時間があまりにもないとき、私はその状況を一番分かっていて、かつ信用できる人に、直接聞きに行くことにしていました。「あなたはどのように考えるのか。責任は私が取るから、あなたの意見を聞かせてほしい」と単刀直入に尋ねました。現場の直接の担当者のところには、「本当は何が起きているのか」「なぜそうなったのか」という事実が集まっています。そうして事実を集めていくと、場合によっては判断が変わることがあります。「朝令暮改」といわれることを恐れてはいけません。大切なのは、いかに正しい意思決定をするかということなのです。
リーダーとしての役職が上がっていくと、権限も大きくなってきます。使えるお金が増え、部下が増え、組織に与える影響力は増していきます。
ここで問われるのは人間性です。人は権力にすり寄ってきます。いろいろな誘惑を退け、不正な行いを避ける勇気、人間として正しい良心を持ち続けられるかどうかが問われます。自分の役職が上がったからといって、自分自身が偉くなったような勘違いをしてはなりません。役職が上がるということは、責任が大きくなることです。それに対して「畏(おそ)れ」を持たなければなりません。リーダーの行動は、たくさんの人が見ています。
「いま自分がやろうとしていることを、自分の子供に話せるかどうか?」
こういったことを、常に自分に問い続けなればなりません。
人間性は、日頃の言動の中にも出てきます。例えば、人間性の高い人は決して悪口や自慢話はしません。会社や人の悪口は、聞いていて気持ちのよいものではありません。悪口を聞いている人は、「この人は他のところできっと自分の悪口を言っているだろう」と思うでしょう。
自慢話も同様です。自分の体験を謙虚な気持ちで淡々と事実を語る場合には、人生の教訓として受け止められることもあります。しかし、「どうだ、すごいだろう」という意識があからさまに見えると、聞いている方はうんざりします。リーダーとして実績を上げていれば、自ずと必ず誰かが見ています。自慢話などする必要はありません。自分はまだまだという謙虚さを、リーダーは偉くなっても持ち続けなければなりません。
(次回に続く)