リーダーシップの身につけ方

ミッションを掲げてチームを引っ張る

2015.12.28 公式 リーダーシップの身につけ方 第6回

企業は何のためにあるのか

企業の目的は「利益をあげること」だといわれます。100人の経営者に「企業の目的な何か?」と聞けば、99人の経営者は「利益」だと答えます。私は、それは違っているのではないかと思っています。私はそれぞれの企業に存在理由(=ミッション)があって、その実現のために企業は存在し、そのための手段として利益が必要だと思っています。企業が継続するためには、確かに利益は重要です。しかし、利益はその会社のミッションを実現するための手段に過ぎないのです。

自分たちが提供する商品やサービスを通じて、世の中をよくして行くこと(すなわちミッションの実現)が、企業の目的なのです。逆に、いくら世の中をよくしていくことをしていても、利益が上がらなければ存続することはできません。利益が上がらなければ、研究開発もできないし、人も雇えません。

私がスターバックスのCEOを引き受けた大きな理由は、そのミッションに共感したからでした。ヘッドハンティング会社からお話があったとき、ハワード・シュルツが書いた『スターバックス成功物語』を読み、素晴らしいミッションがあり、人を大切にする会社だと強く感じました。

人々の心を豊かで活力あるものにするために……
ひとりのお客さま、一杯のコーヒー、そしてひとつのコミュニティーから

これがスターバックスのミッションです。各お店のパートナー(スターバックスでは、CEOからアルバイトまで、お互いを「パートナー」と呼び合います)の皆さんが、心を込めておいしいコーヒーを淹れ、ゆったりとくつろげる空間とサービスを提供することによって、人々の心を豊かで活力あるものにしているのです。スターバックスのミッションを実現しようと一人ひとりのパートナーが愚直に頑張っているからこそ、結果として大きな売り上げを達成しているのです。

ミッションが行動を決める

スターバックスには、コーヒーの淹れ方や掃除の仕方などのオペレーションマニュアルはありますが、サービスマニュアルはありません。パートナーたちは、どうすればミッションを達成できるかを自分で考え、行動に移しています。

あるお店で、こんな出来事がありました。お店の前で交通事故が起きたのです。お店の窓越しに、ドライバーの女性が慌てふためいている様子が見て取れました。女性は震えながら警察の到着を待っていました。それに気づいたアルバイトのパートナーがお店を飛び出し、事故を起こした女性に向かって、「どうぞこれを飲んで心を落ち着けてください」と、笑顔で一杯のコーヒーを差し出しました。
後日、その女性からお礼状が届きました。スターバックスのミッションが一人ひとりのパートナーに浸透しているから、このような行動ができたのです。

こうした例は、毎日あちらこちらのお店で起こっています。すべてのパートナーに、教育によってミッションが浸透しているからこそ、このように素晴らしい行動につながっていくのです。
では、なぜミッションが大切なのか。その主な理由は、次の四つに集約されます。

  1. 世の中は常に変化し、想定外のことが起こります。すべてのケースを事前に想定してマニュアルをつくることはできません。ミッションで原理原則を明確にしておけば、いつでも適切な対応ができます。
  2. 会社に集まっている人々は、さまざまな価値観を持っています。一緒に働いている時間だけでも、すべての人が同じ方向に向かって進む必要があり、その目印となる明確なゴールが必要です。
  3. ミッションを高く掲げていれば、それに共鳴する人たち、つまり最初から目指す方向が同じ人たちが入社してくるようになります。
  4. 崇高なミッションを掲げそれを目指していると、社員のモラルが高まり、結果的に離職率も減っていきます。

すべての人には、役割やポジションに応じたミッションがあります。一人ひとりが日々の仕事を通じて、ミッションの実現のために行動を起こしていけば、愛社精神も生まれ、チーム力が高まっていくのです。リーダーの大きな役割の1つは、このミッションをチームのメンバーに浸透させていくことなのです。

(次回に続く)

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プロフィール

岩田松雄
岩田松雄

1958年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、日産自動車株式会社に入社。同社にて幅広い業務を経験後、米国UCLAアンダーソンスクールに留学。その後、外資系コンサルティング会社ジェミニ・コンサルティング・ジャパン、日本コカ・コーラ株式会社役員を経て、株式会社アトラス(ゲーム会社)の代表取締役として、三期連続赤字の企業を再建。さらに株式会社タカラ常務取締役を経て株式会社イオンフォレスト(ザ・ボディショップ)の代表取締役に就任。店舗数を一気に増加させ、売上を67億円から約140億円に拡大。そしてスターバックスコーヒージャパン株式会社のCEOとして「100年後も光輝くブランド」というコンセプトを掲げ、業績を急回復させ再成長させる。これらの功績が認められ、UCLAビジネススクールより全卒業生3万7000人の中から「100 Inspirational Alumni」
('92年卒業生ではただ一人)に選出される。
現在は株式会社リーダーシップ・コンサルティングの代表取締役CEOであり、次世代のリーダー育成に注力する傍らで、立教大学の特任教授として教鞭もとっている。主に「リーダーシップ」に関するテーマにてこれまで著書は30万部を超える『「ついていきたい」と思われるリーダーになる51の考え方』はじめ多数。「リーダーシップ」に関する日本の第一人者として日本のビジネス界を牽引する人物である。
HP: http://leadership.jpn.com
Facebook: https://www.facebook.com/Leadership.jpn?pnref=lhc

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