トップの力 ジョンソン・エンド・ジョンソンで学んだ経営の極意
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会社と社員がともに成長するのが正しい目標

目標は少し無理をして努力をしなければ届かない、背伸びをしないと届かないレベルに設定することが基本中の基本である。大した努力もなしに達成できるレベルに目標を設定していれば、いくら目標を達成し続けても、達成感もなければ成長もない。惰性でやっているような目標には、達成に努力することで得られる情熱や誇り、やりがいは生まれないのである。

つまり、会社と社員が共に成長するためには、ストレッチ“Stretch”を必要とする目標でなければならないのだ。ストレッチ目標とは、いわば「やってやれないことはない目標」である。

次のマネジアブルとは、マネジメント可能な目標であり、具体的には目標の数をマネジメント可能な数に絞り込むということだ。まったく見通しの立たないような目標は、「やってやれない目標」ではなく、「到底できっこない目標」である。目標は、マネジメント可能な目標であってこそ実現性が高まる。「すべてを追う者はすべてを失う」という。10も20も目標を立てれば、どれひとつ満足な結果が出せない。3つか、4つに絞り込むべきである。

“Accepted(納得)”とは、目標を達成する立場の社員にとっても、会社にとっても納得できる目標ということだ。会社がやってほしい目標と、社員がやりたい目標を一致させるのである。そのためには、目標を担当する社員と、目標設定のプロセスで話し合うことが肝心となる。なぜ、この目標にチャレンジすることが必要なのか、目標を達成すれば我々はどうなるのか、社員にはどのようなリターンがあるかを社員が納得するまで話し合うのだ。

一方的な押し付けではなく、関与させることである。この話し合いは、社員を関与させながら目標を設定するというプロセスになる。つまり、目標設定に社員を巻き込むということである。話し合いというプロセスを経て決まった目標は、押し付けられたものではなく自ら設定に関与し、一緒につくった目標となる。社員にとっても、いわばマイベビーとなる。マイベビーは、なんとしてでも立派に育てようとするものだ。

“Resource(資源)”とは、「資源の裏づけ」があるとうことである。ヒト・モノ・カネ・情報・時間という経営資源の裏づけがなければ目標は達成できない。

最後の“Time(期限)”も、目標の条件である。目標には「いつまでに」という時限設定がなければならない。時限設定のない目標は、単なる願望に過ぎないからだ。

立てた目標の達成率は、目標の設定段階で80%が決まる。目標が「SMART」であることは、目標達成のための必要条件なのである。

コミットメントは目標達成に加速をつけるブースター

正しい目標(SMART目標)であることは、目標達成のための必要条件であるが、さらに達成率を高めるための十分条件もある。それは、目標に対するコミットメントである。

心理学には「宣言効果」というものがある。人前で自分の目標を宣言し、目標を達成する決意を宣言すると達成率が上がるという研究結果がある。目標を紙に書いて、みんなの見えるとことに張り出すというのも同様の効果が期待できる。目標は密かに心に秘めておくよりも、公開し、宣言したほうがよいのである。

ある大手商社の取締役会で、かなり実現が困難なプロジェクト案が上がってきたことがある。提案者は、同社の最年少役員である。まわりの役員は、将来を嘱望される若い役員にプロジェクトの失敗という傷をつけたくなかった。しかし、修羅場はこの役員を成長させるチャンスでもある。社長は、あえてそのプロジェクトを承認したが、そこに条件を付けたのだ。

社長は本人の意向を尊重し、あえてそのプロジェクトを承認した。プロジェクトが失敗したら、その役員に実行責任をとらせると宣告したのである。提案者の最年少役員は、にわかに不安になった。しかし、承認された以上は、もう後戻りができない。最年少役員は腹をくくった。現場に下りていって、自分はこのプロジェクトに進退をかける、みんなは思い切ってやってくれ、責任は自分が取ると宣言した。

すると、それまでは本当にこのプロジェクトが実行されるのか半信半疑だった現場の社員も、担当役員がそこまで覚悟を決めて取り組むのだとわかり、自分たちも全力を尽くすと役員に向かって宣言した。このとき、はからずもプロジェクトのキックオフ宣言が行われたのである。役員がプロジェクトにコミットした結果、現場の社員にもプロジェクトに対するコミットメントが生まれる。コミットメントとは「なにがなんでもやったるで!」という強い決意である。

上司が無責任では、部下にコミットメントが生まれるはずがない。商社の社長は、そこを見越して最年少役員の退路を絶ったのである。背水の陣を敷いたのだ。実現困難なプロジェクトを唯一成功に導くことができるのは、発案者の役員と実行を担う現場の心が1つになることだけだ。結果、誰が見ても無謀に思えたプロジェクトは成果を上げることができた。目標達成に対するコミットメントの力は非常に大きいのである。

目標達成のプロセスにはPDCサイクルが必要

目標には行動計画がある。行動計画どおり実行して、予定通り目標が達成されればそれに越したことはないのだが、思った通りに上手くことが運ぶことはめったにない。実行してみれば、計画段階の見落としはあるし、想定外のことも起きる。そのため、必ずどこかで計画の見直しをしなければならない。この一連の流れがPLAN(計画)DO(実行)CHECK(チェック)、すなわち「PDC」といわれるものだ。

計画・実行までは、ほとんどの会社でやっているが、チェックをきちんと行っている会社は驚くほど少ない。私の体験的イメージから言うと、30%以上の会社は「C」を十分に行っていない。PDCはC(チェック)があって、はじめて正しいPDCなのである。CなきPDCは、九仞の功(きゅうじんのこう)を一簣(いっき)にかくことともなる。

何ができて、何ができなかったのか、できなかったのは何が原因かをチェックし、どうすればできるようになるのか改善することが、まさにチェックの意味である。できない理由ばかりを並べただけでは、PDCのC(チェック)ではない。改善があって、はじめてPDCが実行されたことになるのだ。

改善は、正しいCを含んだPDCサイクルを繰り返すことにより成し遂げられる。チェックをすることによる改善があってPDCの第一段階は終了するが、同時に次の段階のP(計画)がスタートする。こうしてP→D→C→P→D→C……。とPDCサイクルはステージを上げながら進んでいく。

チェックによる改善のないPDCは、その場でくるくると回転するだけの「二十日鼠(はつかねずみ)のPDCサイクル」である。正しいPDCサイクルとは、PDCが一回転するたびにレベルアップしていくPDCサイクルなのだ。私はこれを「昇り龍のPDCサイクル」といっている。 

結論を言えば、伸びる会社とは「昇り龍のPDCサイクルを回す会社」なのである。

次回に続く

 

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プロフィール

新 将命
新 将命

株式会社国際ビジネスブレイン代表取締役社長。
1936年東京生まれ。早稲田大学卒。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソン、フィリップスなどグローバル・エクセレント・カンパニー6社で社長職を3社、副社長職を1社経験。2003年から2011年7月まで住友商事株式会社のアドバイザリー・ボード・メンバー。2014年7月より株式会社ティーガイアの社外勤取締役を務める。
現在は長年の豊富な経験と実績をベースに、国内外で「リーダー人材育成」を使命に取り組んでいる、まさに「伝説の外資系トップ」と称される日本のビジネスリーダー。
代表的な著書に『他人力のリーダーシップ論』『仕事と人生を劇的に変える100の言葉』『経営者が絶対に「するべきこと」「してはいけないこと』(いずれもアルファポリス)などがある。

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