第3回キャラ文芸大賞
第2回キャラ文芸大賞
選考概要
第1回を大幅に上回る701作もの応募数となった今回は、キャラ文芸の定番である神様やあやかしを題材とした小説や、日本の特定地域を舞台としたご当地もの、料理や食を主軸にしたグルメものなど、人気の高いテーマの作品が集まった。また、筆力の高い良作が多く見られ、前回よりも参加作品の全体的なレベルが上がっているように感じられた。
多数の応募の中から、編集部内で大賞候補作としたのは、「おばあちゃんのレシピノート。」「あの、連れ子4人って聞いてませんでしたけど。」「八百万の学校」「佐世保黒猫アンダーグラウンド―人外ジャズ喫茶でバイト始めました―」「金沢あまやどり茶房~雨降る街で、会いたい人と不思議な一杯~」「みちのく銀山温泉あやかしお宿の若女将になりました」「清明さんちの不憫な大家」「谷中・幽霊料理人―お江戸の料理、作ります!」「柳井堂言霊綴り」「冷蔵庫の印南さん」「没落華族令嬢と曰くの真贋鑑定士」「扉の向こうはあやかし飯屋」「吸血鬼さんの献血パック」の12作品。
これらの候補作品の中で、編集部内で最も評価の高かった「みちのく銀山温泉あやかしお宿の若女将になりました」を大賞に選出し、テーマ別の賞として、あやかしならではの魅力を見事に描いた「晴明さんちの不憫な大家」をあやかし賞、舞台の雰囲気を作品に活かした「谷中・幽霊料理人―お江戸の料理、作ります!」をご当地賞とした。
また、すでに読者賞に決定していた「おばあちゃんのレシピノート。」は、他賞とのダブル受賞には至らなかったものの、日々の丁寧な暮らしを描いた温かな作風が編集部でも高い評価を得た。
さらに、斬新な設定で完成度の高い「冷蔵庫の印南さん」を優秀短編賞、これらの作品に一歩及ばずながらも優れた作品であった「八百万の学校」「扉の向こうはあやかし飯屋」の2作品を特別賞に選出した。
また、最終選考に残ったものの、惜しくも受賞に至らなかった作品を奨励賞とした。
「みちのく銀山温泉あやかしお宿の若女将になりました」は、高校生の主人公が憩いの場である温泉宿の若女将となり、そこで出会ったあやかしや人々との交流を通して成長していくという作品。個性的で愛らしいあやかしたちと、巧みなストーリー構成が高く評価された。
「晴明さんちの不憫な大家」は、主人公が最愛の祖父より「一坪の土地」を受け継いだことから始まる物語。幽世につながる土地、安倍清明が遺した屋敷の管理といった設定が目を引き、登場するあやかしたちも他作品とは異なる味わいがあって物語に深みを与えていた。
「谷中・幽霊料理人―お江戸の料理、作ります!」は、女子大生の主人公と江戸時代に命を落とした幽霊料理人が、食を通じて日常のちょっとした謎を解いていく作品。谷中という舞台設定が作品によく合っていて、登場人物たちが生き生きと感じられた。
「冷蔵庫の印南さん」は、AIを搭載した冷蔵庫の「印南さん」と主人公家族の交流を描いた心温まる物語。冷蔵庫が家族の一員のようになっているという近未来的な発想が面白く、筆力、ストーリー構成力のいずれも高いレベルにあった。
「八百万の学校」は、一筋縄ではいかない神様たちのしつけや教育を頼まれた主人公が、周囲の力を借りながら奮闘するというストーリー。一癖ある神様たちが愛らしく魅力的に描かれており、キャラクターの造形が見事だった。
「扉の向こうはあやかし飯屋」は、あやかしたちが集まる店「まんぷく処」を訪れた主人公と常連客との交流を描いたもの。あやかしのキャラクターにインパクトがあり、彼らと主人公がどんな日常を送るのか、この先の展開が楽しみな作品だった。
みちのく銀山温泉あやかしお宿の若女将になりました
おばあちゃんのレシピノート。
ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。日々の生活や季節の移り変わり、そして料理と人と人とのふれあいが丁寧に、優しく描かれた作品でした。ほのぼのとした空気が流れる中、どのシーンも温もりにあふれており、多くの読者がほっこりとした気持ちになったことと思います。
冷蔵庫の印南さん
AIという、今まさに話題になっている題材を取り入れた独創的な発想が素晴らしかったです。また、作中に登場する冷蔵庫「印南さん」の機械らしからぬ気さくな性格が魅力的で、印南さんが家族の一員になっていく様子も、笑いあり涙ありでほっこりしました。
晴明さんちの不憫な大家
ちょっぴり頼りない主人公・真備と従者・太常の関係性が魅力的でした。歴史・伝承を踏まえた物語であるものの、それらに明るくない読者でさえ引き込む力があると思います。また、一筋縄ではいかない式神やあやかしたちの、人ならざるモノの捉えどころのない個性を巧みに描いていました。
谷中・幽霊料理人―お江戸の料理、作ります!
キャラクターや物語の雰囲気が谷中という舞台にぴったりで、情景が思い浮かびました。主人公の咲と幽霊の惣佑の掛け合いがテンポ良く、食の知識やちょっとした謎解きも絡み、読者を楽しませる要素の多い作品だと思います。どのエピソードも、最後には晴れやかな気持ちになれました。
八百万の学校
代々神様の御用聞きである家系に生まれた少年が、ひょんなことから神様達の教育係を務めることになるという設定にとても魅力を感じます。子供のようにわがままな神様達もキャラが立っており、そんな彼らのために一生懸命になる主人公の姿にも好感が持てました。
扉の向こうはあやかし飯屋
人間だけでなくあやかしも出入りするお食事処の設定が、とても秀逸な作品でした。また、豆腐屋で大豆を洗う小豆洗いや男性なのに姉後肌のろくろ首など、登場するあやかし達も全員個性に溢れ、魅力あるキャラクターを見事に描き出していたと思います。
※受賞作については大賞ランキングの最終順位を追記しております。
あやかし達の訪れるお宿の日常が魅力たっぷりに描かれた作品でした。登場するあやかし達も皆個性的で、まさに「キャラ文芸」の王道を押さえた内容だと思います。色々な事情を抱えた彼らのため、奔走する主人公が丁寧に描かれており、時に微笑ましく、時に切なく、感情移入しながら読み進めることができました。