勝海舟 小説一覧
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慶応四年三月。桜には早く、しかし名残の雪が江戸の空を淡く舞う。薩摩藩邸、田町。灰色の空の下、西郷隆盛は黙して待つ。頬に残る薩摩の陽射しは、ここでは通じぬ。彼はこの地で、幕臣・勝海舟を迎えようとしていた。
勝は、どこか滑稽なほど急いでいた。懐に忍ばせた書簡は、徳川慶喜の意思を綴ったもの。「江戸を守りたい」と書かれたその筆跡に、勝はかつて見た将軍の瞳を思い出していた。栄華を捨て、命を捨て、それでもなお人々の暮らしを想う男。その影を背負いながら、勝は雪を踏みしめる。
会談は、言葉少なに始まった。
西郷は軍略を持つ男であり、血を流すことに慣れた男である。それでも、その大きな掌は震えていた。江戸に火を放てば、十万の命が消える。それは敵ではない。女や子ども、老いたる町人、彼らの炊事場、火鉢、布団、書物――ただの日常が、黒煙に包まれる。
「おいは……江戸を焼きたくはない」
そう語った西郷の声は、低く、確かだった。勝はそこで初めて、この男が真に恐れているのは戦の勝敗ではなく、人心の断絶であると知る。幕が下り、新たな時代が来る。そのことは避けられぬ。だが、西郷もまた未来を見ていた。武ではなく、誠意で国を結び直す覚悟が、彼の背にあった。
ふたりは語る。
江戸という町の美しさを。
人々が炊き立てた飯の匂いを。
火消しの纏が立つ火の見櫓を。
明日も、明後日も、生きていく人々の鼓動を。
「戦に勝つことと、この国を守ることは、別の話でごわす」
西郷が言ったとき、勝は静かにうなずいた。
そして春雪の中、ふたりの男は、歴史に残る選択をする。
それは、刀を抜かずして成された、もっとも激しい戦い。
己の名を捨てる覚悟と、時代を超えて語り継がれる、沈黙の勝利だった。
文字数 16,482
最終更新日 2025.05.31
登録日 2025.05.31
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1867年。京都川原町で暗殺されたことになっている坂本竜馬は実は生きていました。西郷隆盛らの勧めでアカウントを変え、アメリカ合衆国に渡り、日系アメリカ人「Ray Sakamoto」として人生をやり直します。ボクシングの賞金試合やボディガード、株取引などで生計を立てつつ、ロックフェラー、カーネギー、デューイらと親交を深め、ついにはフランクリン・ルーズベルトを担ぎだしてアメリカ大統領にし、アメリカを世界一の超大国へと育て上げました。
一方で日米を往来し世界人類の平和と繁栄、なにより面白いことがしたくてさまざまな仕掛けを作っていきます。西郷隆盛、木戸孝允の親友二人にもマルチアカウントを推奨。アメリカでの師匠、ジョン・デューイに示唆を受け、哲学や経済学にも傾倒。また、ロックフェラー、カーネギーらとも仲良くなり、ウォール街に出入りし、アメリカ式資本主義を満喫した。
資本主義を謳歌する一方で、竜馬は心のどこかでマルクスの哲学、社会主義的エッセンスの必要性を考えていた。1929年。ウォール街の株価大暴落に端を発する「世界恐慌」を受けて、竜馬は、ルーズベルトと「ニューディール政策」。日本では高橋是清、石橋湛山らと「時局匡救事業」という「積極財政的」、「社会民主主義的」な政治を仕掛けていった。
「ニューディール政策」や「時局匡救事業」は一時的には成果を上げたが、経済を超越した哲学的な問題が露顕。リベラルと保守のイデオロギー対立は世界人類に深刻な分断と対立を引き起こし、ナチスドイツや日本軍部の台頭を許した。
安寧もつかの間。急激なリベラル化、竜馬が作り出したムーブメントに民心が耐えられなくなり、世界中が保守的反動に走り、分断と対立、ついには第二次世界大戦へと世界は歩みを進める。
結局開戦し、竜馬は世界大戦を終わらせようと日米を行き来しますが、なかなか上手く行きません。終戦後1946年に竜馬は戦争責任を取って、ニューオーリンズの自宅で割腹自殺しました。111歳でした。
結局、世界を面白くしたのも竜馬でしたが、世界を破滅に追い込んだのも竜馬だったのです。なにゆえ、人類史最高の天才、坂本竜馬はこの世に生を受けたのでしょう。
竜馬は、ボクサーとしても野球選手としてもミュージシャンとしても哲学者としてもそれなりの仕事はできたはずだ。ただ、その話の広さ、「総合知」性と「大きな物語」を紡ぐ才能ゆえ、本質的には誰からも理解されなかったし、現代の歴史家でも彼に対する正当な評価は下せていない。
この物語でひとつ迫りたかったのは、「坂本竜馬の本質」です。竜馬は基本的にコミュ力お化けであり味方は多かったが、同時に敵も多かった。人類史を変える仕事をする大天才でありながら、大の嫌われ者でもあった。
文字数 49,631
最終更新日 2025.05.29
登録日 2025.05.29
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1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
文字数 71,526
最終更新日 2025.01.28
登録日 2024.05.17
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「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。
もしかしたら、消去するかもしれません。
文字数 64,349
最終更新日 2020.07.27
登録日 2020.05.30
5
旅回りの紙切り芸人・与一(よいち)は、『戮士(りくし)』である。
大政奉還の後世、時の明治政府は誕生して間が無く、未熟な司法や警察機構に代わり政府の直属機関として、政治犯や凶悪犯の処分を遂行する組織を密かに運用していた。その組織は「戮す=罪ある者を殺す」を意味する一文字『戮(りく)』と称され、その組織の構成員は「戮す士師」則ち「戮士」と呼ばれた。
彼らの敵対勢力の一つが、血族統治の政治結社『十頭社中(とがしらしゃちゅう)』である。開国し国際社会での地位を固めんと西洋型の近代化を進める明治政府の施策に反対し、日本独自の風土を守り新たな鎖国によって世界と対峙しようとする彼らもまた、旧幕府の勢力の資金を背景に独自の戦闘部隊を保持していた。更には、日本の傀儡化を狙う外国勢力『イルミナティ』。
表の歴史には記されていない裏日本史。日本の統治を巡り、三つどもえの戦いは続く。
日本の維新は、未だ終わっていなかった。
文字数 89,775
最終更新日 2020.05.31
登録日 2020.05.21
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