19 / 25
4-1 (番外編) -檜山目線-
しおりを挟む
アメリカに着いたあたしは入国審査を終え、搭乗前に預けた荷物が来るのを待っていた。
ベルトコンベアの上を流れてきた自分のキャリーケースを約半日ぶりに目にした瞬間、ぶわっと色んなことを思い出して、顔が熱くなる。
『それ見て、思い出してね。俺のこと』
そう言った村瀬の策に、まんまとハマっている。このキャリーケースに手をついて、後ろから抱き締められながら、頭が真っ白になるくらい気持ち良くさせられた。
『好きだよ、葉月…』
初めて呼ばれたあたしの名前。村瀬に呼ばれて嬉しくないわけがない。耳元で囁かれた優しい低い声に、背筋がゾクゾクするのが止まらなくて、あっという間にあたしは達してしまった。
あの瞬間、脳みそまで溶けてしまいそうだった。本当に好きな人に抱かれるのってこういうことなんだと、身体が覚えてしまった。
この仕事が終わって日本に帰国したら、またあんなふうに村瀬に甘く抱いてもらえるんだろうか…?
いや、2週間ぶりに会うわけだし、もっと激しく…?
…って、あたしってば…!
なに考えちゃってるの…!
いけない妄想を強制的にシャットアウトしながら、あたしは熱くなった顔を手で扇いだ。
◇
次の日。展示会のブースの前でタブレットを眺める。今日のスケジュール、ディスプレイされている製品の情報、顧客のリスト、一つ一つ頭の中に情報を整理する。
カシャ…ッ!
ふいに、目の前でスマホのカメラの音が聞こえて。顔を上げると、そこには営業として参加している神島くんがいた。
「おはよー、檜山」
「ちょっと、なに勝手に人のこと撮ってんのよ」
「村瀬に送ってやろうと思って」
「─っ…!? な、なんで、村瀬に…!」
予想外の回答に思わず動揺する。
「へぇ。檜山がそんな顔するなんて、村瀬、愛されてんなぁ…」
そう言って、神島くんが意味深な目でニヤニヤとあたしを眺めた。
「その調子だと、うまく行ったんだ?」
「な、なんのこと…っ」
「しらばっくれても駄目。村瀬と付き合ってるんでしょ?」
「─…っ、いや…、そ、その…っ」
「ふふ、おめでと」
そう言って、神島くんが笑った。それは、からかうような笑みではなく、本当に喜んでいるようだった。
「な、なんで…、わかったの…」
「営業の洞察力…?」
「う、うそ…」
「まぁ、半分はウソ。村瀬から相談受けてたからね」
「そ、相談…?」
「うん。村瀬のエッチが下手だったせいで、檜山に逃げられてるって」
「─…っ!? ち、違うから…!!」
思わず大声を出したあたしに、周りの人が驚いたようにこちらを見る。あたしは慌てて口を塞いで、神島くんを睨んだ。
「まぁ、うまく行ったなら良かったよ。村瀬いい奴だから」
「…いい奴なのは、ずっと前から知ってる」
そう答えたあたしに、神島くんはもう一度微笑んだ。
「ね、檜山」
内緒話するような神島くんの仕草に耳を近づける。
「アイツ、めちゃくちゃ檜山のこと好きだから、夜がしつこくても許してやって」
「──…っ!?」
その言葉に、あたしは神島くんの頭をベシッと叩く。
「え、避けてたのは、そういうことじゃないの…?」
「違う…っ!!」
大声でそう否定したあたしは、もう一度周りの人の注目を浴びた。
ベルトコンベアの上を流れてきた自分のキャリーケースを約半日ぶりに目にした瞬間、ぶわっと色んなことを思い出して、顔が熱くなる。
『それ見て、思い出してね。俺のこと』
そう言った村瀬の策に、まんまとハマっている。このキャリーケースに手をついて、後ろから抱き締められながら、頭が真っ白になるくらい気持ち良くさせられた。
『好きだよ、葉月…』
初めて呼ばれたあたしの名前。村瀬に呼ばれて嬉しくないわけがない。耳元で囁かれた優しい低い声に、背筋がゾクゾクするのが止まらなくて、あっという間にあたしは達してしまった。
あの瞬間、脳みそまで溶けてしまいそうだった。本当に好きな人に抱かれるのってこういうことなんだと、身体が覚えてしまった。
この仕事が終わって日本に帰国したら、またあんなふうに村瀬に甘く抱いてもらえるんだろうか…?
いや、2週間ぶりに会うわけだし、もっと激しく…?
…って、あたしってば…!
なに考えちゃってるの…!
いけない妄想を強制的にシャットアウトしながら、あたしは熱くなった顔を手で扇いだ。
◇
次の日。展示会のブースの前でタブレットを眺める。今日のスケジュール、ディスプレイされている製品の情報、顧客のリスト、一つ一つ頭の中に情報を整理する。
カシャ…ッ!
ふいに、目の前でスマホのカメラの音が聞こえて。顔を上げると、そこには営業として参加している神島くんがいた。
「おはよー、檜山」
「ちょっと、なに勝手に人のこと撮ってんのよ」
「村瀬に送ってやろうと思って」
「─っ…!? な、なんで、村瀬に…!」
予想外の回答に思わず動揺する。
「へぇ。檜山がそんな顔するなんて、村瀬、愛されてんなぁ…」
そう言って、神島くんが意味深な目でニヤニヤとあたしを眺めた。
「その調子だと、うまく行ったんだ?」
「な、なんのこと…っ」
「しらばっくれても駄目。村瀬と付き合ってるんでしょ?」
「─…っ、いや…、そ、その…っ」
「ふふ、おめでと」
そう言って、神島くんが笑った。それは、からかうような笑みではなく、本当に喜んでいるようだった。
「な、なんで…、わかったの…」
「営業の洞察力…?」
「う、うそ…」
「まぁ、半分はウソ。村瀬から相談受けてたからね」
「そ、相談…?」
「うん。村瀬のエッチが下手だったせいで、檜山に逃げられてるって」
「─…っ!? ち、違うから…!!」
思わず大声を出したあたしに、周りの人が驚いたようにこちらを見る。あたしは慌てて口を塞いで、神島くんを睨んだ。
「まぁ、うまく行ったなら良かったよ。村瀬いい奴だから」
「…いい奴なのは、ずっと前から知ってる」
そう答えたあたしに、神島くんはもう一度微笑んだ。
「ね、檜山」
内緒話するような神島くんの仕草に耳を近づける。
「アイツ、めちゃくちゃ檜山のこと好きだから、夜がしつこくても許してやって」
「──…っ!?」
その言葉に、あたしは神島くんの頭をベシッと叩く。
「え、避けてたのは、そういうことじゃないの…?」
「違う…っ!!」
大声でそう否定したあたしは、もう一度周りの人の注目を浴びた。
10
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】



イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる