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4-2 (番外編) -檜山目線-
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村瀬と初めて会ったのは5年前。あたしたちがまだ新入社員だった頃だ。
100人近い同期の人たちと連日続く研修。元々の人見知りな性格も相まってか、初対面の人達と接するのは思った以上にストレスで、時折、あたしは中庭の植木の影のベンチで一人でお昼ごはんを食べて息抜きをしていた。
村瀬 湊という人物を認識したのは、そんなある日のお昼休みだった。
◇
「お、村瀬いい場所知ってるじゃん。たまには外で昼メシっつーのもいいな」
「社食は混んでるしな」
植木の向こう側のベンチから急に声が聞こえて、ビクっとする。
「つーか、研修だる…。電話対応の練習とか、今どきいるか?」
「神島はいるだろ。営業志望なんだから」
会話の内容から、あたしと同じ新入社員だと気づく。営業志望の神島くんは、多分、研修中によく目立っている軽そうな人。休み時間に彼とよく一緒にいた男の人が村瀬くんという人だろうか。
「村瀬は、同期の中でタイプだなーっていう女子いないの」
「お前なにしに会社来てんだよ」
「研修が暇すぎて女子見るぐらいしかやることがないんだってば」
しょうもない話をしている。どうして男の人ってすぐ誰が可愛いとか綺麗だとかそういう話をするのだろう。
「村瀬だって一人ぐらいいるだろ、可愛いなって思う女子。ほら、檜山とか」
急にあたしの名前が出てきて驚く。二人との間を遮る植木は充分高さがあるけれど、見つからないように少し身体を縮こませる。
「まぁ、確かに。顔はタイプ」
その言葉に、またか…、と思う。男性に言い寄られることは頻繁にある。だけど彼らの多くは、あたしの外見しかみていない。
「へぇ。口説くなら協力するけど」
「いや、口説くことはないかな」
「なんで…?」
「あいつ口説いても、ゴミを見るみたいに軽蔑した目で拒否られる想像しかつかない」
「あー…、確かに…」
失礼な、と一瞬思ったけど、それはあながち間違いではないと思い直す。何にせよ、この人はあたしのことを恋愛感情では見ないのだとほっとした。
そして実際、研修が明けてから一緒に仕事をする機会があっても、村瀬があたしをそういう対象として見ることはなかった。
村瀬とは仕事で関わることが多かったが、その態度は常に変わらず、開発部署の意見を気兼ねなく聞けるのは助かった。そして5年の月日を経て、あたしは村瀬を仕事仲間として心から信頼していた。
100人近い同期の人たちと連日続く研修。元々の人見知りな性格も相まってか、初対面の人達と接するのは思った以上にストレスで、時折、あたしは中庭の植木の影のベンチで一人でお昼ごはんを食べて息抜きをしていた。
村瀬 湊という人物を認識したのは、そんなある日のお昼休みだった。
◇
「お、村瀬いい場所知ってるじゃん。たまには外で昼メシっつーのもいいな」
「社食は混んでるしな」
植木の向こう側のベンチから急に声が聞こえて、ビクっとする。
「つーか、研修だる…。電話対応の練習とか、今どきいるか?」
「神島はいるだろ。営業志望なんだから」
会話の内容から、あたしと同じ新入社員だと気づく。営業志望の神島くんは、多分、研修中によく目立っている軽そうな人。休み時間に彼とよく一緒にいた男の人が村瀬くんという人だろうか。
「村瀬は、同期の中でタイプだなーっていう女子いないの」
「お前なにしに会社来てんだよ」
「研修が暇すぎて女子見るぐらいしかやることがないんだってば」
しょうもない話をしている。どうして男の人ってすぐ誰が可愛いとか綺麗だとかそういう話をするのだろう。
「村瀬だって一人ぐらいいるだろ、可愛いなって思う女子。ほら、檜山とか」
急にあたしの名前が出てきて驚く。二人との間を遮る植木は充分高さがあるけれど、見つからないように少し身体を縮こませる。
「まぁ、確かに。顔はタイプ」
その言葉に、またか…、と思う。男性に言い寄られることは頻繁にある。だけど彼らの多くは、あたしの外見しかみていない。
「へぇ。口説くなら協力するけど」
「いや、口説くことはないかな」
「なんで…?」
「あいつ口説いても、ゴミを見るみたいに軽蔑した目で拒否られる想像しかつかない」
「あー…、確かに…」
失礼な、と一瞬思ったけど、それはあながち間違いではないと思い直す。何にせよ、この人はあたしのことを恋愛感情では見ないのだとほっとした。
そして実際、研修が明けてから一緒に仕事をする機会があっても、村瀬があたしをそういう対象として見ることはなかった。
村瀬とは仕事で関わることが多かったが、その態度は常に変わらず、開発部署の意見を気兼ねなく聞けるのは助かった。そして5年の月日を経て、あたしは村瀬を仕事仲間として心から信頼していた。
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