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「檜山に好きだって言わなかったの?」
神島が微笑んで俺に聞く。
「それは言った」
「ん?じゃあ、付き合ってんじゃないの?」
「いや、それは、どうだろ…」
「どうだろって、何さ」
そう。あの朝に俺が檜山に言ったのは、『これからは雷が来たら俺がそばにいるから』 であって、『付き合ってくれ』ではなかった。
俺の中ではその2つは同じ意味なのだが、厳密には同じではない。そして、檜山の返事も無理に聞き出さなかった。
「そこが曖昧だったから、逃げられてんのかなって思ってはいる」
「ふーん。まぁ、ちゃんと言質取らなかったなら、村瀬にしては爪が甘かったんじゃない」
その通りだ。一度抱けただけで自分のものに出来たと油断していた。相手はあの檜山なのに。
「身体だけの関係じゃなくて、檜山とちゃんと付き合いたいって思ってるんでしょ?」
「当たり前だろ」
「はは。じゃあ、大丈夫でしょ。村瀬なら」
そう笑った神島は何の根拠もなさそうだったけど、俺の心は少しだけ軽くなった。
◇
次の日。
昼休みに自身のスマホで天気予報を調べる。週間天気は悲しいくらい晴れマークが並んでいる。
窓の外を見ても夕立が来そうな気配はない。天気は全く俺の味方をしていないようで、当面はあの夜のようなチャンスはないことを示していた。
完全に檜山不足だ。あんな甘い夜を過ごしたら、疑いなく次を期待するに決まってるのに、避けられまくって接点ゼロって、何の拷問なのか。
あの夜の檜山、めちゃくちゃ可愛かったな。
まだたった一週間ほどしか経っていないのに、もう随分と前のことみたいだ。
抱きたいなんて贅沢は言わないから、せめて手が届く距離で顔を見たい。
「村瀬、昼休みに悪い。午後ちょっと雑用頼めるか」
外出間際の課長が、現実に引き戻すように俺にそう声を掛ける。
「いいっすよ」
「この書類、顧客とやり取りした原本が5階の書庫にあると思うから、探しておいて貰えないか。夕方には戻れると思うから」
「わかりました。課長が戻ってくるまでに探しときますね」
「助かる。悪いけど、よろしくな」
足早に出ていく課長を見送ると、ちょうど午後の始業を知らせる短い音楽が鳴る。俺はそのまま書庫に向かった。
◇
5階の突き当り。 人気のない書庫は、シンと静かだった。エアコンの設定温度が低いのか、少しひんやりしている。
ほとんどの書類が電子化されている今、この部屋に用事は滅多になく、俺も1回しか来たことがない。
部屋の奥から手前まで所狭しと並んだ複数の棚。俺はめぼしい場所を探した。
神島が微笑んで俺に聞く。
「それは言った」
「ん?じゃあ、付き合ってんじゃないの?」
「いや、それは、どうだろ…」
「どうだろって、何さ」
そう。あの朝に俺が檜山に言ったのは、『これからは雷が来たら俺がそばにいるから』 であって、『付き合ってくれ』ではなかった。
俺の中ではその2つは同じ意味なのだが、厳密には同じではない。そして、檜山の返事も無理に聞き出さなかった。
「そこが曖昧だったから、逃げられてんのかなって思ってはいる」
「ふーん。まぁ、ちゃんと言質取らなかったなら、村瀬にしては爪が甘かったんじゃない」
その通りだ。一度抱けただけで自分のものに出来たと油断していた。相手はあの檜山なのに。
「身体だけの関係じゃなくて、檜山とちゃんと付き合いたいって思ってるんでしょ?」
「当たり前だろ」
「はは。じゃあ、大丈夫でしょ。村瀬なら」
そう笑った神島は何の根拠もなさそうだったけど、俺の心は少しだけ軽くなった。
◇
次の日。
昼休みに自身のスマホで天気予報を調べる。週間天気は悲しいくらい晴れマークが並んでいる。
窓の外を見ても夕立が来そうな気配はない。天気は全く俺の味方をしていないようで、当面はあの夜のようなチャンスはないことを示していた。
完全に檜山不足だ。あんな甘い夜を過ごしたら、疑いなく次を期待するに決まってるのに、避けられまくって接点ゼロって、何の拷問なのか。
あの夜の檜山、めちゃくちゃ可愛かったな。
まだたった一週間ほどしか経っていないのに、もう随分と前のことみたいだ。
抱きたいなんて贅沢は言わないから、せめて手が届く距離で顔を見たい。
「村瀬、昼休みに悪い。午後ちょっと雑用頼めるか」
外出間際の課長が、現実に引き戻すように俺にそう声を掛ける。
「いいっすよ」
「この書類、顧客とやり取りした原本が5階の書庫にあると思うから、探しておいて貰えないか。夕方には戻れると思うから」
「わかりました。課長が戻ってくるまでに探しときますね」
「助かる。悪いけど、よろしくな」
足早に出ていく課長を見送ると、ちょうど午後の始業を知らせる短い音楽が鳴る。俺はそのまま書庫に向かった。
◇
5階の突き当り。 人気のない書庫は、シンと静かだった。エアコンの設定温度が低いのか、少しひんやりしている。
ほとんどの書類が電子化されている今、この部屋に用事は滅多になく、俺も1回しか来たことがない。
部屋の奥から手前まで所狭しと並んだ複数の棚。俺はめぼしい場所を探した。
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