【完結】雷の夜に

緑野 蜜柑

文字の大きさ
上 下
8 / 25

2-1(*)

しおりを挟む
「あの、檜山いますか」

「あら、さっきまでいたんだけど…」

そう言って、指差された檜山の机を見る。開いたままのノートパソコンに、淹れたばかりでまだ湯気が立っている紅茶のマグカップ。

「確かに、ついさっきまでそこに居たっぽいですね…」

「でしょう? 少し持っていれば、戻ってくるかも」

いや、おそらく戻ってこない。俺がここにいる限りは。

「これ、うちの課長から檜山宛ての資料です。渡してもらっていいですか」

「ええ、もちろん」

あの日以降、俺は檜山に避けられまくっている。



同期の檜山葉月は、企画部のエースだ。

新人の頃から可愛いと評判だった檜山だが、昔から口説く隙が全くなく、何人もの同期が告白しては玉砕し、諦めていた。

出会って5年目にして、俺もあわやその玉砕した有象無象の男たちの一員に加わるかと思いきや、あの日、檜山と甘い夜を過ごすことができた。

あの夜、気持ちは充分すぎるほど伝えた。心が通じ合ったと思った。

こんな風に避けられるとは思ってなかった。



「村瀬が、抱いた女に避けられてる…!? くく…マジか。すげー見たい、それ」

会社から二駅ほど離れたバーで、俺の話を聞いた同期の神島が可笑しそうに笑った。

「人が真剣に相談してんのに、お前ってヤツは…」

「いやー、村瀬をこんだけ振り回せる檜山って、やっぱ最強の女だわ」

「俺、相手が檜山だって言ったっけ?」

「いや、お前ら付き合うだろうなって、俺ずっと思ってたから。村瀬ちょっと前から檜山のこと意識してたし、そろそろかなって思ってたんだよ」

「お前の勘、当たり過ぎて怖い…」

神島は新人のときから気の合う友人だ。営業部の彼はその整った容姿も相まって一見派手だが、意外と根の性格は真面目で、話が合う。

元々の勘の良さと営業で培われた洞察力は流石で、相談するなら神島しかいないと思っていた。

「ちなみに、抱いた後に避けられるって、一般的にはセックスが気持ち良くなかったってことだと思うんだけど、村瀬くん」

「いや、そんなことは…」

「へぇ。なんでそう思うの」

なんでって…
あの夜、檜山は2回イっているし、行為中も演技をしている様子はなかった。喘ぎ声も感じる顔も、めちゃくちゃ可愛かった。

何より、最後に痛いほど締め付けながら、俺の腕にしがみついてビクビクと果てた姿は、思い出すだけで何度でも抜ける─…

と、そこまで回想したところで我に返る。神島がニヤニヤと面白そうに俺を見ていた。

「神島。お前、俺をからかいたいだけだろ…」

「だって村瀬がこんなこと相談してくるなんて、からかう以外に選択肢なくない?」

そう笑う神島の頭を、俺はバシッと軽く叩いた。
しおりを挟む
【完結】とびきりの幸せを、君に (R18)



本作の脇役、村瀬の友人の神島の恋愛ストーリーはpixivで随時更新中です(R18)。
pixivリンク

感想 0

あなたにおすすめの小説

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

パパのお嫁さん

詩織
恋愛
幼い時に両親は離婚し、新しいお父さんは私の13歳上。 決して嫌いではないが、父として思えなくって。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

処理中です...