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「あの、檜山いますか」
「あら、さっきまでいたんだけど…」
そう言って、指差された檜山の机を見る。開いたままのノートパソコンに、淹れたばかりでまだ湯気が立っている紅茶のマグカップ。
「確かに、ついさっきまでそこに居たっぽいですね…」
「でしょう? 少し持っていれば、戻ってくるかも」
いや、おそらく戻ってこない。俺がここにいる限りは。
「これ、うちの課長から檜山宛ての資料です。渡してもらっていいですか」
「ええ、もちろん」
あの日以降、俺は檜山に避けられまくっている。
◇
同期の檜山葉月は、企画部のエースだ。
新人の頃から可愛いと評判だった檜山だが、昔から口説く隙が全くなく、何人もの同期が告白しては玉砕し、諦めていた。
出会って5年目にして、俺もあわやその玉砕した有象無象の男たちの一員に加わるかと思いきや、あの日、檜山と甘い夜を過ごすことができた。
あの夜、気持ちは充分すぎるほど伝えた。心が通じ合ったと思った。
こんな風に避けられるとは思ってなかった。
◇
「村瀬が、抱いた女に避けられてる…!? くく…マジか。すげー見たい、それ」
会社から二駅ほど離れたバーで、俺の話を聞いた同期の神島が可笑しそうに笑った。
「人が真剣に相談してんのに、お前ってヤツは…」
「いやー、村瀬をこんだけ振り回せる檜山って、やっぱ最強の女だわ」
「俺、相手が檜山だって言ったっけ?」
「いや、お前ら付き合うだろうなって、俺ずっと思ってたから。村瀬ちょっと前から檜山のこと意識してたし、そろそろかなって思ってたんだよ」
「お前の勘、当たり過ぎて怖い…」
神島は新人のときから気の合う友人だ。営業部の彼はその整った容姿も相まって一見派手だが、意外と根の性格は真面目で、話が合う。
元々の勘の良さと営業で培われた洞察力は流石で、相談するなら神島しかいないと思っていた。
「ちなみに、抱いた後に避けられるって、一般的にはセックスが気持ち良くなかったってことだと思うんだけど、村瀬くん」
「いや、そんなことは…」
「へぇ。なんでそう思うの」
なんでって…
あの夜、檜山は2回イっているし、行為中も演技をしている様子はなかった。喘ぎ声も感じる顔も、めちゃくちゃ可愛かった。
何より、最後に痛いほど締め付けながら、俺の腕にしがみついてビクビクと果てた姿は、思い出すだけで何度でも抜ける─…
と、そこまで回想したところで我に返る。神島がニヤニヤと面白そうに俺を見ていた。
「神島。お前、俺をからかいたいだけだろ…」
「だって村瀬がこんなこと相談してくるなんて、からかう以外に選択肢なくない?」
そう笑う神島の頭を、俺はバシッと軽く叩いた。
「あら、さっきまでいたんだけど…」
そう言って、指差された檜山の机を見る。開いたままのノートパソコンに、淹れたばかりでまだ湯気が立っている紅茶のマグカップ。
「確かに、ついさっきまでそこに居たっぽいですね…」
「でしょう? 少し持っていれば、戻ってくるかも」
いや、おそらく戻ってこない。俺がここにいる限りは。
「これ、うちの課長から檜山宛ての資料です。渡してもらっていいですか」
「ええ、もちろん」
あの日以降、俺は檜山に避けられまくっている。
◇
同期の檜山葉月は、企画部のエースだ。
新人の頃から可愛いと評判だった檜山だが、昔から口説く隙が全くなく、何人もの同期が告白しては玉砕し、諦めていた。
出会って5年目にして、俺もあわやその玉砕した有象無象の男たちの一員に加わるかと思いきや、あの日、檜山と甘い夜を過ごすことができた。
あの夜、気持ちは充分すぎるほど伝えた。心が通じ合ったと思った。
こんな風に避けられるとは思ってなかった。
◇
「村瀬が、抱いた女に避けられてる…!? くく…マジか。すげー見たい、それ」
会社から二駅ほど離れたバーで、俺の話を聞いた同期の神島が可笑しそうに笑った。
「人が真剣に相談してんのに、お前ってヤツは…」
「いやー、村瀬をこんだけ振り回せる檜山って、やっぱ最強の女だわ」
「俺、相手が檜山だって言ったっけ?」
「いや、お前ら付き合うだろうなって、俺ずっと思ってたから。村瀬ちょっと前から檜山のこと意識してたし、そろそろかなって思ってたんだよ」
「お前の勘、当たり過ぎて怖い…」
神島は新人のときから気の合う友人だ。営業部の彼はその整った容姿も相まって一見派手だが、意外と根の性格は真面目で、話が合う。
元々の勘の良さと営業で培われた洞察力は流石で、相談するなら神島しかいないと思っていた。
「ちなみに、抱いた後に避けられるって、一般的にはセックスが気持ち良くなかったってことだと思うんだけど、村瀬くん」
「いや、そんなことは…」
「へぇ。なんでそう思うの」
なんでって…
あの夜、檜山は2回イっているし、行為中も演技をしている様子はなかった。喘ぎ声も感じる顔も、めちゃくちゃ可愛かった。
何より、最後に痛いほど締め付けながら、俺の腕にしがみついてビクビクと果てた姿は、思い出すだけで何度でも抜ける─…
と、そこまで回想したところで我に返る。神島がニヤニヤと面白そうに俺を見ていた。
「神島。お前、俺をからかいたいだけだろ…」
「だって村瀬がこんなこと相談してくるなんて、からかう以外に選択肢なくない?」
そう笑う神島の頭を、俺はバシッと軽く叩いた。
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