【完結】雷の夜に

緑野 蜜柑

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檜山は漫喫には行かなかった。二人でタクシーを降りたのは、俺のマンションの前。鳴り止まない雷のせいか、檜山は痛いほどに俺の腕にしがみついていた。

部屋の鍵を開けて中に入れる。ドアを閉めると、土砂降りだった雨の音が少し遠くなった。

「靴、脱げる?」

「う、うん…」

そのまま洗面所に手を引いて、濡れた檜山を頭から新しいバスタオルでくるむと、安心させるようにそのまま上から数秒抱き締めた。

「せっかく檜山が傘持ってたのに、あんな降ってたら意味なかったな。シャワー先に使って」

「え…っ、いいよ、村瀬が先で…」

「一人が怖いなら一緒に入ってもいいけど」

「だ、大丈夫…っ!」

そう言って俺を押し退けた檜山の顔には赤みが戻りかけていた。表情からも恐怖が少し緩んでいることに安堵する。

俺は檜山の頭をグシャグシャっと撫でると、タオルとスウェットを手渡して洗面所を出た。

リビングに移動すると、明かりをつけて軽く部屋を整えた。

檜山のことだから、すぐに上手く流されるか、悪い冗談だと叱られるかと思っていた。

仮に流されても、あの表情を見たら口説いていたろうが、まさか、ついてきてくれるとは思ってなかった。

抱いていいということ…、だよな…?

ここまで来て駄目ということはないだろうが、流石にあんまりがっつくのもダサい。

理性だな。うん、理性。

そう自制したのも束の間、数十分後にブカブカのスウェット姿で出てきた檜山は、俺のシャンプーの匂いがして、目眩がしそうなほど愛しかった。



自身もシャワーを浴びて、気づけば時計は11時を回ろうとしていた。間接灯の柔らかい光で照らした寝室に檜山を案内する。

遮光カーテンが外の光は遮ってくれるが、さすがに雷の音は聞こえる。

「なんか音楽でも流すか?音、嫌だろ。何がいい?」

「ロックとかヘビメタとか…?かき消してくれる系?」

真剣にそう言う檜山に思わず脱力する。

「もうちょっとロマンチックに抱きたいんですけど…」

「あ、ごめん、大丈夫。なんか村瀬が優しいせいか、今はそんなに怖くないし…」

「つーか、普段、ロックとかヘビメタ聴いて耐えてんの?」

「まぁ…」

「マジか…」

「あ、ひどい。笑ってる」

怒った表情の檜山を抱き寄せて、頬に手を当てる。数回撫でて、そのまま静かに唇を重ねた。

「なんで来てくれたの」

唇を離し、頬に再度キスをしながら尋ねる。

「なんでって…、雷、怖かったから…?」

「雷の日に口説けば誰でも抱けるの、お前のコト…」

「う、ううん…!村瀬以外だったら来なかったけど…。でも、村瀬があたしのこと好きだとは思ってなくて…、あたしも色々想定外…」

そう言う上目使いの檜山と目が合って、腹の奥の方がぎゅっと熱を帯びた。

檜山を抱けるなら、もう何でも良い気がした。

檜山を抱き締めて、そのまま静かにベッドに押し倒す。手を重ねると、檜山の冷たい指先が雷が鳴る度にぴくんと反応していた。

包み込むように指を絡ませて、深いキスをした。
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