【完結】雷の夜に

緑野 蜜柑

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企画部のフロアに行くと案の定、しん…とした空間で一人、檜山がキーボードを打つ音が響いていた。

「もう21時だけど。帰んないの?檜山」

「あぁ、村瀬。お疲れ。まだ帰れないかな…。急な仕事が終わんなくて」

そう言って、檜山は下手くそな苦笑いをした。

「嘘つけ。雷鳴ってるから帰れないんだろ」

「ち、違うってば。ホントに急な仕事!」

「ふーん…。つーか、このまま誰もいなくなったオフィスで停電にでもなったら、すげー怖いと思うけど」

わざと意地悪にそう言うと、その状況を想像したのか、檜山の表情が変わった。

「今夜はこのまま朝まで雷雨って予報だろ。どっかで覚悟決めて帰んないと」

「わ、わかってるってば」

「前の通りでタクシー拾えばいいじゃん。なんなら俺そこまで一緒に行くけど」

「い、いいってば。大丈夫だから」

「大丈夫じゃなさそうだと思ったから声かけたんだけど」

「う、うるさいな!帰ったって一人じゃ怖いんだってば…!!」

そう檜山は声をあげた。人気のない静かなオフィスに反響した後、檜山がはっと表情を戻した。

「あはは、ごめん!大きい声出して!大丈夫…!ほら、漫喫とかカラオケとかね!そういうトコ行けばいいんだから!」

檜山は気まずい雰囲気を誤魔化すようにそう笑った。そんな場所でやり過ごさないと行けないほどに、雷が怖いのか。

「普段は漫喫とかカラオケとか行ってんだ。檜山、あーゆートコ苦手そう」

「う…、まぁ…そうだけど…」

「怖いなら俺が一緒にいようか」

「え…っ」

冗談として適当に流される覚悟でそう言った。のだが、意外なことに、檜山が顔を赤くしていた。

なんだ…?
相手にされてない訳ではないのか…?

てか、檜山のこんな顔、初めて見た。
なんとなく、今は攻め時な気がする。

「ご、ごめん!冗談言ってくれたんだよね!私がいい大人なくせに雷なんか怖がってるから…!」

「いや、雷怖いっつーなら俺の家に来ればいいと思ってるし、何ならそのまま抱きたいとすら思ってるよ」

「抱…っ、え…っ、嘘…」

「好きなヤツに嘘ついてどうすんだよ。嫌ならお前は駅前の満喫な。とりあえずタクシーシェアして帰ろうぜ」

俺がそう言うと檜山は少し考えて、そのまますぐ帰る支度をした。
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