公国第二王子の一途な鐘愛 〜白い結婚ではなかったのですか!?〜

緑野 蜜柑

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〜8. それぞれの思惑〜

優しさの意味

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ずっと不思議だった。サイラス殿下も使用人の皆も、なぜわたくしをこんなにも大事に扱ってくれるのだろうか、と。

当たり前だ。わたくしは小麦の輸出を成功させるための重要な存在。クレディア商会へと繋ぐために、丁重に扱われてきたのだろう。

もともとアーサー皇子に婚約破棄された『いわく付き』。妻として娶る価値はどこにもない。普通ならば、あのまま次の相手など見つかるはずもない。

サイラス殿下が見ていたのは、わたくしの背後にある父上──クレディア公爵の存在。輸出を成功させるために、わたくしを懐柔しただけのこと。

優しさも温もりも、全ては作り物。それなのに、殿下相手に恋心を抱くなんて、わたくしはどれだけ愚かなのか…

「大丈夫ですか、ロザリア妃殿下…」
「え…?」
「少し顔色が…」

執事のルバートが心配そうにそう声を掛けてくれる。顔に出しては駄目だ。ここは殿下の執務室で、今はクラウス王子もいる。

「大丈夫よ、なんでもないわ…」

無理矢理に笑みを作り、そう答える。指先がひどく冷たかった。



「てか、アンタ。こんな論文まで読もうとしてんの…?」

そう言って、クラウス王子が呆れた顔をしてわたくしの手元の一番上のそれを取る。小麦の品種改良に関する初期の論文の一つだ。

「いけませんか…?」
「可愛げがなさすぎ。兄上が可哀想」
「な…っ!」

余計なお世話だ。可愛げがないのは自覚している。自覚した上で、そこで役に立とうとしているのだから、放っておいてほしい。

「まぁ、これに関心を持つなら、こっちの論文もいいと思うよ。あと、これも」
「え…っ、わ…!」

執務室の棚から数束の論文を見繕い、クラウス王子がわたくしの手に乗せていく。

「ク、クラウス殿下…?」
「ちなみに最初に持ってたこれは、僕が書いたものだから」
「え…っ!」
「読んだら感想よろしく」

そう言って、クラウス王子は得意気に笑った。品種改良の研究が彼の専門分野というのは、本当みたいだ。

「アンタをこの国に受け入れた理由は、まぁ、色々あるんだろうけど…」
「……?」
「兄上は、ああ見えて意外と単純な事しか考えてないと思うよ」
「え…?」

クラウス王子のその言葉に首を傾げる。それはどういう意味だろう。

「まぁ、あまり趣味がいいとは思わないけど」

わたくしの頭から爪先までを一瞥いちべつしてそう言うと、クラウス王子は何か意味を含むように苦笑した。
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