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1-5. デート
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週末の土曜日。
樫木先輩の最寄駅で彼女を待つ。
約束した待ち合わせ時間までまだ30分もある。流石に早すぎだろうと呆れながら頭を掻いた。
なにを浮かれているのか…
デートって言ったって、本気な訳はない。気まぐれなのか、酔っていたノリなのか、どちらにせよ軽い気持ちで誘いに乗ってくれたのだとわかっている。
いや、そもそも、来るのか…?
すっぽかされる可能性もあるんじゃないだろうか。普通に考えて、俺とデートするとか、意味がわからないし…
まぁ、来なくても別に…
「おはよう、幸野くん!」
「ぅお…っ、はよ、ございます…!」
俺の心配を裏切るように、明るい笑顔で現れた樫木先輩に、思わず声が裏返る。
「ホントに、来た…」
「え…?」
「いや…、なんでもないっす…」
心臓の音が煩い。落ち着け。他の男のモノに、なに浮かれてんだ。
◇
水族館までは電車で15分ほど。到着した電車に乗り込むと、二人で並んで座った。
「そういう服も、着るんですね…」
樫木先輩が着ているロングスカートに視線を向けながらそう言う。今日の樫木先輩は会社でいつも見るきちんとした姿とは少し違う。ふんわりしたスカートが女性らしいというか、柔らかい雰囲気で、先輩によく似合っている。
「あぁ、これ? この前、可愛いなって思って買ったんだけど着ていく場所がなくて。デートなら、ちょうどいいかなって」
ということは、つまり、水原部長もまだ見たことがないということだろうか。それは結構、嬉しいかもしれない。
「可愛いです、とても」
「え…っ、そう…? あ、ありがとう…」
照れた表情でそう答える先輩に我に返って、俺は無意識に何を言っているんだと、口を押さえた。
◇
「あ…っ、幸野くん見て、カクレクマノミがいる! オレンジが鮮やかで綺麗…!」
水族館に着いてからというもの、樫木先輩はなんだかとてもはしゃいでいた。海の生物が好きなのか、目をキラキラさせて、嬉しそうに水槽に貼り付いている。
「ほら、可愛いね…!」
可愛いのは貴女だと、心の中で呟く。
…いや、うん。
この人、普通にめちゃくちゃ可愛いんだよ。
油断するとすぐ彼女を目で追ってしまっている自分がいて、あらためて自制する。
「水族館、好きなんですね」
「うん! よくわかるね?」
「そりゃあ、それだけはしゃいでいれば」
「ふふ。ありがとう。連れて来てくれて」
そう言って樫木先輩は柔らかい顔で微笑んだ。
「さっきから魚ばっかり見て、僕とデートしてるって忘れてません?」
「あ、確かに…!」
そう答える樫木先輩を見て、「まぁ、そうだよな」と思っていたら、その言葉を否定するように先輩が続けた。
「嘘。楽しくて、普通のデートってこんな感じなんだなって思ってた」
「普通の…?」
「こういう幸せもあるんだろうなって…」
そう言いながら、先輩が水槽を眺める。その視線の先で、彼女は水原部長のことを考えているのだと気付いた。
貴女が望めば、普通の幸せなど他に幾らでも手に入るだろうに。そんな顔をしてまで、なぜ水原部長を好きなのだろうか。
樫木先輩の最寄駅で彼女を待つ。
約束した待ち合わせ時間までまだ30分もある。流石に早すぎだろうと呆れながら頭を掻いた。
なにを浮かれているのか…
デートって言ったって、本気な訳はない。気まぐれなのか、酔っていたノリなのか、どちらにせよ軽い気持ちで誘いに乗ってくれたのだとわかっている。
いや、そもそも、来るのか…?
すっぽかされる可能性もあるんじゃないだろうか。普通に考えて、俺とデートするとか、意味がわからないし…
まぁ、来なくても別に…
「おはよう、幸野くん!」
「ぅお…っ、はよ、ございます…!」
俺の心配を裏切るように、明るい笑顔で現れた樫木先輩に、思わず声が裏返る。
「ホントに、来た…」
「え…?」
「いや…、なんでもないっす…」
心臓の音が煩い。落ち着け。他の男のモノに、なに浮かれてんだ。
◇
水族館までは電車で15分ほど。到着した電車に乗り込むと、二人で並んで座った。
「そういう服も、着るんですね…」
樫木先輩が着ているロングスカートに視線を向けながらそう言う。今日の樫木先輩は会社でいつも見るきちんとした姿とは少し違う。ふんわりしたスカートが女性らしいというか、柔らかい雰囲気で、先輩によく似合っている。
「あぁ、これ? この前、可愛いなって思って買ったんだけど着ていく場所がなくて。デートなら、ちょうどいいかなって」
ということは、つまり、水原部長もまだ見たことがないということだろうか。それは結構、嬉しいかもしれない。
「可愛いです、とても」
「え…っ、そう…? あ、ありがとう…」
照れた表情でそう答える先輩に我に返って、俺は無意識に何を言っているんだと、口を押さえた。
◇
「あ…っ、幸野くん見て、カクレクマノミがいる! オレンジが鮮やかで綺麗…!」
水族館に着いてからというもの、樫木先輩はなんだかとてもはしゃいでいた。海の生物が好きなのか、目をキラキラさせて、嬉しそうに水槽に貼り付いている。
「ほら、可愛いね…!」
可愛いのは貴女だと、心の中で呟く。
…いや、うん。
この人、普通にめちゃくちゃ可愛いんだよ。
油断するとすぐ彼女を目で追ってしまっている自分がいて、あらためて自制する。
「水族館、好きなんですね」
「うん! よくわかるね?」
「そりゃあ、それだけはしゃいでいれば」
「ふふ。ありがとう。連れて来てくれて」
そう言って樫木先輩は柔らかい顔で微笑んだ。
「さっきから魚ばっかり見て、僕とデートしてるって忘れてません?」
「あ、確かに…!」
そう答える樫木先輩を見て、「まぁ、そうだよな」と思っていたら、その言葉を否定するように先輩が続けた。
「嘘。楽しくて、普通のデートってこんな感じなんだなって思ってた」
「普通の…?」
「こういう幸せもあるんだろうなって…」
そう言いながら、先輩が水槽を眺める。その視線の先で、彼女は水原部長のことを考えているのだと気付いた。
貴女が望めば、普通の幸せなど他に幾らでも手に入るだろうに。そんな顔をしてまで、なぜ水原部長を好きなのだろうか。
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