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1-6. 恋人繋ぎ
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大人な顔をして水槽を見つめる樫木先輩に歩み寄ると、俺は彼女の手を取った。そのまま指を絡めて繋ぐ。
「─…っ! 幸野くん…?」
先輩が驚いた顔でこちらを見上げる。
「今日は、思いっきり、"普通の" デートしましょう」
「え…?」
「先輩がやりたいこと、なんでも言ってください」
「あの…、この手は…」
「恋人繋ぎ、ベタですよね」
「そ、そうだけど…」
戸惑った表情をしながら、先輩の頬が赤くなっていく。嫌がられてはなさそうだけど、保身のためにも、逃げ道ぐらい作っておくか。
「言ったじゃないですか。僕、先輩みたいな可愛い彼女、連れて歩いてみたかったって」
「あ…、確かに、言ってた…」
「先輩はデート気分を味わって、僕は先輩を自分の彼女だって見せびらかしたいだけ。他意はないですよ」
「そ、そういう…ことなら、まぁ…」
そう納得してくれた樫木先輩に微笑む。
他意は、あると言えばある。見せびらかしたいとかそんな理由じゃなく、ただ触れたいと思った。
華奢な指。俺より少しだけ体温が低い。
スベスベしてて、ずっと触れていたい…
ずっと…?
いや…
俺は、何を考えているんだ…
◇
「先輩、ここ段差なんで、気を付けて」
「あ、うん。ありがとう…」
少し高い段差に樫木先輩の手を支えると、彼女は何か言いたそうに俺を見た。
「どうかしました?」
「ううん…」
そう言いながら、先輩が口元を手で押さえる。なんだか少し顔が赤い。
「こういうエスコート、好きですか」
「…うん、好き…」
小さな声で先輩が素直にそう答える。結構ベタな展開が好きみたいだ。恥ずかしがっているけど、嬉しそうなのが可愛い。
「ベタですね」
「悪かったわね…」
「いや、いいんじゃないんですか。可愛いですし」
そう微笑した俺を、先輩が赤い顔でジトっと睨む。何か悪いことを言っただろうか。
「幸野くん…」
「はい…?」
「あたしなんかと遊んでないで、こういうことできる彼女、ちゃんと見つけないと駄目だからね」
先輩が急にそんなことを言う。なんだか言葉に力がこもっている。
「言いませんでしたっけ? 僕の周りの女の子は本命に夢中で、僕のことなんか眼中にないって」
「そんなことないから…!」
いや、現に樫木先輩だって、水原部長が本命じゃないか。
「絶対、素敵な相手がいるから…!」
「力説しますね。なにを根拠に…?」
「だって、幸野くん、いい子だもの」
「なんすか…、いい子って…」
呆れながらそう言う。この人は自分の立場をわかっているのだろうか。
「先輩のこと脅してる僕が、いい子な訳ないでしょ…」
「脅すって言うのはもっと酷いことを言うのよ」
「…例えば?」
「お金をゆすってきたりとか、仕事を押し付けたりとか、後は…」
そう言いかけたところで樫木先輩の顔が赤くなる。まぁ、黙っている代わりに身体の関係を迫るというのも定石だ。
「後は、なんですか…?」
「だ、だから、色んな悪い人がいるの、世の中には!」
「あ、ずるい。僕、"後は" の先を聞きたいんですけど」
「わかってるでしょ、その聞き方は!」
先輩が俺を睨んでそう言う。赤い顔して可愛い。
「樫木先輩相手にその妄想は、いいオカズになりそうですね」
「な…っ!」
「まぁ、僕はいい子なんで、しませんけど」
そう言った俺の胸を、樫木先輩は繋いでいない方の手でバシっと叩いた。
" 絶対、素敵な相手がいるから…! "
力を込めて、先輩がそう言ってくれたことが嬉しかった。そして、その相手がこの人であればいいのにと、心の片隅で思ってしまった。
「─…っ! 幸野くん…?」
先輩が驚いた顔でこちらを見上げる。
「今日は、思いっきり、"普通の" デートしましょう」
「え…?」
「先輩がやりたいこと、なんでも言ってください」
「あの…、この手は…」
「恋人繋ぎ、ベタですよね」
「そ、そうだけど…」
戸惑った表情をしながら、先輩の頬が赤くなっていく。嫌がられてはなさそうだけど、保身のためにも、逃げ道ぐらい作っておくか。
「言ったじゃないですか。僕、先輩みたいな可愛い彼女、連れて歩いてみたかったって」
「あ…、確かに、言ってた…」
「先輩はデート気分を味わって、僕は先輩を自分の彼女だって見せびらかしたいだけ。他意はないですよ」
「そ、そういう…ことなら、まぁ…」
そう納得してくれた樫木先輩に微笑む。
他意は、あると言えばある。見せびらかしたいとかそんな理由じゃなく、ただ触れたいと思った。
華奢な指。俺より少しだけ体温が低い。
スベスベしてて、ずっと触れていたい…
ずっと…?
いや…
俺は、何を考えているんだ…
◇
「先輩、ここ段差なんで、気を付けて」
「あ、うん。ありがとう…」
少し高い段差に樫木先輩の手を支えると、彼女は何か言いたそうに俺を見た。
「どうかしました?」
「ううん…」
そう言いながら、先輩が口元を手で押さえる。なんだか少し顔が赤い。
「こういうエスコート、好きですか」
「…うん、好き…」
小さな声で先輩が素直にそう答える。結構ベタな展開が好きみたいだ。恥ずかしがっているけど、嬉しそうなのが可愛い。
「ベタですね」
「悪かったわね…」
「いや、いいんじゃないんですか。可愛いですし」
そう微笑した俺を、先輩が赤い顔でジトっと睨む。何か悪いことを言っただろうか。
「幸野くん…」
「はい…?」
「あたしなんかと遊んでないで、こういうことできる彼女、ちゃんと見つけないと駄目だからね」
先輩が急にそんなことを言う。なんだか言葉に力がこもっている。
「言いませんでしたっけ? 僕の周りの女の子は本命に夢中で、僕のことなんか眼中にないって」
「そんなことないから…!」
いや、現に樫木先輩だって、水原部長が本命じゃないか。
「絶対、素敵な相手がいるから…!」
「力説しますね。なにを根拠に…?」
「だって、幸野くん、いい子だもの」
「なんすか…、いい子って…」
呆れながらそう言う。この人は自分の立場をわかっているのだろうか。
「先輩のこと脅してる僕が、いい子な訳ないでしょ…」
「脅すって言うのはもっと酷いことを言うのよ」
「…例えば?」
「お金をゆすってきたりとか、仕事を押し付けたりとか、後は…」
そう言いかけたところで樫木先輩の顔が赤くなる。まぁ、黙っている代わりに身体の関係を迫るというのも定石だ。
「後は、なんですか…?」
「だ、だから、色んな悪い人がいるの、世の中には!」
「あ、ずるい。僕、"後は" の先を聞きたいんですけど」
「わかってるでしょ、その聞き方は!」
先輩が俺を睨んでそう言う。赤い顔して可愛い。
「樫木先輩相手にその妄想は、いいオカズになりそうですね」
「な…っ!」
「まぁ、僕はいい子なんで、しませんけど」
そう言った俺の胸を、樫木先輩は繋いでいない方の手でバシっと叩いた。
" 絶対、素敵な相手がいるから…! "
力を込めて、先輩がそう言ってくれたことが嬉しかった。そして、その相手がこの人であればいいのにと、心の片隅で思ってしまった。
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