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1-11. 彼女の幸せ
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「幸野くんの、バカ…!」
「え…?」
情けなく俯く俺の頬に樫木先輩の手が触れ、そのままムギュっと頬をつねられる。驚いて顔を上げると、先輩は怒った顔をしていた。
「樫木…先輩…?」
「別れたの…!」
「は…?」
「だから、水原部長とは、別れたの!」
そう言って、怒ったままの彼女の瞳が真っ直ぐ俺を見る。
「え…、どういうことですか…、だって、水原部長、離婚するって…」
「そう言われたけど、別れたの!」
「え…、なんで…」
「だから、それは…!」
何かを言いかけて、先輩が頬を染める。意味がわからない。
「も、もう少し、頭を冷やしてから、言うつもりだったのよ…。 だって、水原部長と別れたばかりでこんな…」
その表情は、何度も見たことがあるものだった。だけど、それが向けられている相手が、いつもと違う。
いや、そんなこと、あるわけがない。だって、そんなの、今まで一度だって…
だけど、俺にとって幸せすぎるそれを、聞かずにはいられなかった。
「間違ってたら、すみません。僕の事、好きなんですか…」
そう聞くと、彼女の瞳が柔らかく潤んで、ふわっと唇が重なった。
◇
優しくキスに応えながら、先輩の頬を手のひらで包む。
「これ…、現実ですよね…」
「現実だってば…」
「明日になったら実は夢だったとか、なんかそういうオチがありそうで…」
「…幸野くんって、いつも余裕ぶってるわりには意外と小心者なのね」
そう言いながら、先輩が可笑しそうに笑う。夢みたいで、心がふわふわしている。
「なんで、僕を選んでくれたんですか…」
そう聞いた俺を、先輩が優しい瞳で見つめた。
「水原部長と付き合ってた間、あたしはどうしたら幸せになれるんだろうって、ずっと思ってた」
穏やかな顔で先輩がゆっくりと話し始める。
「答えなんてなかった。当たり前よね。あんな恋愛に、幸せなんてある訳ない。だけど、そこから抜け出す方法がわからなかった」
それは彼女が水原部長のことを愛していたからだろう。水原部長の幸せと、自分の気持ちの間で、矛盾に苦しんだのだと思う。
「幸野くんと一緒にいて、シンプルでいいんだなって気付いたの」
「…シンプル…? それは、僕が単純ってことですか?」
否定はできない。面白半分で脅すつもりが、あっさりこの人に恋をしてしまったわけだから。
「ふふ、そうじゃなくて。あたしが、幸せにしたいって思ったのよ」
「……?」
「自分が幸せかどうかよりも、皆を幸せにしてきた幸野くんを、今度はあたしが幸せにしたいなって」
そんなことを言う人が現れるとは思ってなかった。だって、俺はもう、ずっと報われないのだと思っていたから。
「僕で、いいんですか…」
「幸野くんが、いいのよ」
そう笑った樫木先輩が、俺の首にギュウッと抱き付く。泣きたくなるぐらいの幸せを抱き締め返して、俺は先輩をそのままゆっくりと押し倒した。
「抱いてもいいですか…」
そう尋ねた俺に先輩は微笑んで、彼女はもう一度、俺にキスをした。
「え…?」
情けなく俯く俺の頬に樫木先輩の手が触れ、そのままムギュっと頬をつねられる。驚いて顔を上げると、先輩は怒った顔をしていた。
「樫木…先輩…?」
「別れたの…!」
「は…?」
「だから、水原部長とは、別れたの!」
そう言って、怒ったままの彼女の瞳が真っ直ぐ俺を見る。
「え…、どういうことですか…、だって、水原部長、離婚するって…」
「そう言われたけど、別れたの!」
「え…、なんで…」
「だから、それは…!」
何かを言いかけて、先輩が頬を染める。意味がわからない。
「も、もう少し、頭を冷やしてから、言うつもりだったのよ…。 だって、水原部長と別れたばかりでこんな…」
その表情は、何度も見たことがあるものだった。だけど、それが向けられている相手が、いつもと違う。
いや、そんなこと、あるわけがない。だって、そんなの、今まで一度だって…
だけど、俺にとって幸せすぎるそれを、聞かずにはいられなかった。
「間違ってたら、すみません。僕の事、好きなんですか…」
そう聞くと、彼女の瞳が柔らかく潤んで、ふわっと唇が重なった。
◇
優しくキスに応えながら、先輩の頬を手のひらで包む。
「これ…、現実ですよね…」
「現実だってば…」
「明日になったら実は夢だったとか、なんかそういうオチがありそうで…」
「…幸野くんって、いつも余裕ぶってるわりには意外と小心者なのね」
そう言いながら、先輩が可笑しそうに笑う。夢みたいで、心がふわふわしている。
「なんで、僕を選んでくれたんですか…」
そう聞いた俺を、先輩が優しい瞳で見つめた。
「水原部長と付き合ってた間、あたしはどうしたら幸せになれるんだろうって、ずっと思ってた」
穏やかな顔で先輩がゆっくりと話し始める。
「答えなんてなかった。当たり前よね。あんな恋愛に、幸せなんてある訳ない。だけど、そこから抜け出す方法がわからなかった」
それは彼女が水原部長のことを愛していたからだろう。水原部長の幸せと、自分の気持ちの間で、矛盾に苦しんだのだと思う。
「幸野くんと一緒にいて、シンプルでいいんだなって気付いたの」
「…シンプル…? それは、僕が単純ってことですか?」
否定はできない。面白半分で脅すつもりが、あっさりこの人に恋をしてしまったわけだから。
「ふふ、そうじゃなくて。あたしが、幸せにしたいって思ったのよ」
「……?」
「自分が幸せかどうかよりも、皆を幸せにしてきた幸野くんを、今度はあたしが幸せにしたいなって」
そんなことを言う人が現れるとは思ってなかった。だって、俺はもう、ずっと報われないのだと思っていたから。
「僕で、いいんですか…」
「幸野くんが、いいのよ」
そう笑った樫木先輩が、俺の首にギュウッと抱き付く。泣きたくなるぐらいの幸せを抱き締め返して、俺は先輩をそのままゆっくりと押し倒した。
「抱いてもいいですか…」
そう尋ねた俺に先輩は微笑んで、彼女はもう一度、俺にキスをした。
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