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楽しいお掃除だよ
トイレ掃除とシーサー
しおりを挟むキュキュキュ、ゴシゴシ。
「ねえ、みどりちゃん、トイレ掃除もたまにやると楽しいと思わない~」
真理子の妙に明るい声がトイレ内に響く。
「楽しくない」
わたしは一言だけ返す。
だって楽しいわけがない。真理子のシーサー騒動のおかげでこんなことになっているのだから、勘弁してもらいたい。
「え~でも客室のトイレ掃除よりは広くて掃除しやすいよ~」
「それはそうだけど……」
真理子はトイレの床に水を撒き喜んでいる。
もう、わたしもやけくそで楽しもうかな。
「貸してホース」
真理子からホースを受け取り床に水を撒く。流れる水を見ると汚れも流れていくようで気持ちいい。
流れるホースの水を眺めながら、わたしは真理子に聞いた。
「それはそうと、池垣さんには、もちろんシーサーあげないわよね?」
「え? 不公平じゃん!」
「不公平って、まさかこの期に及んで、まだあげるつもりだったの?」
「う~ん。どうしようかな?」
モップを片手に持ち考えるポーズの真理子。
「そのシーサーには、あの言葉が書いてあるとか?」
「あの言葉とは、笑ってね、そしたらもっと幸せになれるからのことかな?」
「そうだよ。それ」
「書いてあるよ。勿論」
溜め息が出る。真理子、あんたの頭の中はどうなっているんだ。さっきその言葉で真中さんの怒りを買ったばかりだというのに信じられない……。
真理子にとっては楽しいお掃除。わたしにとっては、とばっちりを受けたとんでもないお掃除を終え、へんてこりんな、掃除のユニフォームを脱いだ。
わたしの手元には、現在シーサーは残り二個。せっかくだから、この際池垣さんにもシーサーをあげてもいいけど、だけど……。
また、真理子のあのシーサーで池垣さんの怒りまで買うのは正直きつい。
「みどりちゃん、やっぱり池垣さんにはシーサーをあげるのやめようかな?」
わたしが頭の中でぐちぐち考えていると真理子が言った。
「うん。その方がいいと思う。でも真理子が池垣さんのために買ったんだったら怒り覚悟してあげるのもいいのかもとも思うけど」
なんて言葉を気がついたらわたしは発していた。
「やっぱり、そう思う?」
わたしの発言に真理子は気をよくした様子で、ニッコリしている。
「ううん。思わない。思わない、だけど、まあ、あげてもいいんじゃないの?」
「そう……じゃあ、あげようかな?」
そう言って真理子は、袋からシーサーを取り出して、右手の上にのせた。
ああ、やっぱり……。
真理子の手の上にあるシーサーは、ピンク色のハイビスカスの上に二体のペアのシーサーが乗っていて笑顔で、『笑おう、怒ってばかりいると幸せが逃げるよ』と書かれた小さなボードを持っていた。
これを見ると、わたしは自分の発言に後悔した。余計なことを言わなければ良かった。
そういえば……
「ねえ、真理子。そのシーサー以外に何も言葉が書かれていない普通のシーサーも持っているよね?」
「うん」
「じゃあ、池垣さんにはそれじゃないシーサーをあげたらいいんじゃない!」
「そっか、みどりちゃんってやっぱり頭がいいね~」
真理子は、うんうんと頷き感心したポーズ。
今頃気がついたわたしは、馬鹿だと思うよ。真理子はそれ以上に間抜けかもね。
そして、真理子は、黄色にピースサインをして大きな口を開けて笑っているシーサーを池垣にあげた。
何も知らない池垣さんは、「まあ、嬉しいわ~」なんて言って喜んでいた。
取りあえず一件落着。
わたしの手持ちのシーサーは一個になってしまったけれど、まあ良しとしよう。
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