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第四章 新しい始まりの日
8 じゃんけんしましょう
しおりを挟むわたしはその気配にくるりと振り返った。
すると、そこにはスーツ姿の男性の姿があった。
わたしはびっくりしてすぐに言葉が出てこなかった。けれど慌てて椅子から立ち上がり「いらっしゃいませ」とわたしは笑顔を作って言った。
「こんばんは、なかなか良い雰囲気のお店ですね」
スーツ姿の男性は店内をキョロキョロ見渡した。手にはわたしが渡したチラシが握られている。
「お昼間にチラシを受け取って頂いた方ですよね?」
「はい、お姉さんの可愛らしい微笑みを思い出して来てしまいました。それと、じゃんけんに勝つと本が半額になるんですよね?」
男性は、わたしが配ったチラシに目を落とし楽しそうに笑った。
「はい、わたしに勝ったら本が半額になりますよ。どーんとかかってきてくださいね」
わたしは、胸をぽんぽんと叩いてみせた。
「あははっ、なんだか面白い方ですね」
男性はクスクス笑い「では勝たしてもらいますよ。あ、その前に本を選ばないと」と言って書棚に向かった。
やっと本が売れるのかなと思うと嬉しなった。あまりにも嬉しくてわたしは口を両手で押えてぐふふっと笑ってしまった。
「真理子、今声が聞こえてきたけどまさかのお客さんなのかな?」
みどりちゃんがひょっこりとわたしの前に姿を見せた。
「うん、そうだよ~今ね、お客さんが本を選んでいるんだよ」
わたしは、ほら見てと天井まである本棚の前で本を選んでいる男性を指差した。
「わっ、本当だ! やったね真理子。遂にお客さんが来てくれたんだね」
みどりちゃんも満足そうに顔をほころばせた。
お客さんが店内にいるただそれだけのことがこんなに嬉しいなんてこの気持ちを忘れずに大切にしたいなと思った。
「みどりちゃん、お客さんが来てくれて嬉しいね」
わたしは、両手の拳を胸の前で握りガッツポーズを作った。
「本、選びましたよ」
お客さんが本を持ちこちらにやって来た。
「ありがとうございま~す。ではでは、わたしとじゃんけん対決ですね」
「はい、お姉さんとじゃんけん対決ですよ。負けませんよ」
男性は腕まくりをしてワッハッハと笑った。
「わたしも負けませんよ。にひひっ、わたし意外とじゃんけん強いんですよ」
ここは、わたし真理子のじゃんけんの強さを見せつけなくてはねと考えたところで、いやいやここは負けた方が良いのかなと思い直す。
わざと負けるそれは駄目だ。相手に失礼だ。どんな時でも正々堂々と勝負に挑まないとならないよ。
「ちょっと、真理子、顔が面白すぎるよ。早くじゃんけんしたら?」
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