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第4章 仕官編

(25)※ お家デート

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 まだ昨日付き合い始めた俺たちだけど、たった一晩で付き合い方が随分変わった。こうしてハグしてキスすることも。お互いしっかり抱き締め合って、髪を掻き上げながら、ゆっくりと舌と舌を絡めて。

「んんっ…」

 彼の小さいうめき声に、背筋がゾクリとする。ああこれ、ベッドでやってることとほとんど同じだ。

 さっき市場で考えたことが、今更ながら俺の心臓をチクリと刺す。

「お前…本当に俺でいいのかよ」

 聞いても仕方のないことだ。彼は今、魅了下にあって、正常な判断が下せない。だけど。

「お前が付き合おうって言ったんだろ」

 不服そうに、また唇を重ねて来る。可愛いヤツだ。まあ所詮これも全部、嘘っぱちなんだけどな。

「お前、婚約者とか女とか、いたろ?」

「何だ、急に」

「その、すっかり浮かれて付き合おうなんて言っちまったけど、そういうのやっぱ」

「婚約者はいない。特定の女も」

 え、そうなの?

「婚約は、仮のもの。お互い婚約除けにしてるだけ。女も…したい時にはするけど、面倒臭いだけだ」

「そうなのか…」

「『おかに上がったサイレン』が、子供なんか作れるわけないだろ」

 成績優秀な彼がなぜ、こんなところで修行僧のような暮らしをしているのか、改めて理解した。彼は虎人族ワータイガーの頂点、ノースロップ家の長子ではあるが、彼自身には虎人族の身体的特徴に乏しい。俺の鑑定には、ハーフサイレンと出るくらいだ。血統主義、実力主義の獣人の世界で、彼が次代のノースロップを率いて行くのは難しい。だから彼は、歳の離れた兄弟にその地位を譲ろうとしている。かといって、彼が子をすとなると、後々のちのち争いの種になるだろう。俺が思っていたより、彼の境遇は厳しいものだった。

 まあ、とはいえ俺も同じようなもんだ。淫魔インキュバスの俺が、不死種ヴァンパイアを取りまとめるマガリッジ家に留まれないのと同じこと。

「ふふ。居もしない女に、妬いたのか?」

「!」

 図星を突かれた。そして、初めて見る彼の笑顔に、ハートを撃ち抜かれた。ふわりと花がほころぶような、無垢な笑顔。何だその顔、反則だろう。

「お前でも、そんな顔するんだな」

「やめろ」

 多分俺は今、顔を真っ赤にしている。たまらず顔をそむける。こっち見んな。

「お前こそ、いるんだろ。他にも」

「知ってるかもしれないが、婚約者にはフラれた。あとは…そんなお前が思ってるようなことはない。大体、全部お前が初めてだったし」

「は?」

「悪いかよ!」

 そうだ。結局、男を抱いたのも男に抱かれたのも、キスも付き合ったのも全部、ナイジェルが最初だった。女に至っては皆無だ。

「だってあんな…俺はてっきり…」

「俺みたいなヤツに手を出そうなんて物好き、そうそういやしねぇよ」

「お前それ本気で言ってるのか?」

 本気も本気。だってほんの半月前まで、レベル15の引き籠もり淫魔だったのだから。

「っていうことは、まさかこの短期間で、他の…」

「ノーコメント」

 父上のことだけは、さすがに言えない。

「お前が精を欲する種族なのは、理解しているつもりだが…」

 ナイジェルは、複雑な顔をしている。俺も多分、彼がこの短期間で、他の男や女に手を出してたら、さすがに引くだろう。俺たち、何気なにげにやりまくりだったしな。

「流石に誰でもって訳じゃねぇよ。現に、抱かれたのはお前だけだし」

 まあ、抱きながらちゃっかり自分のそこと接続して、精も頂いてるんだけども。自家発電方式で。

「それは本当なのか」

「当たり前だろ、俺だってそんな誰彼構わず…うわっ」

「抱く。今すぐ抱く」

 ちょっ、ここダイニング!

「約束しろ。俺以外には、絶対に体を許すな」

 さっきまでの穏やかな調子とは違い、彼は初めての時みたいに、強引に俺の体を暴き始めた。お前、こういうとこだけ獣人なんだな…。



「あっ、あ、あ…」

 俺は壁に手をついて、後ろから穿うがたれていた。最初はダイニングテーブルに手をついた状態で貫かれたが、ガタガタ揺れて駄目だった。いきなりダイニングでセックスなんてAVみたいな展開だが、ああいうの、どうやってるんだろう。結構上等な重いテーブルセットなのに、ナイジェルがグッ、グッと奥までじ込んでくると、それに耐えきれない。単純に、人間ヒト族よりも力が強いからだろうか。それともああいうのは、そういう「ごっこ」っていうか、こういう本気セックスとは違って…ああもう、駄目だ。

「イっ!あ、も、イっく…!」

 壁に爪を立て、全身に走るゾクゾクとした快感に身を任せ、はしたなく精を吐く。こんなところで、何度イかされたか分からない。

「はぁっ、はぁっ、ナイジェル、俺のも、中に入れて…」

「駄目だ。お前のが入って来たら、俺は理性を保てない」

 彼も俺とヤった時のことは自覚しているようだ。俺の精には強烈な催淫効果があって、あの時彼はうっかり俺の精液を飲み、それからオークのように延々と、無遠慮に俺を犯し続けた。あれはあれでめちゃくちゃ気持ち良かったんだが、彼の矜持きょうじに反するらしい。

「あ、駄、目…イってるから、待って…!」

「お前、俺がそう言って、待ってくれたことなんてなかった」

 やっべ、仕返しされてる。ああ、すぐ次のが来る。次のが来る…!

「あっ、いっ…ヒッ、ああ!」

「くっ、メイナード…!」

 頂点で恍惚としている俺に、彼は無慈悲に腰を叩きつけ始めた。

「ああっ!ああっ!ああっ!」

 俺は彼の動きに合わせて、悲鳴を上げることしかできない。快楽で目眩がして、視界が歪む。内側からはらえぐられ、ズン、ズンと奥まで突き動かされて。ああ、俺、今ナイジェルのメスになってる。いいように支配されて、狂わされてる。

「あ”、あ”、あ”あ…!!」

 ああ…中っ…中に、いっぱい、虎のオスの匂いと、サイレンの甘い幻惑の匂い…入って来る…
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