類を惹く

星来香文子

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最終章 類を惹く

類を惹く(5)

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 後日、古住みなみさんは、殺人未遂の罪で起訴された。
 音成優は救急車で運ばれた後、しぶとくも生き延びたのだ。
 本当に、本当に腹が立ったし、私は殺しに行く機会を伺っていたが、それから四日後、何者かに殺害されたらしい。

 犯人が誰かはわかっていないが、おそらく病院に自由に出入りできる関係者の中に兄のファンがいたのではないかと言われている。
 残念なことに「私の代わりに殺してくれてありがとう」と言いたかったが、今の所それは難しい。

 古住みなみさんの方は無罪にはならなかった。
 未遂で、しかもあの時の彼女は精神的に不安定な状態であっただろうに、音成優と何が違ったのか私にはさっぱりわからない。
 その頃には兄は一部のファンの女たちによって神格化されており、古住みなみさんを褒め称えている団体が裁判のやり直しを訴えているのだとか。
 私たち遺族の許可なく勝手に行なっている活動なので、私たちはその件に関して一切関与していないし、したいとも思わない。


 そして、兄の死から一年後、一周忌の法要は父と私の二人だけで執り行うことになった。
 お坊さんにお墓の前でお経を上げてもらうだけ。
 裁判の時も葬儀の時も知らない女たちが泣き喚いて散々な目にあったし、生前の兄には世話になったという人は多くいたけれど、本人が亡くなっている為、それが本当かどうかわからない。

 特に怖いのは女性だ。
 私たちは、そういう話はもう全部信用しないことにした。
 
 台風の影響で、当日の天気がどうなるか不安だったが、昨日までの大雨が嘘のように空は青く高く晴れ渡っている。
 まだ七月に入ったばかりだというのに、少し歩いただけでじっとりと汗をかくような暑さの中、駐車場に車を停め、お供え物の苺のお菓子と煙草、ビールを持って墓の方へ向かって歩いていると、なんだか騒々しい。
 住職を待たせてはいけないと、少し早めに家を出たはずだった。
 それなのに、飛鳥家の墓の前に人だかりができていた。

「あ、飛鳥さん!!」

 どうやら住職が先に来ていたようで、背の高い住職が父を見つけて声をかける。
 この暑いのに、住職は真っ青になっていた。

「大変なんです!! 私たちも今知ったんですが……」

 どうやら、集まっていたのはお墓の管理をしている事務所の人たちと、飛鳥家の隣の墓にお参りに来ていた人たちだった。
 実はその隣の墓では七回忌法要が執り行われていたらしい。
 その為、住職は私たちと約束した時間より早く来ていたそうだ。

 そちらの法要は無事に済んだのだが、帰り際にふと飛鳥家の方の墓を見ると————

「墓荒らしですよ!! おこつがなくなっているんです!!」

「え……?」

 住職の言った通り、飛鳥家の墓が荒らされている。
 墓石の下にある骨壷を入れておく場所がこじ開けられており、ぽっかりと穴が空いていた。
 そこにあるはずの、兄の骨壷だけがなくなっていた。

「雨で濡れている様子はないので、おそらく、今日の朝方にやられたんだと思います。一体誰が、こんな罰当たりなことを……」

 父も私も、空いた口が塞がらなかった。



 * * *


 後日、警察に見せられた墓地の駐車場や管理事務所、周辺道路の映像を確認すると、そこに映っていたのは、兄の骨壷と思われる白い壺を大切そうに胸に抱え、時折、頬ずりをしながら歩く、髪の長い、ミモレ丈のワンピースを着た女。

「この方に、見覚えはありますか?」

 ————見覚えしかない。

 だが、少々画質が荒いために誰だか判断がつかない。
 あれから一年経っている。
 それに、私が思い浮かべている容疑者の中にいるとも限らない。

 兄は、こういう類の女に好かれやすい。



 骨と灰だけになっても、こんな目に合うのなら、綺麗な顔になんて生まれて来なければよかったのにと、悔やんでも悔やみきれなかった。

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