【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー

秋空花林

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第三章 空を舞う赤、狂いて

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「なあ、俺とー」
「どうした?」
「………ごめん。何でもない」

 ギュッと手を握って太陽は俯いた。
 その先は言えなかった。

 一瞬、ルースの顔が浮かんだから。

「オナカいっぱい!」
「ありがとな、マトモな肉食ったの久しぶりだ」
「…それは良かった。まだあるから」

 瘴気を食い止める術があるのに言い出せない。それが心苦しくて、まともに顔を見れなかった。

「もう少ししたら北へ向かうけど、大丈夫か?」
「あぁ、わかった」
「キタ!マオウ様にアエル!」



◇◇◇



 昨日までは、北へ行きたくない、魔王なんかに会いたくない、そう思っていた。

 でも今朝聞いた話で、魔王に会わなければ、と思った。

 ルースに瘴気の傷をつけた張本人だけど、悪男の言葉も無視できないと思ったからだ。

 それに北には光の勇者もいる。

 ならきっと、自分もそこに行くのが必然なのだろう、そんな気がした。



 北へは、悪男が飛んで連れて行く、と言われた。

 小鳥達が困らない様にと、聖気を込めた餌を多めに置いてから、悪男は翼を広げた。

 真紅で鮮やかな赤。雲からの僅かな陽光を受けて、羽根が美しく艶めいていた。

「キレイな羽根だな」
「オレ、キレイ?」
「あぁ最高だ」
「ウレシイ」
「ショーキお前は寝てろ。夜に交代だ」
「ん!オヤスミ」

 ショーキ側の右目の瞼だけが器用に下りた。
 どうやらさっき起きたばかりなのに、もう寝てしまった様だ。

 昨日と同じ様に、悪男が背中から太陽を抱きしめて空を舞った。

 小鳥達が見送る様に、鳴きながら辺りを旋回している。

 悪男の棲家すみかがどんどん遠くなって行った。

 赤い峡谷の最も高い場所に、その棲家はあった。西の守り神の拠点。最後の一族の生き残りが北へ向かう事で、そこに住む者はもう誰もいなくなった。

 きっとまだ大丈夫だ。

 太陽は自身の身体を抱きしめる悪男の腕を掴んだ。

 きっとまだ間に合う。東の森で空が蘇った時、森に聖気が満ち、仲間は闇堕ちから助かった。

 だからきっと。きっと悪男や西の一族を助けれる筈。

「大丈夫か?寒い?」
「平気」
「疲れたら言え。少しスピードを上げるぞ」

 高度と速さが上がる。

 赤く芸術的な峡谷が一望出来た。

 昨日以上の高さとスピードだったが、不思議と怖くは無かった。

 ルースや空ほど一緒にいる訳じゃないのに。それ程に悪男を信頼してる自分がいた。

 美しい幾つもの地層を眺めながら、太陽は今の自分に何が出来るのかをずっと考え続けた。



◇◇◇



 飛び続け夕方に差し掛かる頃。峡谷と砂漠の狭間に、2人は降り立った。

 辺りが暗くなると、飛べなくなるからだそうだ。

 峡谷の地層を背中に、数メートル先は砂漠が広がっていた。この砂漠を越えると北へ入るらしい。

 西は火が使えないからと、悪男は光る鉱石を土の上に大量に置いた。これなら熱は無いが、光量には十分だそうだ。

 その後、2人分の広さの布を引いて簡易的に寝れるスペースを準備してから、オレは明日も飛び続けないといけないからと、ショーキに変わった。
 
 澄んだ美しい左目が瞼を閉じ、右目の臙脂色えんじいろが現れる。

「今度はショーキが起きるのか?」
「オレ見はり!セーヤまもる」
「……ありがとう」

 魔王に無事届ける為だとわかってても、悪男とショーキの気遣いがくすぐったい。

 ショーキが何やら赤い色の液体を、2人を中心にして周囲に撒き散らした。

 鉄の錆びた匂いがする。何かと聞くと、西に住む強い生物の血だと言った。
 強い獣の血は、それより弱い者を牽制するのに使えるから、だそうだ。

 ゴニョゴニョとショーキが何かを呟くと、血を撒いた辺りが小さな赤と紫の光の粒で満たされた。何となく結界みたいなものだろうと思った。

 それと同時に鉄の錆びた臭いも消えた。

 少しずつ辺りが薄暗くなって来た。空を見上げると、雲の向こうがほんのり茜色に染まっていた。

 やれる事がないなら、早めに寝た方がいいかも、と思いショーキに夕飯にしようと提案した。



 相変わらず生肉を美味しいそうに食べるショーキに、太陽は気になっていた事を尋ねた。

「なぁ、前言ってた女神が鳥族を滅ぼそうとしたって話。何で女神はそんな事を?」
「モグモグ…メガミ、トリキライ」
「何で?何かしたの?」
「ハネ、キライ」
「羽根?それは鳥族の象徴だろう?まさか羽根が嫌だからって理由だけで種族を滅ぼそうとしたの?」

 こくん、とショーキが頷いた。

 鳥の羽根が苦手という人は確かにいる。生理的な物だから仕方ないけど。もし本当にそれが理由なら。

 女神様ってワガママ?もしくは人間的?どちらにしても、太陽がイメージする博愛的な存在ではないのかもしれない。

「でも滅ぼそうとしたけど、何とか大丈夫だったんだろ?」
「モグモグ…マオウ様のおかげ」
「魔王?」
「トリかばった」
「……」
「代わりにマオウ様くるった」
「え?」
「だからトリ、マオウ様ツカエル」

 その後はショーキはパクパク無言で肉を食べる事に集中しだした。

 一方、太陽はショーキの言葉の意味を考えていた。正直食事どころじゃない。

 女神は鳥族が嫌い。だから滅ぼそうとしたが、それを魔王が庇った。だから鳥族は恩を感じて魔王の配下に下った、というところか。

 東の村でも西は瘴気に染まって魔王の配下になったと聞いたが、事実は全然違った。きっと瘴気に染まる前から、鳥族は魔王に仕えていたんだろう。

 そこまで考えを整理して太陽は一息吐いた。そろそろ、考えた計画を実行しよう。

「なぁ、ショーキ喉渇かない?」
「カワイタ!」

 木のコップに水を入れる。
 その時、持っていたナイフでほんの少し指を切って、水につけた。

 体液が瘴気に効くなら、血も有効な筈。そう考えたから。これで空やルースの様に瘴気が浄化されるといいけど。

 コップを受け取ると、ショーキはクンクンと匂いを嗅いだ。良いニオイがスル!叫んで飲み干した。この水アマイ!ウマイ!と嬉しそうに叫んで。

 突然うずくまった。

 コップも地面の石に落ちて跳ね返った。

「ショーキ?おい!大丈夫か?」

 慌ててショーキに駆け寄る。ウウと唸ってうずくまるショーキの背中をさすった。

 もしかして…瘴気から生まれたショーキには毒だった?

 純粋なショーキの事は嫌いじゃない。ただほんの少しでも症状を改善させたかっただけなのに。

「イタイ」
「どこが痛い?大丈夫か?」
「ここヘン、イタイ」

 涙目で訴えて来たショーキは自分の股間を押さえていた。そこはズボンがはち切れそうに盛り上がっていた。



ーーー


 次話、閲覧注意です。
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