高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「な、なんだ!? 全員、警戒態勢!」

 モヒカンさんの大声に続いて俺とサヤが振り返ると――

「ごばぁ!!」

 坊主さんが、鬼気迫る形相で吐いた。
 これ、は……?

「ず、ずびばぜん……」
『アイツ、不摂生な上に大酒呑みだからリバースすんだよ』
『けどよ、先月奥さんにこっぴどく焼き入れられて以来、断酒してるはずだぜ?』

 そんな会話がどこからともなく聞こえてくる。
 断酒……?

「お見苦しい所をお見せしてすんません」
「生理現象ですから、仕方が」
「腹いてぇ! もっ、漏れちまう!!」

 今度は、銀髪に異変が起きる。彼はおしりを両手で抑えながら、便所と札のかかった部屋に駆け込んでいった。

『はははっ。見たかよあの間抜けな面』
『ああ。ありゃ相当くだしてんな』
『あの馬鹿、何食ったんだろうな。刺身があたった――ぐ……う……』

 次は、赤髪の人。突然側頭部を押さえながら、蹲ってしまった。

「あ~、コイツは酷い頭痛持ちなんですよ。おい、奥の部屋に運ぶぞ! お前足担げ」
「あいよ。よっし、いっせーのーっせっ」
「ぐおっ!?」
「ぐほぅ!?」

 頭と足を持ち踏ん張った二人が、へなへなと女の子座りになってしまった。

「こ、腰が……」
「ぎっくりしちまった」

 今回は、同時のぎっくり腰。
 信じられない負の連鎖に、おもわずその場にいた全員が言葉を失った。

「……………………」
「たっ、たくっ、マジで困ったヤツだなぁ。骨が折れるが、邪魔だし運ぶ――あ、足が、両足がぁ攣った!?」

 両手で両ふくらはぎを押さえ、転げまわる金髪さん。低く唸る声から、相当な激痛だと容易に想像できる……。

「こ、こいつら、肝心な時になにやってやがる……」

 地べたで苦しむ五人を睥睨し、拳を震わせるモヒカンさん。

「自分の意志ではどうにもなりませんから、怒らないでくださいですよー」
「そうですよ。今はこの方たちをどうにかしないと」
「旦那に姉御、お優しい言葉を……。ったく、常日頃たるんでるから――うふぉ!?」

 妙な声と同時に顔が青白くなり、小刻みに震えだすモヒカンさん。
 今度は、なんだ……?

「腹いてぇ! 漏れちまう!!」

 ついさっき別の人が言った台詞を追唱してトイレに走った。
 でもそこには先客が……。

「なっ! おい、開けろ! 今すぐだ!」
『か、堪忍してくださいっ! ま、まだ、腹がぐるぐる鳴りっぱなしで』
「ぶっ殺すぞてめぇ! 開けねえと、てめえを殺すからな。殺すからな!」

 殺すを連呼して、ドアを壊す勢いで一心不乱に叩き続ける。相当キテいるようだ。

「あのー。近くにコンビニありましたから、そこを使えばどうですか?」
「だ、旦那ぁ。……そ、そうさせて、もらい、やす……」

 内股でお尻を両手で押さえながら、ゾンビのようにふらふらと外へ。
 こうして、七人の護衛は全滅してしまったのだった……。


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