高坂くんは不幸だらけ

甘露煮ざらめ

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「もぐもぐもぐ」
「もぐもぐもぐ」

 それから俺らは交互に端っこから食べて行き、いよいよ。お互いが食べた跡があるエリアに侵入する時がきた。

「こ、高坂君。ボクの番、だね……」
「そうなるな。まぁ、気にせずガッツリいっちゃって」
「う、うん…………」

 たかがクレープなのに、工房で一心不乱に鉄を打つ刀鍛冶ような真剣な眼差し。

「ど、どうしたよ?」

 妙な迫力につい声をかけてしまった。それほどまでに、異常に思えたのだ。

「…………こ、高坂君の……」
「悠人?」
「か、かかかかか間接…………間接キスに、間接キスに……なっちゃう……」
「な、何ぶつぶつ言ってんだ?」

 聞き取れないような速さで、何かをひたすら呟いている。
 なんだなんだ……?

「こ、高坂君とっ。高坂君とぉっ!」
「お、おいっ。大丈夫か……?」

 尋常じゃない程顔が真っ赤になっている。加えて、激しく震えているよ!?

「き、きききき。きききききしゅぉぉ…………あぅ」
「悠人――――!?」

 頭上にボンッと煙のようなものが見えた直後、彼は糸が切れた操り人形のようにハートのテーブルに突っ伏したのだった。



「ご、ごめんなさい。迷惑かけちゃってごめんなさい」

 あれから十数分後。悠人は無事に意識を取り戻し、俺達は店を出た。
 のは、いいんだけども。彼は店を出てからもずっと謝罪を繰り返してくれる。

「本当にごめんなさい。迷惑をかけちゃって、本当にごめんなさい」
「んーん。全然気にしてないよ」

 俺はそれに対し、首を左右に振って否定する。ああなった理由はわからないけど、怪我をしなくてよかった。
 なんか鈍い音がしたから心配だったんだよな。

「夢心地だったね。マイワイフ!」
「イエス! マイダーリン!」

 伝説の力なのか、恋人を通り越して夫婦になってる目の前の二人にはそろそろツッコむべきなのだろうか? やっぱり、放っておこう。

「あ、ありがとう。……しゃ、写真……届いたら、絶対、部屋に飾るからね」
「いやぁ。そこまでしなくてもいいと思うよ?」

 あんな滑稽な写真が部屋に置かれてると想像しただけで憂鬱になってしまう。お姉さん方に発見されたら日にゃ、どう言い訳すりゃいいのさ。

「ううん、ボクの宝物だから――あ、ちょっとごめんなさい」

 律儀に断りを入れて、ひらひらのスカートから一生懸命震えるスマホを取り出す。暫し画面を見つめたのち、数回タップをして端末を仕舞った。

「お姉ちゃんから、暇になったから早く帰って感想教えてって来たの。もうちょっとお喋りしたかったけど、帰らなくっちゃ」
「ぁ~。残念だけど、姉命令なら仕方ないね」
「ボクから誘ったのに、ごめんなさい」
「悠人っちは気にするなっての。それじゃ、オレも夕方から留守番頼まれてるし、お暇すっかな。順平とサヤっちはどうすんの?」

 さりげなく会話に入ってくる遥。すでにお惚気設定は終えたようだ。

「俺たちはぶらついてから帰るよ。じゃあ、今日はこの辺でお開きにしますか」
「おうよ。じゃあお疲れ」
「また明日、学校でね」
「遥さん、小神さん。バイバイですよー」

 名残惜しそうな悠人、その肩に腕を回して楽しげに歩く遥とここでお別れして、俺たちは本来の目的であるサヤの買い物を再開することにしたのだった。


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