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「メニューですが、カップル用は『ラブラブ☆クレープ』のみとなってますがよろしいでしょうか?」

 よろしいも何もさぁ。それ以外の選択肢がないじゃないか。

「……はい。それで」
「はいっ! それでは、お先にお会計二千円をお願いしまーす」

 高っ。ペアだからクレープ二つにしても、その値段設定はないだろ――ってお嬢さん、なぜ俺を凝視する。

「お会計は、男性の宿命となっております。必ず彼氏さんがお願いしますねっ」
「…………へいへい。彼氏でも彼女でもないけど、相手が悠人なんで俺が負担しますよ。

 チーン。二千円が財布から旅立った。

「では! しばし愛の時間を育んでくださいね~」

 どうして素直に、『クレープが出来るまでお待ちください』と言えないのだろうか。
 うん、分かってる。この人達も店の方針があるから、言えないだけなんだよね。

「ご、ごめんね、高坂くん。ボクがこんな格好してるから……」
「もう済んだこと。気にしないでいいよ」

 気遣いが出来る悠人のことだから、俺の心情を感じ取ったんだろう。だから、これ以上愚痴るのは止めておこう。

「はいどーもっ。写真撮影のサービスでーす♪」

 唐突に、ピンク色のカメラを持った店員が再登場した。
 この唐突さ。愚痴らないって思ったけど、愚痴りたくなってきた。

「お二人の記念写真を撮って、ラブラブ加工をして、後日ご自宅にお届けしますっ。あ、もちろん無料のサービスですので」

 どうせさっきの料金に含まれてんだろ。そう思う俺は悪い子ですか?
 というかもう、愚痴りまくってますね。なんかごめんなさい。

「ささっ、お二人とも、頬っぺたを近づけてくださいねっ」
「断るっ――悠人っ、どうして悲しそうな顔するんだよっ」
「だ、だって……そ、その……。ボクじゃ……だめ、かなぁ……」
「……わかったよ。これでいいんでしょ」

 悠人の肩を引き寄せ、頬を密着させる。以前、姉から強引にお肌の手入れを受けていると言っていただけあって、もっちりスベスベ。いや、別に変な意味はないからね。

「はいばっちりです。では行きますよー、はいラーブ!」

 パシャッと光って、撮影は終わった。多分きっとこの『はいラーブ』は、『はいチーズ』的なものなんだろうね。

「それでは、お二人ともっ。こちらに住所をお書きになってくださいね」

 差し出された用紙に住所を書き書きして、お渡し。そうしているとナイスなタイミングで、俺達が注文したクレープが運ばれてきた。

 そして。

 一個のクレープが、テーブルに置かれた。


「あの……。これ……」
「こちらのクレープは、二人で一つなんですよーっ。カップルが交互に端っこから食べていくと、永遠に両想いでいられるという伝説があるんですよねーっ」

 とのたまって、店員さんは笑顔で去って行った。
 ほうほう。この店は最近オープンしたばっかだってのに、早くも伝説があるのね。

『サヤっち、オレたちもこの伝説にあやかろうぜ!』
『イッツ、レジェンド!!』

 おつむがアレの人は気楽でいいよなぁ。人生楽しそう。

「……まあ、もういいや。ほら、悠人から食べなよ」
「う、うん、ありがとぅ。…………ぁ、甘くってとっても美味しい」

 見ているこっちまで温かい気持ちになってしまう、幸せそうな笑顔。悠人が男じゃなかったら、間違いなく今の一撃でヤラレテいる笑顔だ。

「高坂君も、どうぞ」
「おう」

 俺は、悠人とは反対を頬張る。
 ……ふむ。これはチョコ、カスタード、バナナが入ったクレープか。コクのあるカスタードにほろ苦いチョコ、程よい固さのバナナが見事に調和している。
 悔しいがこの店、味は確かだ。



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