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「のわあああああああ!?」
俺は脊髄反射で立ち上がり、傍にある机の上に出しっぱなしのノート、シャーペン、消しゴムを両手に持ち戦闘態勢をとった。
な、なんだ、この人。朝っぱらから強盗なのか?
だ、だとしたら、ここからどうする。確か、以前テレビで強盗や変質者を撃退するには目を狙えと言っていたから、シャーペンを投げてその隙に捕まえる……? いや。武器を持っている可能性を考えると、逃げて警察を呼ぶべきだろうか……?
「ふふふ、私に物理攻撃は効きませんよ。すべて無効化しちゃいます」
俺が必死で策を巡らせていると、女の子は不敵にそう言った。
なので、
「えいっ」
とりあえず消しゴム投げてみた。
すると、
「あうっ」
惜しいことに狙った左の眼球ではなく眉間にヒットし、女の子は眉間を押さえて苦しむ。
おい、効いてるじゃないか。
「な、何をするのですかぁ。冗談で言っただけなのに……」
「意味わからん。てか、誰だあんた。どうやってココに入って来たんだよ」
物理攻撃が有効だと分かって冷静になり、ここでようやく対峙している相手の姿を確認する。
その女の子は、新雪のように白い肌と腰まで伸びた黒くしなやかな髪が印象的。大きな瞳とスッとした鼻筋、柔らかそうな頬。その柔肌をさらに引き立たせるような、漆黒のセーラー服を着ている。なんつーか、綺麗と可愛いを良いとこ取りしたような人。
どこの制服かは知らないが、学生か?
「えーとですね、私はここから来ましたよー」
その子は半開きのドアを指さす。いやね、そりゃそうなんだけどさ。
俺が反応に困っていると、
「申し遅れました。私、『シガミ』のサヤと申します」
にっこり笑って恭しくお辞儀をした。
「ど、どうも」
その笑顔には、一片の悪意も感じられなかったから。警戒心が僅かに解け、釣られて俺も返事してしまった。
「え、えっと、そのサヤさんとやら。俺に何の用だ?」
不測の事態に備えて、シャーペンは芯を出してしっかり握る。この人が言った『しがみ』が何を意味するのかわからないけど、今はどうでもいいな。
「…………俺に……。何の用、なんだ……?」
「あのですねー。単調直入に申し上げますと――」
サヤさんは笑顔をキープしつつ、
「高坂順平さん。私があなたをお守りします」
そうのたまった。
「…………。は?」
予想外の返答に、思考回路が一瞬停止した。
私が、あなたをお守りします?
「実はですね、突然ですがね順平さん。あなたは三日後に死にます!」
「え?」
この人の言ってること、唐突な上にカオス過ぎて付いていけない。不法侵入しておいて守るって、どういうこと?
「すぐにはご理解いただけないとは思いますが、順平さん。あなたは超が付くほどの不幸体質です。その自覚はありますよね?」
「あ、ああ。ありますよ」
そりゃもう嫌というほどに、自覚がある。
「その不幸があまりに強すぎて、なんと! 本来死ぬはずではないのに、死んでしまうのです」
「嘘!?」
にわかに信じられない。てか信じない。いくら不幸だからって、そこまでは行ってないはずだ!
「嘘じゃありませんよー。その証拠に生まれてこの方、特にこの数年は幸せなことはなかったのでは?」
「そ、そう言われるとロクなことが――いや待て!」
諦めかけていた俺に、一筋の光が見えた。
「去年父さんが転勤した時に、役職が上がったとかで小遣いが増えたぞ。これはいいことじゃないか!」
「ですが……よく考えると、どこかで損をしてませんか? しているはずですよ?」
な、なんだその預言者ぶった口調と瞳は。
まったく、俺が損してるワケないじゃないか。それとは別にちゃんと仕送りだってあるしね。だからこうやって一人暮らしできてるんじゃないか。
そりゃあ色々と物入りだから足りなくて、まとめ買いや小遣いから捻出して凌いでるけど、文句は言えないよね。
「…………ん、あれ?」
そういや、小遣いから生活費を出している。その金額を差し引きすれば…………バカな!! 以前より千円以上、減っているじゃないか!
これを不幸と言えるか定かではないが、損はしている。
「ふふふー。どうやら思い当たる節があったようですねー」
「た、確かに……。お、俺、マズイじゃないか! ホントに死ぬのか!? 死んでまうでるのか!?」
動揺が激しくて舌が上手く回らない。体中から変な汗も出てきた。
「順平さん、大丈夫ですよっ。それを防ぐために、シガミ本部からやって来たんですから」
「…………。あの……」
「はい?」
「色々わからないことだらけなんで、もっとわかりやすく説明してもらえますか? というか、しがみって? あと、不幸で人が死んじゃうの?」
そっちはすべてを知ってる上で話してるけど、こっちはさっぱり。ていうか、納得のいく説明で俺を安心させておくれ。今は冷静を装っているけど、いつまでも保つか自分でもわからないから。
俺は脊髄反射で立ち上がり、傍にある机の上に出しっぱなしのノート、シャーペン、消しゴムを両手に持ち戦闘態勢をとった。
な、なんだ、この人。朝っぱらから強盗なのか?
だ、だとしたら、ここからどうする。確か、以前テレビで強盗や変質者を撃退するには目を狙えと言っていたから、シャーペンを投げてその隙に捕まえる……? いや。武器を持っている可能性を考えると、逃げて警察を呼ぶべきだろうか……?
「ふふふ、私に物理攻撃は効きませんよ。すべて無効化しちゃいます」
俺が必死で策を巡らせていると、女の子は不敵にそう言った。
なので、
「えいっ」
とりあえず消しゴム投げてみた。
すると、
「あうっ」
惜しいことに狙った左の眼球ではなく眉間にヒットし、女の子は眉間を押さえて苦しむ。
おい、効いてるじゃないか。
「な、何をするのですかぁ。冗談で言っただけなのに……」
「意味わからん。てか、誰だあんた。どうやってココに入って来たんだよ」
物理攻撃が有効だと分かって冷静になり、ここでようやく対峙している相手の姿を確認する。
その女の子は、新雪のように白い肌と腰まで伸びた黒くしなやかな髪が印象的。大きな瞳とスッとした鼻筋、柔らかそうな頬。その柔肌をさらに引き立たせるような、漆黒のセーラー服を着ている。なんつーか、綺麗と可愛いを良いとこ取りしたような人。
どこの制服かは知らないが、学生か?
「えーとですね、私はここから来ましたよー」
その子は半開きのドアを指さす。いやね、そりゃそうなんだけどさ。
俺が反応に困っていると、
「申し遅れました。私、『シガミ』のサヤと申します」
にっこり笑って恭しくお辞儀をした。
「ど、どうも」
その笑顔には、一片の悪意も感じられなかったから。警戒心が僅かに解け、釣られて俺も返事してしまった。
「え、えっと、そのサヤさんとやら。俺に何の用だ?」
不測の事態に備えて、シャーペンは芯を出してしっかり握る。この人が言った『しがみ』が何を意味するのかわからないけど、今はどうでもいいな。
「…………俺に……。何の用、なんだ……?」
「あのですねー。単調直入に申し上げますと――」
サヤさんは笑顔をキープしつつ、
「高坂順平さん。私があなたをお守りします」
そうのたまった。
「…………。は?」
予想外の返答に、思考回路が一瞬停止した。
私が、あなたをお守りします?
「実はですね、突然ですがね順平さん。あなたは三日後に死にます!」
「え?」
この人の言ってること、唐突な上にカオス過ぎて付いていけない。不法侵入しておいて守るって、どういうこと?
「すぐにはご理解いただけないとは思いますが、順平さん。あなたは超が付くほどの不幸体質です。その自覚はありますよね?」
「あ、ああ。ありますよ」
そりゃもう嫌というほどに、自覚がある。
「その不幸があまりに強すぎて、なんと! 本来死ぬはずではないのに、死んでしまうのです」
「嘘!?」
にわかに信じられない。てか信じない。いくら不幸だからって、そこまでは行ってないはずだ!
「嘘じゃありませんよー。その証拠に生まれてこの方、特にこの数年は幸せなことはなかったのでは?」
「そ、そう言われるとロクなことが――いや待て!」
諦めかけていた俺に、一筋の光が見えた。
「去年父さんが転勤した時に、役職が上がったとかで小遣いが増えたぞ。これはいいことじゃないか!」
「ですが……よく考えると、どこかで損をしてませんか? しているはずですよ?」
な、なんだその預言者ぶった口調と瞳は。
まったく、俺が損してるワケないじゃないか。それとは別にちゃんと仕送りだってあるしね。だからこうやって一人暮らしできてるんじゃないか。
そりゃあ色々と物入りだから足りなくて、まとめ買いや小遣いから捻出して凌いでるけど、文句は言えないよね。
「…………ん、あれ?」
そういや、小遣いから生活費を出している。その金額を差し引きすれば…………バカな!! 以前より千円以上、減っているじゃないか!
これを不幸と言えるか定かではないが、損はしている。
「ふふふー。どうやら思い当たる節があったようですねー」
「た、確かに……。お、俺、マズイじゃないか! ホントに死ぬのか!? 死んでまうでるのか!?」
動揺が激しくて舌が上手く回らない。体中から変な汗も出てきた。
「順平さん、大丈夫ですよっ。それを防ぐために、シガミ本部からやって来たんですから」
「…………。あの……」
「はい?」
「色々わからないことだらけなんで、もっとわかりやすく説明してもらえますか? というか、しがみって? あと、不幸で人が死んじゃうの?」
そっちはすべてを知ってる上で話してるけど、こっちはさっぱり。ていうか、納得のいく説明で俺を安心させておくれ。今は冷静を装っているけど、いつまでも保つか自分でもわからないから。
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