74 / 142
新居探しⅡ
しおりを挟む
空いた日や休日を使ってちまちまと引っ越し先を探す日々は、僕にとってなかなかに楽しいものだった。
元々部屋の模様替えをするゲームとか、着せ替えゲームとか結構好きだったし、それがリアルに起こっているとなると感慨深いものがある。
どの家にも特色があって、なんなら土地しかないところもあった。1から設計して家を建てることを視野に入れているなんてやっぱりお金持ちだなあとは思うけれど、それもいいなと思ってしまう辺り、僕も二人に染まってきているなあと感じる。それが嬉しくもあり、ちょっと怖くもあった。
有栖は1から建てる方を考えているようで、その参考にするために家々を見ているようだった。冴木さんはどうだか分からないけれど、親馬鹿ならぬ有栖馬鹿なところがあるから、きっと有栖が建てるって言ったら建てるし、既存の家に住むって言ったらそうするのだろう。僕は正直二人の付属品みたいなものなので、二人の決定に従うつもりでいる。雨風が凌げればどこだって住めば都だし。
そんなこんなで今日も家を見に来たのだけど。今日のはそれはそれは凄い見た目の家だった。
地面に建っていると言うより岩に張り付いていると言った方が正しいようなその家は、まさに投入堂みたいだった。一体誰が何の目的で建てたのか全く分からない。
見学前の説明で広い割にめちゃめちゃ安いと思ったけど、外観で何故安かったのかが分かってしまった。
入ってみると、外観ほどインパクトはなく普通の家だった。ただ、一番奥の部屋の壁が本当に何の加工もされていない剥き出しの岩で、管理人さんに聞くと『この家を建てた人が自然を取り入れたいと言ったので、建築会社が家の方を岩にくっつけて建てた』と言われた。
……いや、確かに自然……というか野性味溢れる感じにはなっているけども。もうちょっと他にやり方はなかったのだろうか。現にこうして売れ残って格安になっているわけだし。
木造で風通しもいいので夏は良さそうだ。寒がりの僕は冬に死んでしまいそうだけど。
それと虫が多い。春になりかけの今でさえ普通に虫が入っているので、夏とかどうなってしまうのだろうか。せっかくの風通しがプラマイゼロ、人によってはマイナスになるだろう。
うん、有栖は駄目そう。
周囲を飛んでいるユスリカは害がないけど、有栖は嫌そうに手で払っている。本当に虫嫌いなんだなあ……と眺めていると、ふと目の端に黒い物が映った。
「あ、ゴキブリだ」
「!?」
僕がぽつっと呟いた瞬間、有栖がものすごい速度で僕にしがみついてきた。
「ど、どどどど何処だ!?」
「ちょ、痛い痛い有栖」
そのすらりとした手のどこからそんな力が出るのか分からないが、喉がトンネルなら手がプレス機ということもあり得なくはないだろう。絶賛、僕の肩は折れるか脱臼しそうになっている。
反応だけならお化け屋敷のお化けにびっくりした女の子みたいなのになあ、と暢気に考えていると、ゴキブリがこっちに走ってきたらしく、有栖は大パニックを起こした。声にならない声を上げて逃げ惑う。
僕はというと、そのまま有栖に抱えられて首根っこを掴まれた猫のようにぶんぶんと振り回されていた。
黒い有機物が無機物に変わる頃には有栖は半分泣きべそを掻いていたので、僕が頭を抱いて慰めてあげた。ゴキブリくらい殺さなくても逃がしてあげられたのに、と思うけど、もし僕が魚だらけの水槽に落ちたら……と考えると有栖の気持ちを無視出来なかった。
案の定、その家は二度と行かないことになった。
元々部屋の模様替えをするゲームとか、着せ替えゲームとか結構好きだったし、それがリアルに起こっているとなると感慨深いものがある。
どの家にも特色があって、なんなら土地しかないところもあった。1から設計して家を建てることを視野に入れているなんてやっぱりお金持ちだなあとは思うけれど、それもいいなと思ってしまう辺り、僕も二人に染まってきているなあと感じる。それが嬉しくもあり、ちょっと怖くもあった。
有栖は1から建てる方を考えているようで、その参考にするために家々を見ているようだった。冴木さんはどうだか分からないけれど、親馬鹿ならぬ有栖馬鹿なところがあるから、きっと有栖が建てるって言ったら建てるし、既存の家に住むって言ったらそうするのだろう。僕は正直二人の付属品みたいなものなので、二人の決定に従うつもりでいる。雨風が凌げればどこだって住めば都だし。
そんなこんなで今日も家を見に来たのだけど。今日のはそれはそれは凄い見た目の家だった。
地面に建っていると言うより岩に張り付いていると言った方が正しいようなその家は、まさに投入堂みたいだった。一体誰が何の目的で建てたのか全く分からない。
見学前の説明で広い割にめちゃめちゃ安いと思ったけど、外観で何故安かったのかが分かってしまった。
入ってみると、外観ほどインパクトはなく普通の家だった。ただ、一番奥の部屋の壁が本当に何の加工もされていない剥き出しの岩で、管理人さんに聞くと『この家を建てた人が自然を取り入れたいと言ったので、建築会社が家の方を岩にくっつけて建てた』と言われた。
……いや、確かに自然……というか野性味溢れる感じにはなっているけども。もうちょっと他にやり方はなかったのだろうか。現にこうして売れ残って格安になっているわけだし。
木造で風通しもいいので夏は良さそうだ。寒がりの僕は冬に死んでしまいそうだけど。
それと虫が多い。春になりかけの今でさえ普通に虫が入っているので、夏とかどうなってしまうのだろうか。せっかくの風通しがプラマイゼロ、人によってはマイナスになるだろう。
うん、有栖は駄目そう。
周囲を飛んでいるユスリカは害がないけど、有栖は嫌そうに手で払っている。本当に虫嫌いなんだなあ……と眺めていると、ふと目の端に黒い物が映った。
「あ、ゴキブリだ」
「!?」
僕がぽつっと呟いた瞬間、有栖がものすごい速度で僕にしがみついてきた。
「ど、どどどど何処だ!?」
「ちょ、痛い痛い有栖」
そのすらりとした手のどこからそんな力が出るのか分からないが、喉がトンネルなら手がプレス機ということもあり得なくはないだろう。絶賛、僕の肩は折れるか脱臼しそうになっている。
反応だけならお化け屋敷のお化けにびっくりした女の子みたいなのになあ、と暢気に考えていると、ゴキブリがこっちに走ってきたらしく、有栖は大パニックを起こした。声にならない声を上げて逃げ惑う。
僕はというと、そのまま有栖に抱えられて首根っこを掴まれた猫のようにぶんぶんと振り回されていた。
黒い有機物が無機物に変わる頃には有栖は半分泣きべそを掻いていたので、僕が頭を抱いて慰めてあげた。ゴキブリくらい殺さなくても逃がしてあげられたのに、と思うけど、もし僕が魚だらけの水槽に落ちたら……と考えると有栖の気持ちを無視出来なかった。
案の定、その家は二度と行かないことになった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
23
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる