73 / 142
番外:成人式の話
しおりを挟む
本編と関係のある番外編です。
遊沙がちょっと前にお酒を飲んで酔っ払う描写があったと思うのですが、読者の皆様の中には、
「あれ、プロフィールには19歳って書いてあった気がしたけどいつの間に20歳に……?」
と思われた方もいたと思います。
実は成人式シーズンにその辺りの話を書く気だったのですが(遊沙の誕生日は12月)、タイミングを逃したままずるずる引き摺った結果、書くのを忘れておりました。僕の中では彼はもう20歳だったのでついそのまま書いちゃったんですね。
混乱させてしまった方は申し訳なかったです。と、言うわけで今回はその話です。
――――――――――†
「そういえばお前、誕生日いつなんだ?」
ふと気付いたように有栖が聞いてきた。言われてみれば、その話はしたことがなかったかもしれない。
「え、12月だけど」
僕は何てことなく言ったけれど、言った瞬間有栖と冴木さんが凄い顔してこちらを見た。
ちょっとびっくりする。
「何故言わない?」
「過ぎているじゃないか」
二人とも非難しているような、呆れているような感じだった。確かに今は1月で、僕の誕生日はとっくに過ぎているけれど。
そんなに反応することかなあ。正直自分でも忘れてしまいそうなくらいだし、祝って貰わなくても大丈夫なのだけど。そういうと、二人はぶんぶんと首を振った。同じ表情で同じような行動をするあたり、血は繋がってなくても、ああ親子なんだなあ……と思う。顔の作りは全然違うけど、どこか似ている。
僕が乗り気じゃないのを尻目に、二人はとても手際よくケーキやら何やらを手配してくれる。
「大体、成人式にはどうして行かなかったんだ? 俺はてっきりまだ20にならないからだと思ってたんだが」
「うーん……行く必要があまりなかったから、かな。有栖といる方が楽しいし」
僕がそういうと、有栖はくっついて離れなくなってしまった。喜んでくれたのかな。素直な気持ちを言っただけでも、それを喜んでくれたとしたら僕も嬉しい。
実際会いたい人よりも会いたくない人の方が圧倒的に多いから、そんな気乗りしないところに行って、つまらない大人の話を座って聞くのは時間の無駄だ。人間なんていつ死ぬか分からないし、極端な話成人式中に地震が起こって死んだら本当に何しに行ったのか分からない。
あと服が高い。レンタルでも高いし、買うとなると何十万もかかる。もちろんピンからキリまであると思うから、安いのもあるだろうけど、一日のために買ったり借りたりする気にはなれなかった。
くっついている有栖とそれを穏やかに見ている冴木さんにそのことを簡単に言うと、ならばパーティーは盛大にしようと行ってくれた。パーティーそのものより、そう思ってくれる二人の気持ちが嬉しかった。
冴木さんが張り切って夕食の準備をしてくれていて、有栖はそれを手伝っていた。僕はというと、手伝いを断られた上にこたつにきゅっと押し込まれ、手元にはゲーム類一式が準備されていて至れり尽くせりだった。手伝いは禁止らしい。ただ、二人が働いているのにこたつでゲームする気分にはなれず、そわそわと潜ったり出たりしていた。
食卓に並んだのは、僕の好きな海鮮料理だった。
「こ、これってもしかしてアワビ……!?」
食べたくても食べられない高級品を前にして、僕は珍しく大きめの声を出してしまった。そんな僕を見て、有栖は嬉しそうに頬を緩ませている。
「少ないがフグもあるぞ。……本当はやめようかと思ったんだが、店で調理したものなら大丈夫だろうし、食べたがるかな、と思ってな」
有栖は僕がフグ毒で体調を崩したことを気にしているのだろうが、僕としては食べたくてしょうがないので気にしていない。有栖が言い終わるか言い終わらないかの内に箸が伸びてしまった。
しばらくすると、有栖は何処かからシャンパンの瓶を持ってきた。そっか、お酒も飲めるようになったのか。飲みたいと思ったことはないけれど、飲めるとなるとちょっと興味が湧く。
有栖が三人分入れてくれて、皆で乾杯した。白ブドウのシャンパンで、全然甘くなかったけど、飲めないことはなかった。……ただ、僕にはちょっと早かったかもしれない。
ワインとかビールだと甘くないを通り超して苦いらしいので、もし飲むならチューハイが良いと言われた。
途中から頭がほわほわしてきて、まっすぐ歩きづらくなってきたので飲むのはやめた。
食卓の料理が少なくなってくると、有栖が誕生日プレゼントを渡してくれた。開けてみると中には手触りの良いマフラーが入っていた。
僕が寒がりだからとこれにしてくれたらしい。生地が薄いのにすごく暖かくて不思議だった。きっと良いものなのだろう。
冴木さんからは封筒に入ったお金だった。これで好きなものを買ってくれということらしい。
彼は色気がなくて悪いけど、と笑った。
冴木さんは気遣いが上手い人だから、きっとあげたもので僕が困らないように考えてくれたのだろう。あと、多分だけど有栖のことも。有栖が僕にくれたプレゼントを目立たせるために、彼は物をくれなかったのだろうと思う。食べ物だと僕が嫌がると思った結果、お金にしてくれたのだと。
なんだか、とても幸せな時間だった。御園たち友人も時折プレゼントをくれるけれど、パーティーを開いて貰うのは家族がいた時以来だ。
自然に笑みがこぼれてしまうような、木漏れ日のようなこの場所を、僕はずっと大事にしたい。
残りのシャンパンを酌み合っている二人を見ながら、自然とそう思った。
―――――――――†
(端書き)
余談ですが、有栖があげたマフラーはカシミヤのマフラーです。
遊沙がちょっと前にお酒を飲んで酔っ払う描写があったと思うのですが、読者の皆様の中には、
「あれ、プロフィールには19歳って書いてあった気がしたけどいつの間に20歳に……?」
と思われた方もいたと思います。
実は成人式シーズンにその辺りの話を書く気だったのですが(遊沙の誕生日は12月)、タイミングを逃したままずるずる引き摺った結果、書くのを忘れておりました。僕の中では彼はもう20歳だったのでついそのまま書いちゃったんですね。
混乱させてしまった方は申し訳なかったです。と、言うわけで今回はその話です。
――――――――――†
「そういえばお前、誕生日いつなんだ?」
ふと気付いたように有栖が聞いてきた。言われてみれば、その話はしたことがなかったかもしれない。
「え、12月だけど」
僕は何てことなく言ったけれど、言った瞬間有栖と冴木さんが凄い顔してこちらを見た。
ちょっとびっくりする。
「何故言わない?」
「過ぎているじゃないか」
二人とも非難しているような、呆れているような感じだった。確かに今は1月で、僕の誕生日はとっくに過ぎているけれど。
そんなに反応することかなあ。正直自分でも忘れてしまいそうなくらいだし、祝って貰わなくても大丈夫なのだけど。そういうと、二人はぶんぶんと首を振った。同じ表情で同じような行動をするあたり、血は繋がってなくても、ああ親子なんだなあ……と思う。顔の作りは全然違うけど、どこか似ている。
僕が乗り気じゃないのを尻目に、二人はとても手際よくケーキやら何やらを手配してくれる。
「大体、成人式にはどうして行かなかったんだ? 俺はてっきりまだ20にならないからだと思ってたんだが」
「うーん……行く必要があまりなかったから、かな。有栖といる方が楽しいし」
僕がそういうと、有栖はくっついて離れなくなってしまった。喜んでくれたのかな。素直な気持ちを言っただけでも、それを喜んでくれたとしたら僕も嬉しい。
実際会いたい人よりも会いたくない人の方が圧倒的に多いから、そんな気乗りしないところに行って、つまらない大人の話を座って聞くのは時間の無駄だ。人間なんていつ死ぬか分からないし、極端な話成人式中に地震が起こって死んだら本当に何しに行ったのか分からない。
あと服が高い。レンタルでも高いし、買うとなると何十万もかかる。もちろんピンからキリまであると思うから、安いのもあるだろうけど、一日のために買ったり借りたりする気にはなれなかった。
くっついている有栖とそれを穏やかに見ている冴木さんにそのことを簡単に言うと、ならばパーティーは盛大にしようと行ってくれた。パーティーそのものより、そう思ってくれる二人の気持ちが嬉しかった。
冴木さんが張り切って夕食の準備をしてくれていて、有栖はそれを手伝っていた。僕はというと、手伝いを断られた上にこたつにきゅっと押し込まれ、手元にはゲーム類一式が準備されていて至れり尽くせりだった。手伝いは禁止らしい。ただ、二人が働いているのにこたつでゲームする気分にはなれず、そわそわと潜ったり出たりしていた。
食卓に並んだのは、僕の好きな海鮮料理だった。
「こ、これってもしかしてアワビ……!?」
食べたくても食べられない高級品を前にして、僕は珍しく大きめの声を出してしまった。そんな僕を見て、有栖は嬉しそうに頬を緩ませている。
「少ないがフグもあるぞ。……本当はやめようかと思ったんだが、店で調理したものなら大丈夫だろうし、食べたがるかな、と思ってな」
有栖は僕がフグ毒で体調を崩したことを気にしているのだろうが、僕としては食べたくてしょうがないので気にしていない。有栖が言い終わるか言い終わらないかの内に箸が伸びてしまった。
しばらくすると、有栖は何処かからシャンパンの瓶を持ってきた。そっか、お酒も飲めるようになったのか。飲みたいと思ったことはないけれど、飲めるとなるとちょっと興味が湧く。
有栖が三人分入れてくれて、皆で乾杯した。白ブドウのシャンパンで、全然甘くなかったけど、飲めないことはなかった。……ただ、僕にはちょっと早かったかもしれない。
ワインとかビールだと甘くないを通り超して苦いらしいので、もし飲むならチューハイが良いと言われた。
途中から頭がほわほわしてきて、まっすぐ歩きづらくなってきたので飲むのはやめた。
食卓の料理が少なくなってくると、有栖が誕生日プレゼントを渡してくれた。開けてみると中には手触りの良いマフラーが入っていた。
僕が寒がりだからとこれにしてくれたらしい。生地が薄いのにすごく暖かくて不思議だった。きっと良いものなのだろう。
冴木さんからは封筒に入ったお金だった。これで好きなものを買ってくれということらしい。
彼は色気がなくて悪いけど、と笑った。
冴木さんは気遣いが上手い人だから、きっとあげたもので僕が困らないように考えてくれたのだろう。あと、多分だけど有栖のことも。有栖が僕にくれたプレゼントを目立たせるために、彼は物をくれなかったのだろうと思う。食べ物だと僕が嫌がると思った結果、お金にしてくれたのだと。
なんだか、とても幸せな時間だった。御園たち友人も時折プレゼントをくれるけれど、パーティーを開いて貰うのは家族がいた時以来だ。
自然に笑みがこぼれてしまうような、木漏れ日のようなこの場所を、僕はずっと大事にしたい。
残りのシャンパンを酌み合っている二人を見ながら、自然とそう思った。
―――――――――†
(端書き)
余談ですが、有栖があげたマフラーはカシミヤのマフラーです。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
春を拒む【完結】
璃々丸
BL
日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。
「ケイト君を解放してあげてください!」
大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。
ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。
環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』
そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。
オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。
不定期更新になります。
成り行き番の溺愛生活
アオ
BL
タイトルそのままです
成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です
始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください
オメガバースで独自の設定があるかもです
27歳×16歳のカップルです
この小説の世界では法律上大丈夫です オメガバの世界だからね
それでもよければ読んでくださるとうれしいです
平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
わりかし感想お待ちしてます。誰が好きとか
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
愛などもう求めない
白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
随時更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる