憂いの空と欠けた太陽

弟切 湊

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新居探しⅢ(有栖視点)

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俺が合コンに乗り込んで、それが動画に撮られた後。ほぼ毎日のように雑誌やら新聞やらテレビ局やらの記者がやってきてさすがにうんざりしていた頃、冴木から新居を探さないかと提案された。
よくよく話を聞いてみると、ファンの中には遊沙をよく思わない人もいるし、彼がこれからどんな目に遭うか分からないということだった。俺とあの子が付き合っているなどと事実を言ったところで悪化するだけだろうし、嘘を言ったところで調べられたらすぐにバレて、これもまた事態を悪化させるだろう。記者達はあることないこと報道したり、内容を誇張したりすることも多々あるため迂闊なことは言えない。
冴木の言い分は、そんなことになる前にさっさと表舞台から引いてしまおうということだ。遊沙は現在三年生で、今年も入れて二年通えば卒業となる。そうすれば後は自由だし、三人暮らしならば過度な贅沢をしなければ今までに稼いだ金で暮らしていけるだろう。……新しい家の金額にも寄るが。
冴木が言うには人の目が多い都会から離れて地方、もしくは山に近い土地に住もうと考えているらしいから、今いる家より高くはならないとのことだ。家賃を考えるとここはかなり高いし。

俺は遊沙の意思を尊重したいと言ったが、もう既に了承を得ているらしい。さすが、仕事が早い。遊沙も結構乗り気みたいなので、俺もそれなりに張り切って家を探した。土地だけあってそこに家を建てなければならないところもあったが、俺はどちらかというとそちらの方が好みだった。既存の家だとここは良いけどここは駄目、というところがどうしても出てきてしまう。ずっと住む家ならそういうところはない方がいい。
その参考にと訪れた家の中には虫だらけの所もあって、遊沙がGだムカデだ何だと冷静に言うので俺はその度に彼の後ろに隠れなければならなかった。彼と合法的にくっつけるのは大変喜ばしいことではあったが。
森に近かったり自然豊かだったりするので虫が出るのは仕方ないが、出来るだけ対策はしたい。網戸は必須、隙間もなるべくないようにしよう。

見学の際に遊沙の反応を見ることも忘れない。彼は顔には出さないが、気になるものや好きなものは必ず目で追ったりずっと眺めていたりするので、その反応に慣れれば結構分かりやすい子だ。今回も行く家にバルコニーがあると、そこに行って空を見上げて何か考えている事が多いので、きっと欲しいのだろう。キャンプに行ったときもバルコニーからこちらを見ていたり、入り口横のウッドデッキに座っていたり、今住んでいる家でもバルコニーで紙を焼いていた。俺は広めのバルコニーおよびウッドデッキを設計に加えておく。空を見たいのなら屋根はない方が良いだろう。雨が降ると出られないし腐敗が早くなるが、かといってガラス張りにしても落ち葉が乗って視界が悪くなる。もし屋根をつけるなら開閉式だな。電動だと金が掛かるから手動でいいだろう。

冴木は部屋の収納や水周りを気にしているようだ。彼はマメな性格だし、俺の今までの活動とかをアルバムや記録に残しているくらい几帳面だから、簡素で整理しやすい構造が良いと思う。あとあまり広すぎる家も考え物かもしれない。埃が溜るのは当たり前なので掃除しなければならないが、広いと全く手が足りない。使わない部屋は物置状態になってしまうし、そんな無駄な部屋を作るくらいならコストを抑えたい。三人しかいないし、そんなに広くなくても大丈夫だろう。

遊沙も冴木も自分の望みをあまり言わない方だし、二人とも俺のことばかり心配してくれる。俺だって子供じゃないし、二人が言わないならこちらから探して望みを叶えてあげなければ。
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