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第5話

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 夕飯を食べ終えると、慎二はソファに座ってテレビを見ていた。
 彼とこうやって暮らすのも、あと一週間か。
 僕は、慎二の横顔を見つめながら思いを馳せていた。

「……那月? 一緒に見る?」

 慎二が僕の方を向いたので、彼と目が合う。
 いつもならすぐ自室に戻る僕が、リビングで突っ立っているのを見て、気にかかったんだろう。

 普段なら、きっと断ってる。
 距離が近づけば近づくほど、彼が僕のことを好きなんだと錯覚しそうになるから。
 しかし、今日の僕は頷いた。

「って、俺と一緒は嫌だ……って、えっ!? マジで?」

 慎二がゴニョゴニョと何かを呟いた後、唐突に大きな声を出したので、僕の肩はビクリと震えた。
 大きな声や音は嫌いだ。特にいきなりだと怖い。でも、それはあまり表に出したくない。

「慎二が誘ってきたんじゃん……」

 僕は、そのお世辞で誘ったような驚き方に不満げな顔を浮かべた。
 一緒にテレビ見たがるのって、そんなに驚くこと?
 

「嫌なら部屋に戻りますけど?」
「いっ! 嫌じゃない、嫌じゃない!」

 慎二は、僕が座るスペースを空けて、トントンとソファを叩いてくれた。
 僕は「どーも」と、ソファに腰を下ろす。
 ああ、僕今すごい嫌な態度取っちゃってる。

「今日はどうしたの?」
「えっ、どうって……?」
「いつも夕食終わったら、すぐ部屋に籠ってるから」

 慎二は、僕を不思議そうに見つめてくる。

「それに、今日は朝からちょっと様子が変というかなんというか……」

 今朝と言うのは、僕が佐々木さんを殴ったことだろうか。
 いやその前、慎二に会いに行ったところからいつもの僕の行動とは違っただろう。
 しかし、一度も番に抱いて貰えない発情期を過ごしたオメガが、その発情期明けにいつもと様子が違うのは、不思議なことではないだろう?

 それなのに、なんて残酷なことを聞くんだろう?
 口から恨み言が出てしまいそうだ。

「え? 今日そんなに変だった? 発情期明けでちょっと情緒不安定になってたかも」
「……ッ、そうか。体調には気を付けるんだよ」

 発情期という単語を出すと、慎二が少し動揺した。
 僕は昔、発情期に抱いて欲しいと慎二に、何度か頼んだことがあった。
 しかし、僕はその全てを断られていた。

 だから、その罪悪感があるのかもしれない。

「それよりも、那月は見たい番組ある?」
「いや、何でもいいよ」

 露骨に話題を逸らされた。でも、僕もそっちの方が都合がいい。
 それよりも、今日から思い出作りの一週間は始まっているんだ。今日は月曜日。つまり、六日後の日曜日までに、出来るだけ慎二との思い出を作る。

 まず今日は、慎二と手が繋ぎたい。
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