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番外編
2021: I am on duty.
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2021年7月。
防空警戒待機。
日本の領空に接近する外国機が確認された場合、5分以内に戦闘機を発進させ、領空侵犯を未然に防ぐ任務だ。
午後10時。
近間恵介3等空佐はバディの岡野と共に夜間待機についていた。待機所には他に、バックアップ要員のパイロット2名と飛行管理員の女性自衛官が1名いる。
いつ緊急発進を命じられるか分からないが、常時緊張もしていられないので、待機中はのんびりしたものだ。
馬鹿話をしたり、テレビを見たり漫画を読んだり、スマホをいじったり。昇任試験の勉強に励んだり、仮眠を取ることもある。
ただし、即応体制を維持するため、仮眠中も飛行服と航空靴は絶対に脱いではいけない機規則だ。
「やばい、めっちゃ可愛い」
岡野は先ほどからスマホを見ながらニヤニヤしている。
ソファで新聞を眺めていた近間は、自慢したいんだろうなと察して岡野に話しかけた。
「子供? 写真見せろよ」
「見たいんすか?」
「見たいみたい」
子供は好きなので、見たいのは嘘ではない。
近間が話に乗ると、岡野はベストショットを探すべくタップを繰り返した後、スマホを両手で差し出してきた。
発表会なのだろう、ピンクのドレスを着た女の子がグランドピアノの前ではにかんでいる。
「可愛いな、おまえに似てる」
「そっすか? 嫁は自分に似てるって言ってますけどねー」
岡野は満足したのか、スマホをしまって近間を見た。
「ジョーは結婚とかしないんっすか?」
パイロットはタックネームと呼ばれるあだ名を持っており、仲間同士ではタックネームで呼び合うことが多い。ジョーは近間のタックネームで、岡野はコンゴだ。
「相手はいるけど、結婚はまだ先かな」
「そっすかー。子供、大変だけどすっげえいいっすよ。嫁は結婚すると可愛げなくなったけど」
「はは。あ、姪っ子の写真ならあるけど、見る? 去年生まれたばっか」
「見たいっす!」
近間がスマホを取り出した瞬間、待機所の電話が鳴った。
飛行管理員の水原2尉がすぐさま受話器を取り、メモ片手に応対する。
電話を切ると強張った声で告げた。
「国籍不明機が、大陸側から尖閣諸島方向に向けて東シナ海を飛行中です」
近間は岡野と目を合わせた。
先ほどまでだらしなく笑っていた岡野は真顔になり、目には強い光が宿っている。
自分も同じような顔つきをしているのだろう。
このまま日本の防空識別圏に入れば、緊急発進指令がかかる。
近間は身体をほぐすために大きく伸びをして、息を整えた。
飛行服の胸ポケットを無意識に押さえる。
そこには、直樹がくれた飛行御守りが入っている。
立て続けに対象機の進路情報が何度か入った後、防空指令所とのホットライン電話が鳴り響いた。
水原2尉が右手で真っ赤な電話を取り上げ、同時に左手を緊急発進ベルに伸ばした。
高い声で告げる。
「スクランブル!」
この時のために毎日厳しい訓練をしている。身体は反射で動く。言葉は必要ない。
岡野が待機所の扉を叩き壊す勢いで開き、二人は弾丸のように飛び出した。
格納庫にはスクランブルのベルが鳴り響いている。
近間はF-15戦闘機に向かって、全速力で疾走する。
静かに佇むF-15のグレーの機体は闘志を漲らせるように輝いている。
飛ぶようにハシゴを駆けのぼり、コックピットに滑り込んだ。後から続いた整備員が身体をハーネスで固定してくれる。ヘルメットをかぶり酸素マスクをつける。
格納庫の扉が開くと、灯火がきらめく滑走路が目に入った。
コンソールの無数のスイッチを指先で弾いていく。
エンジンがかかり、大きな獣が眠りから目覚めるように機体が震えた。
整備員が、「REMOVE BEFORE FLIGHT」と書かれた赤い布を全て取り払ったのを確認する。車輪のストッパーが外される。離陸準備完了だ。
近間は管制塔を無線で呼び出して離陸許可を得たあと、管制官の指示に従って滑走路に出た。
今夜は天気が良く、雲はない。風も少ない。
操縦桿を握り、一気に機体を加速させた。
離陸の浮遊感は一瞬だ。
アフターバーナーを焚いて、フルパワーで濃紺の夜空に駆けあがっていく。
身体にGがかかる。眼下の沖縄のきらめきはすぐに小さくなっていく。
指示高度まで上昇すると、近間を追ってすぐに離陸してきた岡野と共に2機編隊で尖閣諸島を目指した。
真っ黒な闇の中を進む夜間飛行では、管制官の指示と計器が道しるべだ。
那覇防空指令所の要撃管制官から情報が入る。
「対象機、方位100、速度420、高度2万。高度2万5千を維持し、そのまま真西に向かってください」
「ラジャー」
近間は応答して斜め後ろを飛ぶ岡野を見る。岡野がハンドサインで「了解」と応じる。
しばらく飛行していると、尖閣諸島の魚釣島南東約30kmの位置で、コックピット内のレーダー画面に点滅する光が現れた。
レーダーが対象機を補足したのだ。
コックピット内は1人きりだが、防空指令所からの通信が絶え間なく続いていて、うるさいくらいだ。
「対象機、距離約10マイル」
管制官からの連絡に近間はコックピットの外に目を向ける。
近間は視力が良い。10マイルなら夜でも目視できる距離だ。
360度の夜空。
何物にも遮られない満天の星が輝き、青白い月が孤高の女王のように冴え冴えと浮かんでいる。
こんな時だが、感動的なほど美しい光景だ。
直樹と二人で見られたら最高なんだけどな。
そんなセンチメンタルなことを思ったのは一瞬で、近間の眼は闇夜を縫うように飛行する1機の航空機に釘付けになった。
薄いグレーの細長いシルエットが月光を不気味に反射する。
「コンゴ、目標確認したぞ」
「え、どっちすか」
「5時方向。中国軍、H-6爆撃機だ」
しばらく間を置いて、岡野が答えた。
「見えました」
爆撃機は尖閣諸島に直進するのではなく、時折針路を変えながら、防空識別圏内を悠々と飛行している。
ミサイルを搭載した攻撃機だ。
いつでも攻撃してくる可能性がある。
「こちらは日本国航空自衛隊。貴機の識別を要求する。応答せよ」
防空指令所が中国語で対象機に呼びかけるが、応答はない。
近間は腹に力を込めた。
「ざけてんじゃねーぞ」
領空侵犯など絶対にさせるものか。
操縦桿を握り直し、岡野に向けて言った。
「俺に着いてこい」
勤務を終えた近間は官舎に戻ると、すぐにシャワーを浴びた。
熱いシャワーが、疲れと緊張感を一気に流してくれる。
3LDKの官舎は一人暮らしには広すぎるし、古くてあちこちガタが来ている。
緊迫の夜はとっくに明けて、部屋は明るい陽射しに満ちている。今日も暑くなりそうだ。
シンガポールから帰国してもうすぐ1年になる。
戦闘機パイロットとしての3年のブランクは数か月で取り戻した。
戦闘機部隊での勤務にも、沖縄での一人の生活にもすっかり慣れた。
シンガポールで直樹と同棲していたのは夢だったんじゃないかと思ってしまうほどだ。
ニュースを見ながら、トーストと紅茶の朝食を取っていると、台所に置きっぱなしだったスマホが震えた。
メロディーで直樹からだと分かる。
近間はスクランブルレベルのダッシュでスマホを掴んだ。
「もしもし」
「もしもし。近間さん、おはようございます」
聞き慣れた声なのに、いつも新鮮に聞こえるし、いつも嬉しくなる。
「おはよ。あれ、まだ出勤してないのか?」
「今日は取引先に直接行くんで、ちょっと遅いんです。あと、トイレ行きたいのに父さんが出てこなくて」
シンガポール赴任を終えて、五和商事東京本社勤務となった直樹は、父と姉と同居することを決めた。
確執は簡単に消えるものではないし、家族団らんとまではいかないようだが、何とか普通の生活は遅れているようだ。
「はは。それは仕方ないな」
「中で新聞読むの、止めてくれなくて」
「怒れよ」
「そんなベタな家族喧嘩したくないです。近間さんは、これから出勤ですか?」
「いや、夜勤明けで帰ってきたとこ」
「お疲れ様です。何もなかったですか?」
「1機対応があったけど、粘り強く対応してたら、そのまま国に帰ってった」
防空指令所からの警告と、近間と岡野が牽制するような並走飛行を続けた結果、対象機は領空侵犯はせずに中国に引き返していったのだ。何事もなかったが、緊張の任務だった。
報告すると、直樹は本当に安心したように息を吐いた。
「良かったです」
「おう。それより、週末こっちに来てくれるんだろ? 飛行機何時?」
「午後休取って、金曜の15時55分着のANAです」
近間はカレンダーに時間をメモする。
ミュートして流したままのニュースでは、週末は全国的に晴れだと報じている。
「了解。空港で待ってる」
「早く会いたいです」
直樹が囁くように言い、近間は微笑んだ。
「俺もだよ。会ったら、夏休みの計画立てようぜ」
休暇を合わせて、どこか海外に旅行しようと話していたのだ。
「はい。でもその前に」
「その前に」
「会ったらすぐにキスして、愛し合いたいです」
真顔で言っているのだろう。想像するとおかしくて、そしてくすぐったい。
こんなストレートな言い方する日本人男子もあまりいないのではないか。
近間は声を殺して笑う。
「……」
「なんで黙るんですか?」
「いや、笑ってた。おまえ、変わらないよな」
「当たり前です。近間さんのこと好きな気持ちは、ずっと変わりません」
優しくて甘い告白。
こんな言葉を毎日聞ける俺はなんて幸せ者なんだろう。
正直、遠距離になったら寂しくなったり、シンガポール時代に戻りたくなったりするんだろうと不安だった。
けれど、そんな心配は全くの杞憂だった。
毎日、航空自衛官として国防の最前線で働けて、恋人と楽しい会話をして。月に二度はその恋人と肌を合わせて愛し合うことができる。
すごく、幸せだ。
近間は1,500キロ離れた直樹に話しかける。
「ああ、俺もだよ。ずっと直樹を思ってる。ほら、そろそろトイレ行けよ」
「ぶはっ、なんで最後笑わせるんですか」
「笑いに持っていかないと、おまえ、朝から悶々とするだろ」
「う、確かに。じゃあ、そろそろ切りますね。ゆっくり休んでください」
「おう。仕事、今日も上手くいくといいな。行ってらっしゃい」
防空警戒待機。
日本の領空に接近する外国機が確認された場合、5分以内に戦闘機を発進させ、領空侵犯を未然に防ぐ任務だ。
午後10時。
近間恵介3等空佐はバディの岡野と共に夜間待機についていた。待機所には他に、バックアップ要員のパイロット2名と飛行管理員の女性自衛官が1名いる。
いつ緊急発進を命じられるか分からないが、常時緊張もしていられないので、待機中はのんびりしたものだ。
馬鹿話をしたり、テレビを見たり漫画を読んだり、スマホをいじったり。昇任試験の勉強に励んだり、仮眠を取ることもある。
ただし、即応体制を維持するため、仮眠中も飛行服と航空靴は絶対に脱いではいけない機規則だ。
「やばい、めっちゃ可愛い」
岡野は先ほどからスマホを見ながらニヤニヤしている。
ソファで新聞を眺めていた近間は、自慢したいんだろうなと察して岡野に話しかけた。
「子供? 写真見せろよ」
「見たいんすか?」
「見たいみたい」
子供は好きなので、見たいのは嘘ではない。
近間が話に乗ると、岡野はベストショットを探すべくタップを繰り返した後、スマホを両手で差し出してきた。
発表会なのだろう、ピンクのドレスを着た女の子がグランドピアノの前ではにかんでいる。
「可愛いな、おまえに似てる」
「そっすか? 嫁は自分に似てるって言ってますけどねー」
岡野は満足したのか、スマホをしまって近間を見た。
「ジョーは結婚とかしないんっすか?」
パイロットはタックネームと呼ばれるあだ名を持っており、仲間同士ではタックネームで呼び合うことが多い。ジョーは近間のタックネームで、岡野はコンゴだ。
「相手はいるけど、結婚はまだ先かな」
「そっすかー。子供、大変だけどすっげえいいっすよ。嫁は結婚すると可愛げなくなったけど」
「はは。あ、姪っ子の写真ならあるけど、見る? 去年生まれたばっか」
「見たいっす!」
近間がスマホを取り出した瞬間、待機所の電話が鳴った。
飛行管理員の水原2尉がすぐさま受話器を取り、メモ片手に応対する。
電話を切ると強張った声で告げた。
「国籍不明機が、大陸側から尖閣諸島方向に向けて東シナ海を飛行中です」
近間は岡野と目を合わせた。
先ほどまでだらしなく笑っていた岡野は真顔になり、目には強い光が宿っている。
自分も同じような顔つきをしているのだろう。
このまま日本の防空識別圏に入れば、緊急発進指令がかかる。
近間は身体をほぐすために大きく伸びをして、息を整えた。
飛行服の胸ポケットを無意識に押さえる。
そこには、直樹がくれた飛行御守りが入っている。
立て続けに対象機の進路情報が何度か入った後、防空指令所とのホットライン電話が鳴り響いた。
水原2尉が右手で真っ赤な電話を取り上げ、同時に左手を緊急発進ベルに伸ばした。
高い声で告げる。
「スクランブル!」
この時のために毎日厳しい訓練をしている。身体は反射で動く。言葉は必要ない。
岡野が待機所の扉を叩き壊す勢いで開き、二人は弾丸のように飛び出した。
格納庫にはスクランブルのベルが鳴り響いている。
近間はF-15戦闘機に向かって、全速力で疾走する。
静かに佇むF-15のグレーの機体は闘志を漲らせるように輝いている。
飛ぶようにハシゴを駆けのぼり、コックピットに滑り込んだ。後から続いた整備員が身体をハーネスで固定してくれる。ヘルメットをかぶり酸素マスクをつける。
格納庫の扉が開くと、灯火がきらめく滑走路が目に入った。
コンソールの無数のスイッチを指先で弾いていく。
エンジンがかかり、大きな獣が眠りから目覚めるように機体が震えた。
整備員が、「REMOVE BEFORE FLIGHT」と書かれた赤い布を全て取り払ったのを確認する。車輪のストッパーが外される。離陸準備完了だ。
近間は管制塔を無線で呼び出して離陸許可を得たあと、管制官の指示に従って滑走路に出た。
今夜は天気が良く、雲はない。風も少ない。
操縦桿を握り、一気に機体を加速させた。
離陸の浮遊感は一瞬だ。
アフターバーナーを焚いて、フルパワーで濃紺の夜空に駆けあがっていく。
身体にGがかかる。眼下の沖縄のきらめきはすぐに小さくなっていく。
指示高度まで上昇すると、近間を追ってすぐに離陸してきた岡野と共に2機編隊で尖閣諸島を目指した。
真っ黒な闇の中を進む夜間飛行では、管制官の指示と計器が道しるべだ。
那覇防空指令所の要撃管制官から情報が入る。
「対象機、方位100、速度420、高度2万。高度2万5千を維持し、そのまま真西に向かってください」
「ラジャー」
近間は応答して斜め後ろを飛ぶ岡野を見る。岡野がハンドサインで「了解」と応じる。
しばらく飛行していると、尖閣諸島の魚釣島南東約30kmの位置で、コックピット内のレーダー画面に点滅する光が現れた。
レーダーが対象機を補足したのだ。
コックピット内は1人きりだが、防空指令所からの通信が絶え間なく続いていて、うるさいくらいだ。
「対象機、距離約10マイル」
管制官からの連絡に近間はコックピットの外に目を向ける。
近間は視力が良い。10マイルなら夜でも目視できる距離だ。
360度の夜空。
何物にも遮られない満天の星が輝き、青白い月が孤高の女王のように冴え冴えと浮かんでいる。
こんな時だが、感動的なほど美しい光景だ。
直樹と二人で見られたら最高なんだけどな。
そんなセンチメンタルなことを思ったのは一瞬で、近間の眼は闇夜を縫うように飛行する1機の航空機に釘付けになった。
薄いグレーの細長いシルエットが月光を不気味に反射する。
「コンゴ、目標確認したぞ」
「え、どっちすか」
「5時方向。中国軍、H-6爆撃機だ」
しばらく間を置いて、岡野が答えた。
「見えました」
爆撃機は尖閣諸島に直進するのではなく、時折針路を変えながら、防空識別圏内を悠々と飛行している。
ミサイルを搭載した攻撃機だ。
いつでも攻撃してくる可能性がある。
「こちらは日本国航空自衛隊。貴機の識別を要求する。応答せよ」
防空指令所が中国語で対象機に呼びかけるが、応答はない。
近間は腹に力を込めた。
「ざけてんじゃねーぞ」
領空侵犯など絶対にさせるものか。
操縦桿を握り直し、岡野に向けて言った。
「俺に着いてこい」
勤務を終えた近間は官舎に戻ると、すぐにシャワーを浴びた。
熱いシャワーが、疲れと緊張感を一気に流してくれる。
3LDKの官舎は一人暮らしには広すぎるし、古くてあちこちガタが来ている。
緊迫の夜はとっくに明けて、部屋は明るい陽射しに満ちている。今日も暑くなりそうだ。
シンガポールから帰国してもうすぐ1年になる。
戦闘機パイロットとしての3年のブランクは数か月で取り戻した。
戦闘機部隊での勤務にも、沖縄での一人の生活にもすっかり慣れた。
シンガポールで直樹と同棲していたのは夢だったんじゃないかと思ってしまうほどだ。
ニュースを見ながら、トーストと紅茶の朝食を取っていると、台所に置きっぱなしだったスマホが震えた。
メロディーで直樹からだと分かる。
近間はスクランブルレベルのダッシュでスマホを掴んだ。
「もしもし」
「もしもし。近間さん、おはようございます」
聞き慣れた声なのに、いつも新鮮に聞こえるし、いつも嬉しくなる。
「おはよ。あれ、まだ出勤してないのか?」
「今日は取引先に直接行くんで、ちょっと遅いんです。あと、トイレ行きたいのに父さんが出てこなくて」
シンガポール赴任を終えて、五和商事東京本社勤務となった直樹は、父と姉と同居することを決めた。
確執は簡単に消えるものではないし、家族団らんとまではいかないようだが、何とか普通の生活は遅れているようだ。
「はは。それは仕方ないな」
「中で新聞読むの、止めてくれなくて」
「怒れよ」
「そんなベタな家族喧嘩したくないです。近間さんは、これから出勤ですか?」
「いや、夜勤明けで帰ってきたとこ」
「お疲れ様です。何もなかったですか?」
「1機対応があったけど、粘り強く対応してたら、そのまま国に帰ってった」
防空指令所からの警告と、近間と岡野が牽制するような並走飛行を続けた結果、対象機は領空侵犯はせずに中国に引き返していったのだ。何事もなかったが、緊張の任務だった。
報告すると、直樹は本当に安心したように息を吐いた。
「良かったです」
「おう。それより、週末こっちに来てくれるんだろ? 飛行機何時?」
「午後休取って、金曜の15時55分着のANAです」
近間はカレンダーに時間をメモする。
ミュートして流したままのニュースでは、週末は全国的に晴れだと報じている。
「了解。空港で待ってる」
「早く会いたいです」
直樹が囁くように言い、近間は微笑んだ。
「俺もだよ。会ったら、夏休みの計画立てようぜ」
休暇を合わせて、どこか海外に旅行しようと話していたのだ。
「はい。でもその前に」
「その前に」
「会ったらすぐにキスして、愛し合いたいです」
真顔で言っているのだろう。想像するとおかしくて、そしてくすぐったい。
こんなストレートな言い方する日本人男子もあまりいないのではないか。
近間は声を殺して笑う。
「……」
「なんで黙るんですか?」
「いや、笑ってた。おまえ、変わらないよな」
「当たり前です。近間さんのこと好きな気持ちは、ずっと変わりません」
優しくて甘い告白。
こんな言葉を毎日聞ける俺はなんて幸せ者なんだろう。
正直、遠距離になったら寂しくなったり、シンガポール時代に戻りたくなったりするんだろうと不安だった。
けれど、そんな心配は全くの杞憂だった。
毎日、航空自衛官として国防の最前線で働けて、恋人と楽しい会話をして。月に二度はその恋人と肌を合わせて愛し合うことができる。
すごく、幸せだ。
近間は1,500キロ離れた直樹に話しかける。
「ああ、俺もだよ。ずっと直樹を思ってる。ほら、そろそろトイレ行けよ」
「ぶはっ、なんで最後笑わせるんですか」
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・理性が強め。隠れコミュ障。
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よろしくお願いいたします。
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