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第八章 寂しがりやに、さようなら
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このソロ曲は、もう何度も歌っている。スターレットそれぞれの持ち歌を作るにあたって、どんなイメージの曲がいいかとマネージャーに聞かれたとき。「むしろ感情を込めないほうが強く心に響く歌詞と曲調を」と、生意気な要求をしたのは正解だった。
ひどくニュートラルな気持ちで歌うことができる。自分の中にいる氷の女王を刺激する必要がない。そのことが、カナエにとっては何よりもありがたかった。
カナエが氷の女王の存在に気づいたのは、三年前。
理由はわからないが、自分の中に異質な存在がいること。
それが決して外に出してはいけない危険な存在であること。
封印し続けるためには、笑ったり、喜んだり、泣いたりというような、ごくごく自然な情動を常に抑えなければいけないということ。
その事実を当たり前のように受容し、当たり前のように順守してきた。つい、この間までは。
――カナエちゃん、やっと見つけた!
マコトに出会って、思い出してしまった。小学生のときに、異世界で不思議な冒険をしたこと。その旅の果てに、自分の意思で氷の女王を体内に封印したこと。
――みんな君に会いたがってる! みんなで君を探してたんだ!
覚えていないはずの仲間が、堪らなく恋しかった。知らないはずの誰かが、無性に愛おしかった。
――なにかあるなら、絶対に助けるから!
助けてほしい。一緒にいたい。人目もはばからずに大声で叫び出したい気持ちを、唇を強く噛み締めて必死に堪えた。
もっと心を凍らせなければ。もっと心を殺さなければ。
それが、自分の選択だから。なにもできない自分が仲間のためにできる、たったひとつのことだから。
「……大丈夫、大丈夫」
今まで何度も繰り返し繰り返し呟いてきた言葉を、カナエはひとりきりのステージの上でも口にする。歌い始める前に、端から端まで客先を眺めることが、カナエは何よりも好きだった。自分が主導権を握ることができるソロ曲前ということもあって、いつもよりもゆっくりと、軽く手を振りながら声援に応えていく。
――そうして、それを見つけた。
ひどくニュートラルな気持ちで歌うことができる。自分の中にいる氷の女王を刺激する必要がない。そのことが、カナエにとっては何よりもありがたかった。
カナエが氷の女王の存在に気づいたのは、三年前。
理由はわからないが、自分の中に異質な存在がいること。
それが決して外に出してはいけない危険な存在であること。
封印し続けるためには、笑ったり、喜んだり、泣いたりというような、ごくごく自然な情動を常に抑えなければいけないということ。
その事実を当たり前のように受容し、当たり前のように順守してきた。つい、この間までは。
――カナエちゃん、やっと見つけた!
マコトに出会って、思い出してしまった。小学生のときに、異世界で不思議な冒険をしたこと。その旅の果てに、自分の意思で氷の女王を体内に封印したこと。
――みんな君に会いたがってる! みんなで君を探してたんだ!
覚えていないはずの仲間が、堪らなく恋しかった。知らないはずの誰かが、無性に愛おしかった。
――なにかあるなら、絶対に助けるから!
助けてほしい。一緒にいたい。人目もはばからずに大声で叫び出したい気持ちを、唇を強く噛み締めて必死に堪えた。
もっと心を凍らせなければ。もっと心を殺さなければ。
それが、自分の選択だから。なにもできない自分が仲間のためにできる、たったひとつのことだから。
「……大丈夫、大丈夫」
今まで何度も繰り返し繰り返し呟いてきた言葉を、カナエはひとりきりのステージの上でも口にする。歌い始める前に、端から端まで客先を眺めることが、カナエは何よりも好きだった。自分が主導権を握ることができるソロ曲前ということもあって、いつもよりもゆっくりと、軽く手を振りながら声援に応えていく。
――そうして、それを見つけた。
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