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しおりを挟む一希は女子が困っていれば、その子が可愛かろうが、美人であろうが、見向きもされない女子だろうが、そんなこと関係なく手を貸すことを躊躇わないかというとそもそも困っていることにすら気づかずに困っている子に自分が今、困ってる大したこともないことを話して、手伝わせようとするような男だ。
普通は、困っている子にそんなことを頼んだりしない。先に困っている子を手助けするところのはずだが、一希は違う。助けさせるのだ。
「助かった。ありがとう」
「いいよ。あの、もしだったら、こっちを……」
手伝ってほしいと女子が言う前に用は済んだとばかりに一希はいなくなっているのも、いつものことだ。
あまりにも素っ気なく居なくなるせいで、あり得ないと茫然自失になる女子は多かった。それか、そんな態度をされて怒る子もいたりしたが、一希がそれに気づくことはなかった。怒られようと困られようとも、気にしないのだ。
ただ、自分が困っていることを解消できれば、それでいいのだ。
そのため、あっさりといなくなる一希に呆然自失になっている女子を見つけると千沙都が、声をかけずにはいられなくなった。
「私でよければ、手伝おうか?」
「い、いいの?」
「もちろん」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
千沙都は、手伝わせるだけ手伝わせて、さっさといなくなる幼なじみを何度見たことか。覚えていないほど、あの男がやらかしているのは明らかだ。そのたび、残されて途方に暮れている女の子の手伝いをしたかわからない。
怒鳴り散らす子を落ち着かせる方が中々大変だった。それを通り越して、千沙都に怒鳴り散らす女子もたまにいたが、今回の子はよくあるパターンの女子だった。
「神山さんって、猿渡くんの幼なじみ何だよね?」
「うん。ただの幼なじみ」
これまた、よく聞かれることをその子から聞かれることになった。
「いつも、あぁなの?」
「そうだね。自分のことで困ったことが解消すると他はどうでもいいとこは、いつものことかな」
「……自分がよければいいんだね」
「そうだね」
「神山さん。大変だね」
優しいところが一切ないことを思い知った面々は、それでみんな現実を思い知ったようだ。恋心を冷めさせるのが、一希はとても上手い男だ。
一希は、日頃の行いによって、モテない街道まっしぐらなことになっているのだが、そもそも自分が何をしたかを全くわかっていないせいで、カレシにも、友達にも絶対にしたくないと思われていることにすら全く気づけていない。とても残念な人間だ。
そのうち、千沙都が幼なじみだとわかると彼女のところに一希のことで色々聞きに来るのだが、千沙都がいないところで一希が自己中っぷりを披露したあとのせいで、千沙都に同情する者ばかりだった。
「神山さんも、大変ね」
「犬好きに語ればいいのに」
「違うわよ。語れる相手が、そもそもいないんだって語るだけで聞く気がないんだもの」
「あー、なるほど」
「あれじゃ、いないわよね」
すっかり、見た目だけがいいのに中身が最低最悪過ぎると有名になったようで、千沙都はそんな人たちに同情されていた。
千沙都にやたらと犬のことを話そうとするのを邪魔するように女子会をしていることが増えて、中学校の時に部活を引退してからは、中々に楽しい日々を送っていた。
千沙都は友達が増えていくことになり、一希は女子から遠巻きに見られたり白けた目を向けられることになったが、それにも本人は気づいていなかったようだ。
彼の無類の犬好きをよく知るとそうなるようだ。
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