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しおりを挟む色んな面で迷惑を被っているのは、一希の家で飼われている柴犬だと千沙都の家族は思っている。
雄犬で名前は、麻呂サン。麻呂だけではなく、サンまでが柴犬の名前だ。その名前も、立派な麻呂眉をしていて、柴犬を飼うのが3代目なことを表していたりする。わかりやすいが、名前と数字が組み合わさったものを彼の家族は、これまでつけているのを千沙都は知っていて、これまで飼っていたのも、みんな柴犬だったことも知っている。
「麻呂サンがさ」
一希は、よく千沙都に学校で愛犬の話をしていた。周りはその名前の由来を知らないせいで、愛犬をさん付けで呼んでいると思われていた。見た目も相まって、ちょっと可愛いところがあるとか思われていたようだが、一希はそれに全く気づいていなかった。
彼は愛犬の話題を話すのに夢中で、一方的に自慢したいだけなのだ。彼は聞いてくれる人が、愛犬や他の動物の自慢話をし始めるとそれを聞く気が全くないため、すぐに離れるような人だ。そのため、一希の愛犬自慢を聞く者は次第にいなくなって、最終的には千沙都しかいなくなるのが、いつものことになっていた。
それに巻き込まれている千沙都は……。
(またか。私は、犬より猫の方が好きなんだけど、語られたって大して楽しくないのよね。麻呂サンがいい犬なのはわかるけど。でも、私は猫がいいのよね。……友達を作るのにまた失敗したみたいね)
語れる相手がいなくなると最後は千沙都のところに一希が寄って来て話していた。
犬好きなら、喜ぶことでも千沙都は全く楽しくないのだが、犬好き仲間が一希は少ないのだ。少ないというか、気軽に愛犬の話ができる友達がそもそもいないせいで、幼なじみの千沙都に話すのだが、ちゃんと聞いていようとも、聞いていなかろうとも、彼は……。
「まぁ、お前に話してもわかんないよな。犬好きじゃないんだし」
「……」
(なら、犬好きに語ればいいじゃん! あ、そんな友達がそもそもいないのか)
一希に嫌味を言われるたび、そんなことを心の内で思っていた。もう、内心ではボロクソに言いまくっているが、千沙都はなんでもない顔をしていたから、幼なじみには伝わらなかったようだ。いや、もとより鈍いのだから、言ったところで伝わりはしなかっただろうが。
そのため、見た目が格好いいのに愛犬を麻呂サン呼びしているとなり、可愛いところがあると思われて、密かに人気がある男子生徒となっていたはずだった。
だが、そのことを幼なじみは全く気づいていない鈍感過ぎるところがあった。そう、色んなことで自己中すぎるのだ。
まぁ、密かに人気があっても、よくよく彼を知ることになるとそれでも付き合いたいかというと大概が、ご遠慮願う分類に振り分けられるのは、あっという間のことだった。幼なじみに対する態度からでもわかるはずだ。彼は自分のしたいことしかしないし、それに相手を巻き込んでも自分が巻き込まれるのは嫌いで、何もしないような男なのだ。
それこそ、一希の性格が最悪なだけだ。自分大好きなナルシストではないが、犬のことなら誰にも負けないという自負もある。俺様な自己中だとしても、顔がいいとそれも許されるかというとそんなに甘くはないことの方が多いようだ。
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