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第3章
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しおりを挟む数日して、コルラードは学園で作っていた物よりも素晴らしい物を完成させた。
キャトリンヌは、その出来栄えに目を輝かせていた。その周りに同じように妖精たちが集まって、同じように目を輝かせていた。
我先にとではなく、順番を守っていた。見終わった妖精たちは、見たものについて話をして盛り上がっていた。
そんな光景をこれまで、フォントネル国では見たことがなかったはずだが、数日でオギュストですらすっかり見慣れた。
ここでは、それが普通になり始めていた。いや、ここだけでなく、この国の妖精たちみんなが行儀よくなり始めていた。
「あの、これも、作ってみたんですが……」
「それは……?」
初めて見るもので、オギュストは首を傾げた。この国では、見たことがなかったのだ。
なにせ、この国では花を切って飾るということをしない。必要あって花を摘んだりするが、ただ切り花を飾るなんてことをしないのだ。
そのため、部屋に飾るにも鉢植えのままで飾るのが当たり前になっているが、それもあまりしない。自然に咲いているものを愛でるのが一番だと思っているのだ。
「壁掛けです」
「それ、可愛い!」
「これも、フィオレンティーナ様がアイディアを出してくれてたんです」
寄せ植えとなっていて、フォントネル国の鉢物とは異なっていた。妖精たちは、楽しげにしていた。選ばれたものとそうでないもので喧嘩の1つも起こりそうなものだが、平和そのものなのもオギュストは初めてのことだった。
「フィオレンティーナ様が……?」
「はい。学園の花のことも、そうです。字の読み書きが、出来ない時から絵を描いてくれてて、それ以外にも読み書きもできるようになれば、もっと色んな仕事ができるからって教えてくださったり、敬語もそうです。刺繍も、親方や他の庭師の奥方たちが教わったりしていました。庭師たちの家族みんなに色んなこと教えてくれたんです」
「……そうか」
彼女は、そういう女性のようだ。
オギュストは、フィオレンティーナのいる部屋の方を見た。リュシアンがつきっきりで側にいる。フィオレンティーナの養父となったが、オギュストよりやはりリュシアンとの相性がいいようだ。
それでも、仮の婚約者だ。緊急事態とはいえ、リュシアンは未成年であり、泊まり込みをするのにも王族として色々ある。
その辺を特例にするのも王であり、父親の務めなのだが、最初にそれを頑なに認めなかったのは、他の王族から1人くらいは婚約者に選ばれると思いつつも、駄目だったらリュシアンだけになるのを牽制したかったようだ。
おかげで、すっかりタイミングを逃した王は、リュシアンにずっといるように言わないままになって、リュシアンは行ったり来たりしている。
そのことで、貴族たちが王に進言しているが、祈るのに忙しいとして、聞こうともしないのだ。
そのせいなのか。全く変化は見られないままとなっていた。めぼしい者たちは、婚約者には向いていないことがわかり、更に途方に暮れていた。
元より一歩も二歩も遅いのだ。そんな兄より、先に出過ぎないようにするのもオギュストは一苦労だったが、今回はそれ以上に鈍かった。
それこそ、庭師たちのことも任せていたら、ここにたどり着けてすらいなかっただろう。それこそ、花の守り手の贔屓にしていた庭師たちだ。利用することに頭を悩ませていそうだ。
だが、あちらのことより、できることをするだけだ。
「これも、飾ろう。きっと、喜んでくれる。何より、妖精たちも側にいられて喜ぶだろう」
オギュストの言葉にコルラードが、心配した。トゥスクルム国には、色々あったのだ。それもあり、どうしたものかという顔をしていた。
「でも、妖精たちが偏るのは……」
「平気。フィオレンティーナ様、みんな、心配。みんな、知らせる」
妖精たちは、フィオレンティーナのことを他の妖精たちにも話して聞かせる気満々だった。そのために選ばれようと選ばれまいと構わないかのようにしていた。
もはや、キャトリンヌは無敵のようになっていた。ジョスランが、ずっと側にいなくとも、コルラードとは慣れたものにもなっていた。何なら親方や他の庭師たちとも、ボディーランゲージだけでも意思疎通ができ始めていた。
「凄いですね。妖精って、そんなこともできるんですね」
凄いなと感心するコルラードに妖精たちは、えへん!と言わんばかりにしていたが、褒められたとキャッキャッとしていて、図に乗るものはいなかった。更には、当たり前のようにするのもいなかった。
オギュストは、それを見て微笑んだ。
妖精の血を引く者たちより、妖精たちの方が一致団結しているように見えてならなかった。
そんな妖精たちにつられるようにこの国の人々の多くが、どの妖精だろうと贔屓しすぎることがなくなっていたが、真逆な道を歩む者も現れた。
妖精たちの方が、屈託なく純粋だったようだ。それこそ、それを体現しているのが、キャトリンヌのように見えてオギュストは変わり始めた国を見ながら、この先を憂いていた。
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