前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら

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第3章

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リュシアンは、時間が許す限り、フィオレンティーナの側にいた。本当なら、ずっと側にいたいが、王が特例として認めてくれないせいで、移動するのに体力を奪われ始めていた。

そんな時にノックの音がした。オギュストが来たのかと思えば、扉の向こうには違う人がいた。


「見習いか。確か名前は……」
「コルラードです。あの、これをお部屋に」
「花かごとそれは……?」
「壁掛けです」
「……これも、考えたのか?」


リュシアンは、それをしげしげと見ていた。妖精たちは、ちらちらとフィオレンティーナを気にして、そわそわしていたが、大人しくしようとしていた。


「フィオレンティーナ様が、アイディアを出してくれていて、屋内、屋外でも飾れるものを考えてくれてたんです」
「そうか。こっちは、私が持つ。そちらを飾ってくれ」
「え? でも……」


フィオレンティーナの部屋に入れる者は限られていた。部屋どころか。屋敷に入れない者もいるようだ。誰とは言わないがいた事に驚いたほどだ。あちらは入れないのではなく、用事を思い出して帰ったことにしたようだが、そんなのを婚約者候補に寄越したらしく、そもそもフィオレンティーナのいる部屋までたどり着けてすらいないのだ。

フィオレンティーナのところに婚約者になろうとして、やって来る者たちは恥をかく危険性があるとわかり尻込みし始めてもいた。

それをコルラードは聞いたようだ。そばに寄っても、近づけない者もいた。頑張れば頑張るほど遠ざかると言えばいいのか。

オギュストは面白いなと見ていたが、そんなこと言っていられなくなっているのだが、自分の屋敷が古い魔法で強化されたようになったのだ。

それで、誰が入れなかったかも密かにチェックされていた。


「君はフィオレンティーナとは、前々から仲良くしていた。入っても大丈夫だ」
「し、失礼します」


コルラードは、花の守り手となったフィオレンティーナに会うのは初めてだった。駆け寄って、その手を取りたいと思ったが、そんなことが許される身分ではない。顔をまじまじと見ることすら、もう難しいのだ。

そのため、そちらを見ていられないとコルラードは飾ることに集中していた。フィオレンティーナが、ベッドから起き上がって見るのに丁度良さそうなところに飾った。

花の守り手となった証の蔦が、ぴくりと反応した。それをリュシアンは、見逃さなかった。


「待て」
「っ、」
「飾ったら、こちらに来てくれ」
「え? あ、はい」


コルラードは、壁掛けをフィオレンティーナの見やすいところに飾って、リュシアンに言われるままに移動した。

すると蔦が、見習いに反応したのだ。


「驚いた。君は、血が濃いのか?」
「えっと、あの、母方にこちらから駆け落ちした女性がいるようですけど」
「駆け落ち……?」


それを聞いて、リュシアンはとある家系を思い浮かべた。それだけ、有名だったのだ。


「“理事長を呼んでくれ。新しい婚約者を見つけた”」
「あ、あの」
「緊急事態だ。君にも、婚約者になってもらう」
「は? え? お、俺が?」


コルラードは、敬語を覚えてから私と言っていたが、俺とつい言ってしまっていた。

すると理事長が、リュシアンの声を聞いてすっ飛んで来た。大慌てで来たのが丸わかりな格好で、コルラードはぎょっとした。

だが、リュシアンは見慣れているのか。それどころではないのか全く気にしていなかった。

そして、リュシアンの話を聞いたオギュストは、この状況を見て頷いた。


「そこの家系なら、血が濃く現れても無理ないな。すぐに準備しよう」
「あの、でも」
「フィオレンティーナ様の命に関わるんだ。あとで解消できる」
「え? 解消できるんですか?」
「私とも、解消できるようにしてある。フィオレンティーナ様が目覚めてから本当の婚約者を選出する。まずは、蕾をつけることが先決だ。花の守り手の命に関わることだ」
「……わかりました」


見習いは、ぷるぷるしながらサインをした。そんなことで、文字を習って来たわけではないのだが、大事な書類にサインすることになって緊張していた。

蔦が震えて、小さな小さな蕾が生まれた。


「よかった」


小さくとも、蕾ができたことに妖精たちは狂喜乱舞した。その喜びようは凄まじいものがあった。

その知らせが瞬く間に国中に広まったのも、妖精たちのなせる技だ。

それに喜ぶ面々だけではなかった。


「は? 花の守り手の婚約者が、庭師見習いに決まっただと?!」
「庭師の見習い風情に負けたってこと……?」


王の息子であるリュシアン以外の王子たちは、その知らせに苛立っていた。


「あいつだけでなくて、見習いの庭師ごときが選ばれるなんて……」
「今回の花の守り手って、人間なんでしょ? 妖精の縁もないんだからさ。仕方がないのかもよ?」
「下手なこと言わない方がいい。花の守り手を侮辱していると取られたら、大変だぞ」
「だけど」
「目覚めたら、変わるさ」


王子たちと違い、キャトリンヌの弟であるアシル・ドルブリューズは、余裕な顔をしていた。

フィオレンティーナの婚約者になれずにいたことで、アシルは腸を煮えさせていた。目の前の従兄弟たちである王子たちと違い、余裕そうにしているが、人間に侮辱されたと思っていた。

彼なのだ。オギュストの屋敷にすら入ることができなかった1人だ。姉が、妖精の血が濃いのに対して、弟のアシルは薄いというよりも、歪んでいるとか。淀んでいると言った方が正しい。

彼は人間が何より嫌いなのだ。妖精の縁もないのに花の守り手になったことも、何かしらあってのことだと勘ぐってすらいた。

更には、誰も彼もが騙されているんだとすら思っていた。

それは全て、フィオレンティーナの側に近づくことすらできなかった屈辱的な目にあってから、なお一層強くなっていた。そんな彼の側に妖精が近づくことはなくなっていたが、アシルは気にもしていなかった。

どこぞの姉と同じことが起きていたが、本人は何が起こっているかに気づいていなかった。

アシルは、姉を嫌っていて寮生活をしていて家にも寄り付かなくなっていたため、彼の両親は息子がそんな風になっていることに全く気づいていなかった。

姉のキャトリンヌは、妖精の血が濃いのもあり、気づいていたが自業自得だと思っていて悪化していくばかりとなった。


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