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第1章
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しおりを挟むフィオレンティーナは、土いじりどころか。花の世話というより、庭に出ることすらするなと両親にきつく言われることになり、婚約破棄が正式に決まった日から、部屋に閉じ込められることになった。
そこまで、されるとはフィオレンティーナは正直なところ思ってもみなかった。
「学園に入るまで、大人しくしていろ!」
「っ、」
ガチャリと鍵まで外からかけられて、フィオレンティーナは愕然としてしまった。
(鍵までかけられるなんて……。それに学園に入るまでって、まだかなりあるのに)
フィオレンティーナは、すぐに部屋の窓からどうにかして外に出れないかと思ったが、がたついていてそこから出入りするのは無理そうだった。窓を割ったり、窓枠を壊してしまえば出れるだろうが、その音で家族や使用人がとんできてしまうだろうことは、簡単に想像がついた。
(庭は、すぐそこなのに)
フィオレンティーナは、庭のことを考えるだけで気がおかしくなりかけていた。部屋から出られないことより、花の世話が全くできないことが、悲しくて辛くて彼女にとって苦痛としか言いようがなかった。
(せめて、お水をあげられたら……)
そんなことを思っていても、フィオレンティーナの部屋には鍵がかけられていて、使用人たちが食事を運んで来てくれる時しか、開けてもらえなかった。
それでもその食事も3食きっちりではなかった。時間も決まってはいなかった。そのタイミングで部屋から逃げたところで、使用人たちが怒られることになって、フィオレンティーナも怒られるだけになりそうだと思って、実行することはなかった。
それまでフィオレンティーナにやらせて何もせずに数年過ごしていたことで、使用人たちは子爵家の家事全般をやることになって、てんやわんやとなったのは、すぐのことだった。
そのため、フィオレンティーナのところに1日1食を運ぶくらいしか、使用人たちがしなかったのは、嫌がらせに他ならなかった。
そんな仕打ちをされていても、フィオレンティーナは花の心配ばかりしていた。窓から外を見て悲しそうにしていると、耐えきれなくなって涙が溢れてきた。
(花の世話をしたい)
フィオレンティーナは自分の心配よりも、庭の心配しかしていなかった。
それをよく心配している者たちが、フィオレンティーナが死んでしまうのではないかと思って気にかけたのは、すぐのことだった。人間が食べれる木の実を届けたりし始めたのも、その頃からだった。
庭のことを気にかけるあまりお腹が空いているのかもわからなくなっていた。
「木の実……?」
そんな、ある日のことだ。窓枠に並べられたそれを見つけてフィオレンティーナは不思議そうにした。辛うじてフィオレンティーナが窓枠から手を出すと届くところに並べられていたのだ。それは、昨日までなかったのをフィオレンティーナは覚えていた。
(昨日はなかったはず)
そんなことを思っていると近くで鳥が鳴いていて、その鳥が届けてくれているとフィオレンティーナは何故か直感でそう思った。
「私にくれるの?」
鳥が鳴くのを見て、フィオレンティーナは泣き腫らした顔をして顔色も悪くなっていたが、久々に笑顔となった。
「ありがとう」
鳥は、代わりに鳴いてフィオレンティーナに伝えているだけだったが、フィオレンティーナが喜んでいるのを届けている者たちは喜んでいた。
その木の実によって、どうにかフィオレンティーナは飢えずに済んでいた。届くたびにお礼を言って、鳥が食べれていないのではないかと心配するほどだったが、それでもフィオレンティーナは人間には足りていないであろうそれを口にして感謝していた。
「ありがとう。でも、無理はしないで」
フィオレンティーナは、そういうところがあった。だからこそ、彼女のもとに必死にその木の実が届けられていたことを彼女が知るのは、かなり後のことだった。
(不思議な味。……これを植えたら、どんな木になるのかな? こんな実がなる木が、この世界にはあるのね。……見てみたいな。一体、どんな木になっているのかしら? こんなに届けてくれているんだもの。そんなに遠くはないはず。遠いたころだとしたら、申し訳なさ過ぎるわ)
お腹がどんなに空いていても、フィオレンティーナがそんなことを考えていることに誰も気づいていなかった。言葉にしていたら、聞かれていただろうが声にしないものはわかりようがなかった。
それこそ、人間からしたら栄養がどんなにあっても、どんなに非常事態だとしても、食べられないような酷い味だったが、フィオレンティーナは鳥が一生懸命に運んでくれていると思って味のことをとやかく言うことは決してしなかった。
(あれから、何日も晴れの日が続いているわ。水が足りていなかければ、庭の花たちが枯れ始める頃ね)
もう、フィオレンティーナは庭の方を見れずにいた。悲しくなって仕方がなくなっていて、考えただけでも切なくなって涙が溢れてしまうのだ。そのため、もう庭の方を見なくなっていた。
日に日にフィオレンティーナは、栄養が足りなくなってしまっていて、痩せていくことになったが、餓死することはなかった。
そのため、学園に入るまで部屋の中でフィオレンティーナは、前世の記憶があるからと学園に入るまでに一通り覚えておいた方がいいことを暗記することにしたが、前世で大学もそれなりのところに合格して勉強していたこともあり、この世界の初等部までのことはすぐに覚えることができた。
余った時間で、中等部で習うことも勉強することにしたが、元気があり余っていたはずのフィオレンティーナも、流石に疲れが顔から消えなくなってしまったが、それでも部屋の中で気絶したり倒れたりすることはなかった。
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