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両親からも、王太子からも、しばらくはゆっくり休んだ方がいいと言われて、他の人からもラクスミは心配されて学園も休むことになった。

特に王太子は、婚約破棄になった話を聞いて心配してくれた。自分が褒めたことがきっかけとなったと思ってのことのようだ。

それと素敵な結婚式にしたがっていた令嬢たちは、ラクスミがとんでもない目にあったことを聞いて、無理に結婚式のことで相談して来ることもなかった。

それには理由があったようで、早くよくなって素敵な結婚になるようにアドバイスをしてほしいと思ってのことだったようで、見舞いの品々とメッセージカードの内容に休みづらいと思っていたのは、内緒だ。


(学園に行ったら、これだけの人たちに相談に乗ってほしいって言われるってことよね。……もう、知り合いの知り合いの知り合いくらいになってきたな。知っている令嬢ならいいけど、ここまで来ると無償でやるのも限界よね)


それこそ、結婚式をやる日に両親が気遣ってくれたが、その気遣いのおかげで、その日が何の日かをラクスミは思い出すことになったが、それに何も言うことはなかった。

ただ、使用人たちが思い出させようとしているとばかりに何とも言えない顔をしていたが、両親が気づくことはなかった。

そこから、しばらくしてラクスミを訪ねて来た人物がいた。


「オプションを全部やったの?」
「そうよ。式自体は、とても素敵だったわ。あんなに素敵な式を見れて、今も幸せな気分よ。私も、あんなお式をやりたいわ」
「……」


ラフールの妹のディピカ・パンディットは留学していて、一時帰国して兄であるラフールとシャンティの結婚式に出て、ラクスミに会いに来てくれていた。

ディピカは、まだ夢を見ているようだと目を輝かせていた。


「でも、残念なのは、ラクスミお姉様が主役じゃなかったことよ」
「ディピカ」
「……あの人が、あそこまで残念な人だとは思わなかったわ。お母様に全部聞いたの。あの人が、そんなことまでさせているとは思っていなかったわ。お姉様になってくれるのを喜んでいた私が、どうかしていたわ。……って、お姉様って呼んだら駄目よね」


ラクスミは今後のこともあるから、苦笑するしかできなかった。そのままでいいとは言えなかった。それをラクスミが望んでも、将来両方か。片方が、それで困ることになるかもしれないのだ。そうはなってほしくないが。


(あの人と結婚するのに夢も希望も持てなかったけど、素敵な義両親と義弟妹ができるのだけが嬉しかったのよね。こんなことになって、本当に残念だわ)


ディピカは、どんなに素敵だったかをキラキラした瞳で語ってくれた。

それを聞いていたラクスミは、やりたかったはずの結婚式のプランだったが、それはそれと割り切ることができた。

それこそ、土壇場で新婦が違う令嬢となったことで、招待客は困惑していたようだ。


(それはそうでしょうね)


ラクスミの方の招待客には、婚約破棄となって結婚式は取りやめたと手紙を出したが、新しい婚約者とその日に結婚する気だとまでは知らせなかった。

でも、調べ上げた人たちが多くいたようで、ラクスミを気遣って様子を見に来たり手紙を寄越したりしてくれていた。

中には元婚約者に仕返しするのにいくらでも手を貸すと言っている面々が多かったが、その人たちにラクスミは丁重に何もしないでいいと手紙を出した。

既に仕返しはしているから、そのうち破滅するだろうと言うとそれを見に来たそうにしている面々が多くて、それに苦笑してしまった。

シャンティの両親は、娘同様に浮かれていた。ラフールと結婚することに賛成しているらしく、結婚式も元婚約者と結婚するはずだったその日のままでやることに賛成したのも、両親だけだったようだ。

出戻って来たばかりのシャンティが、結婚するのを喜ばない親はいないとばかりに娘の擁護をしたようだ。


「幼なじみが、娘の将来を心配してくれただけだ」
「本当にそうよね。理解ある幼なじみでよかったわ」


そのせいで、元婚約者と破棄となったことなど、シャンティの両親は言葉にしなかった。ただ、婚約したラフールのことを褒めちぎった。

それに周りは呆れ返っていたが、色々言われてもやっかみだとか。嫉妬だと思って取り合うことはなかった。


「王太子が認める側近だもの。妬みや嫉妬がないとは思っていないわ」


シャンティは、あれこれ言われていることに気づいて、そんなことを言っていて、言われて騒がれるたび、バレバレな演技を披露してくるので、学園で話題にする者はいなかった。

それでも1人で騒いでいたのは、シャンティだったようでみんなそれにげんなりしていた。

ラフールの両親は、息子が勝手に婚約をして結婚も決めたことから、跡継ぎをラフールの弟にすると言ったことで、シャンティの家に婿入りすることにしたようだ。

シャンティには兄がいたが、あの調子の家族に嫌気をさして、婿入りして実家とは縁を切ると言ったことで、調子いいとトントン拍子に決まったようだ。

ラフールの両親は、当初出すと言った結婚式の費用だけしか出さないと言っていたようだが、シャンティの両親はラフールの家がほぼ出してくれると思って、終始浮かれていたようだ。

ディピカは、兄が婿入りして家と縁を切ってくれたから、嬉しいと笑っていた。彼女のもう1人の兄が、新しく跡継ぎとなったが、それによって令嬢たちに何かと声をかけられて大変そうにしているようだ。ラフールと比べるのも失礼だが、弟の方が本当に優秀だったりする。

それをラクスミは知っていて、学園で令嬢たちに追いかけ回されているのが目に浮かんでしまった。

ラフールは、結婚式をした後は実家とは縁を切ると言われていても、優秀な自分を簡単には切り捨てはしないと思っていたようだ。優秀なのは、元婚約者のラクスミだったのだが、自慢するうちに本当に自分が優秀な気になっていたようだ。

それか、本気になれば自分にもできると思っていたようだ。本当に都合のよい考え方をする。

だが、そんなことよりラクスミは、ディピカの話を聞いてこんなことを思っていた。


(縁を切られたのね。なら、今後が大変でしょうね)


ラクスミは、慰謝料を貰う気はなかったが、ラフールの両親が迷惑料だとして多めにくれた。

ディピカは、それを聞いているのかはわからないが、こんなことを言い出した。


「そうだ。ラクスミ様、私の留学先に遊びに行きませんか?」
「あなたの留学先に?」
「えぇ、ブライダル関係の相談にも乗ってあげてほしいんです。ラクスミ様のこと紹介してほしいって言われていて」


どうやら、それがメインだったようだ。しばらくは、休んでいようと思っていたが、やることがあまりになさすぎると暇なこともあり、ラクスミが両親にそのことを言うと快く送り出してくれることになった。


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