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しおりを挟む母親と一緒にラクスミは帰宅して、父が仕事から帰宅してすぐにその話をした。
「そんなことになっていたとはな」
「申し訳ありません」
ラクスミは、売り言葉に買い言葉で、結婚式どころか。婚約を破棄することになったのを父親に話す時が一番いたたまれなかった。
(でも、このまま我慢して結婚しても、絶対に要所要所にあの幼なじみが出て来るに決まっている。あんなのを両方相手にしていたら、こっちの身がもたないわ。それだけはよくわかるわ)
それでも、結婚間近で、こんなことになったのを父に告げるのが堪えてならなかった。あの子息を選んで婚約させたのは、父なのだ。
「謝ることはない。全く、そんな子息だったなら、もっと早く言っていれば良かったのだ」
「……」
ラクスミは、それに何とも言えない顔をした。
(言うタイミングが見つからなかったのよね)
それこそ、あの子息と婚約させたがっていたのは、それなりにいたようだ。令嬢たちがしたがっていたわけではない。親の方が、そうしようとしていたのだ。ラクスミの父は、その1人だった。
「王太子の側近として有能だと思っていたから言い難かったのだろうが、有能なのが私たちの娘だったのなら、色々変わってくる」
「っ、」
それを言わないようにしていたが、これだけで父にはバレてしまったようだ。
「そうよ。話が色々変わってくるわ。ラクスミが、そんなに申し訳ないと思わなくていいのよ。むしろ、気づかなくて悪かったわ」
「お母様」
「あなたが、自分の結婚式の準備でやつれていくのを見ていたのよ。もっと早く気づいていたら……」
父は、ずっと有能な子息だとラフールのことを思っていたのだ。褒めることのない父が褒めていたのが、蓋を開ければ実の娘が有能だったことに何とも言えない顔をしていた。
それに母も、今日のラフールとシャンティのやり取りを見ていて、やつれてきた娘を心配してくれた。
(そんなにやつれたかな?)
ラクスミは、自分の頬を触った。
「気づいていないのか?」
「えっと」
「ウェディングドレスを着るのに色々気にしているのかと思って言わなかったんだが、やつれているだけだったとはな」
「……」
両親が最初の頃、褒めているのが、どこの子息のことかラクスミはわからなかった。それが、あの子息のことだと気づいた時には、婚約していた。
(婚約した途端、使われることになるとは思わなかったけど。……そもそも、婚約する前に手伝っていたのも、元婚約者のためじゃなかったのよね。最初に見かねて手伝ったのは、王太子のためだったのよね)
側近をしているラフールの酷さに見ていられなくて手を出してしまったせいで、優秀だと言われるまでになるとは思いもしなかった。
そのため、言いづらくなってしまったまま、ラフールはラクスミにやらせると褒められると気づいてしまい、そこから自分でやらなくなってしまった。
「またですか?」
「そうだ。私は、他にもやらねばならないから、忙しいんだ」
「……」
「これくらいできるだろ。やっておいてくれ」
ただですら忙しくしていたラクスミには、勘弁してほしい人でしかなかった。それこそ、他にもやらねばならないことと言っていたが、自慢するのに忙しくしていただけだった。
任せられてやっているわけではなくて、できるからと仕事を王太子から引き受けてラクスミにやらせていたのだ。
「ラクスミ嬢。いつも、すまないな」
「いえ」
王太子にたまに会うとラクスミは、そんなことを言っていた。王太子には全部バレていた。それが、大人たちには、バレていなかったのは、王太子が優秀な人が手伝ってくれるからと褒めていたのをラフールのことだと思ったようなのだ。
それこそ、王太子は側近が優秀だからとは一度も言ったことはない。それをラフールは自分のことだと言っていたようだ。
(最悪な人がいたものだわ。やらせるだけやらせて、手柄は全部自分のものにして、自慢して歩くのだもの。……これから、どうするつもりなんだか。幼なじみが私よりできるようには見えないけど)
そんな人だとわかった時には手遅れだった。それこそ、冷静になってラクスミは今後のことが気になってしまったが、考えるだけ馬鹿らしいとやめることにした。
元より王太子は優秀な人がいると言ってくれていたのだ。元婚約者を介さずに手伝えばいいだけだ。元婚約者のことなんて、気にする必要ない。
「旦那様。ラクスミの考えた結婚式をそのままやる気のようです」
「は? 幼なじみがやりたがっていたのがあったのだろ?」
「それは、酷いと幼なじみに言われたのでやめて、ラクスミの考えたものをやる気でいるようです」
「なんだ。それは、いくら何でもありえないだろう」
父は、それに物凄く怒っていた。母も同じく怒っていたが、ラクスミは……。
「お父様。それに関してはそのままにしておいてください」
「だが」
「私が結婚するから、色々と安くしてくれていたんです。でも、私がいないのにそのままやるなら、請求額は、正規のものになるんです。数倍以上にはなるはずです」
「そうか。それをあちらの家は?」
「私が、夫人に話しておきました。そのままやるなんて、常識的に考えたらできないことですから、止めるだけ止めて、やるなら支払いは息子とそのお相手の家にさせることになるはずです」
ラクスミは、正規の金額がどのくらいになるかを考えて、凄いことになることは目に見えていた。
だが、あの2人はラクスミがオプションで考えていたものをあれこれスタッフに聞いて、全部をやる気になるとは思わなかった。
「へぇ、どれもいいな」
「そ、そうですね!」
「こんなことをやる気でいたのか。それなら、色んなところから評価されるわけだ」
「っ、」
ラフールは、その話を聞いてそんな事を言った。シャンティは、どれもピンときていなかったようだが、ラフールと一緒の時はラクスミの考えたものを褒めたりした。
スタッフたちは、ただラクスミが考えたものと言って話しただけで、金額のことをぼかして伝えていた。
「本当に全部なさるんですか?」
「せっかくの結婚式だ。王太子の側近として、完璧なことものにしないといけないからな」
「そうですとも」
「ですが、全てなさるとなると当初の見積もりよりも……」
「それはわかっている。大丈夫だ」
「見積もり額をきちんと出しましょうか? それからお決めになっても……」
「くどいぞ。払うと言っている。恥をかかせるな」
「そうよ!」
「失礼いたしました。でも、そのようにいたします」
念押しで支払いは大丈夫かと聞いてやることにしたようだが、そんなことを言われて、それ以上はしつこくしなかった。
それをラクスミが、もうやる気はないと言ったことで、勿体ないと利用してラフールとシャンティを笑顔で破滅させることにした使ったようだ。
まさか、ラクスミのやりたかったことで元婚約者と幼なじみの幸せな結婚式が一変する始まりになるとは思いもしなかった。
ラクスミが考え抜いたプランを全部やると破滅しかねないと気づいたのは、そんなことがあってからだった。
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