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第2章 二人のための夜会

第8話 従者社会的抹殺計画

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(よかった。物理的抹殺じゃない……)

 私がホッとしていると、「おーっほっほ!」と高笑いするヴィオラ様。

 なんだろう。ヴィオラ様の悪女になりきれていない感に安心を覚えそうになった私は、いやいや油断しちゃダメだと首をぶんぶんと横に振った。お貴族様は欲しい物のためなら手段を選ばない。金と権力と陰謀が渦巻いているのが社交界なのだから。

「ヴィオラ様はこの部屋に女に飢えた男友達を招き入れ、いやらしいパーティをさせるおつもりですね!?」

 だってドレス破かれたし……と、私はヴィオラ様を鋭い目つきで見上げた。
 すると、彼女は顔を真っ赤にしてあわあわと動揺したではないか。

「ななななんですの⁉ その破廉恥な発想は! わたくしにそんな男友達どころが、どんな男友達もおりませんわ! お友達は女の子だけです!」

(そこまで聞いてない!)

「いやらしいパーティなんて……。あぁぁ……っ! 谷間くっきりのボディアーマーやミニスカートを身に着けるような方ですものね! あなたみたいな思考の方、やっぱり陛下のお傍にいてはいけませんわ!」
「それは陛下の趣味!」

 そこだけは弁明しなければと、すかさず叫ぶ。
 だが、もちろんヴィオラ様は聞き入れてはくれない。

「排除を……。社会的に抹殺を……!」
「ヴィオラ様!?」

 ヴィオラ様はずしっと私に馬乗りになると、なんとドレスを脱ぎ始めたのだ。薄暗い部屋の灯りにさらけ出され、女の私でもドキドキしてしまうほどの白く美しい玉の肌が現れる。思わずガン見してしまうが、これは私のせいじゃない。

「なぜ脱がれて……」
「あなたがわたくしを襲ったことにするのですわ! 女体化したとはいえ、中身は男! わたくしの色香に耐え切れず、無理矢理押し倒してしまったという噂が社交界に広まれば、陛下はあなたを解雇せざるを得ませんから!」

 自信満々のヴィオラ様は、上半身下着姿で色っぽく微笑む。

 なるほど、なかなかに良策かもしれない。私の性別、表向きは男だもんなと納得した。
 だが、しかし。

「この状況はどう見ても、ヴィオラ様が私を襲っているようにしか……」
「え……。はわわっ!」

 そう言われて、ヴィオラ様はようやく現状を客観視できたらしい。数秒遅れて素っ頓狂な声を上げると、急に挙動不審になり、目が右へ左へと泳ぎまくっている。

「ち、ちが……っ! 皆、高貴なわたしくしの発言を信じますから!! たとえあなたのドレスがビリビリで、わたくしが上に乗っている状態だとしても!!」
「自分でもまずいと思ってらっしゃるんじゃないですか」

 せめて八つ裂きになったのが私のドレスじゃなかったら……と、同情したくなってしまうほど、ヴィオラ様はうろたえ、最早半泣きだ。

 体を張って、ずさんな「従者社会的抹殺計画」を実行するほどだ。ヴィオラ様は、きっと公爵家のために必死だったのだろう。
 その気持ちは想像するとなんだか気の毒になってしまい、私はますます彼女のみぞおちを殴って気絶させる気にはなれなかった。

「ヴィオラ様。私、この事は他言致しませんので、もうこれで解散しませんか? そろそろ戻らないと、陛下が心配されますので」
「いいえ! あなた、今からでもわたくしを押し倒しなさい! 億越えのドレスも破ってかまいませんから!」
「いや、しませんよ!」
「男なのに意気地無しですわね!」

 事を穏便に収めようと私が笑顔で提案するも、ヴィオラ様は諦めない。
 そして、その努力の方向性間違ってますよ、と私が言いたくなった時だった。

「アルヴァロ! ここにいるんだろう!?」
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